プロローグ
荒れ果てた校庭を見下ろす女がいた。 ーーそのかつて壮観だった景色が嘘のような、校庭を見下ろす彼女。
今彼女がいる場所は、校舎の最上階の生徒会長室ーーつまり彼女はこの学校の生徒会長なのだが、今の景色をただ無表情に見つめていた。
その時、ドアが蹴破られる様に開いた。 その後、中に入って来たのは、一人の女性だった。 部屋の主である彼女は、それを向かい入れる。
「桐原彩乃⋯⋯貴方、本当にここまで来るとは思わなかったわ」
「川端ことね生徒会長、貴方の支配はもう終わりです!」
「終わり? ⋯⋯ふふ、面白いことを言うのね。 桐原さん、どんな手を使おうと、無駄よ。 この学校は、私の掌の上にあるのだから」
川端ことねの声は氷のように冷たく、部屋は静まりきっていた。 その時、桐原彩乃の視線が、部屋の隅にいる、人物に向かう。 そこには、廃人の様にぐったりと座り込む、男性ーー高坂湊の姿があった。 桐原彩乃は急いで駆け寄る。 その様子に藤宮ことねは眉をひそめる。
「⋯⋯ふん、何しているの? コイツは、私の駒のひとつにすぎないのに」
「会長のことなんて気にしないでいい! 私と一緒に、もう一度立ち上がろう湊」
「⋯⋯彩乃、ありがとう」
桐原彩乃は高坂湊の手を握る。 高坂湊は目を開いた、廃人化していた心と体が少しずつ蘇るのを感じる。 彼女の暖かい言葉と手の感触が、絶望の闇に光を灯すのだった。 その様子を見た川端ことねは一歩下がり、冷たい瞳で二人を見つめる。
「⋯⋯なるほど。貴方のやり方で、この私に抗うつもりなのね⋯⋯いいわ。 全校生徒の前で、私と貴方たちで最後の勝負をする覚悟はあるかしら?」
「もう、怖くない。 湊、私たち一緒なら絶対に負けない」
「うん、彩乃⋯⋯君と一緒なら、俺はなんだってできる!」
「この学校は私の王国。 私の理想に逆らう者はーー粛清する」
ついに、三人の学校をかけた闘いが始まろうとしていた。
学校広場ーー全校生徒が見守る中、激しい闘い末に川端ことねは、倒れた。 策略と憎悪で支配された日々が、終わったのだ。
「私の理想が⋯⋯」
川端ことねの最後のつぶやきは、生徒たちの歓声中に消えていったのだった。




