9.現地調査
シャルロッテの私邸に戻ると、食堂にはすでに昼食が用意されていた。
筆頭メイドのグレーテが、いつもの淡々とした表情で給仕をしている。
「お疲れ様です、お嬢様、レオンハルト様」
「グレーテ、今日の献立は?」
「本日は鶏肉のポワレ、温野菜のサラダ、ポタージュスープ、パンでございます」
「おいしそうね。レオンくん、座りなさい」
言いながら、シャルロッテが自分の席についた。
私は彼女の傍の席についた。
「いただきます」
食事を始めると、シャルロッテが口を開く。
「レオンくん、キミは13分間、全力疾走を維持できる自信はある?」
私は少し考えた。
「・・・正直に言えば、やったことがないので確証はありません。ただ、騎士団では半日以上戦闘を続けた経験もありますので、おそらく大丈夫かと」
「『おそらく』ね・・・」
シャルロッテが呆れたように肩をすくめて、小さく呟いた。
「まったく、自己評価が控えめね・・・」
「?・・・なにかおっしゃいましたか?」
「いいえ、別に。まあキミなら大丈夫よ。」
(・・・根拠のない評価だな・・・)
「それと、もう一つ」
シャルロッテがスープを一口飲んでから続ける。
「ヒポグリフが予想外の行動を取る可能性もあるわ。例えば、薬草を諦めて別の獲物を探すとか、仲間を呼ぶとか」
「その場合はどうしますか?」
「その場合は、臨機応変に対応する。予想外のことが起きるのは当たり前よ。そのための頭でしょう?」
「・・・わかりました。では、午後の下見、よろしくお願いします」
「とりあえず、実際の地形の確認と、最終誘導場所の詳細を調べるわよ。同じ勝つにしても、できれば楽に勝ちたいものね。」
やれやれ、彼女の中では勝ちは確定事項みたいだ・・・足を引っ張ったら何を言われるか分からいないので、せいぜい頑張るとしよう。
午後、私たちは馬で帝都北部へ向かった。
街道を抜け、森を進み、襲撃を待つ地点に到着した。
「まず、ここから渓谷までの地形を確認するわよ。」
シャルロッテと私は馬を降りた。
襲撃予定地点は見晴らしのいい平地だ。
まずはヒポグリフに見つけてもらわなければ始まらないので、開けた土地なのはいいとしよう。
しかし・・・
「襲撃予定地点から、途中の森に入るまでが、厳しいですね。」
私が全速力で逃げたとしても、空から直線的に狙われたら森までに追いつかれてしまうだろう。
「そこは、カスパー達の出番ね。クロスボウを使って、ヒポグリフがすぐに追撃できないようけん制してもらいましょう。」
ふむ、そこは援護を期待するとしよう。
「森に入ったら、木々を利用して渓谷まで逃げ切ってね。」
・・・簡単に言ってくれるなぁと、口に出さずにぼやいていると渓谷の入口に着いた。
渓谷は深く、両側が切り立った岩壁になっていて、幅は最も狭いところで3メートルほどだ。
確かに、翼を広げて飛ぶには狭すぎる。
「地形を確認するわよ」
私達は渓谷の入口から中へ入って行った。
渓谷の底は砂利と岩が混じった地面。足場はやや悪いが、走れないほどではない。
曲がりくねった地形なので、巨体のヒポグリフより小回りの利く私の方が有利かもしれない。
渓谷は8キロ程続いている。シャルロッテはどんどん奥へ進んでいく。
「ここが待ち伏せ位置ね」
シャルロッテが渓谷の奥、やや開けた場所で立ち止まる。
渓谷の出口から700メートルほど手前だ。
「ここなら、ヒポグリフは飛べない。地上を走ってくるしかないわ。おあつらえ向きの地形でしょう?」
「確かに……」
両側の岩壁は高さ20メートルほど。
翼を広げることはできるが、飛び回れるスペースはない。
「キミは薬草を投げ捨てて、この岩陰に隠れなさい」
シャルロッテが傍にある大きな岩を指差す。
「わかりました」
「ヒポグリフは薬草に気を取られて足が止まるはず。その時わたしが迎え撃つわ」
「どうやって仕留めるんですか?」
「いくつか方法を考えているんだけど・・・できれば一撃で仕留めたいわね。」
「……一撃で仕留められますか?」
「一撃で仕留めれなくても、倒すだけなら大丈夫よ。いくつか方法も考えてるし負けるイメージはないわね。」
シャルロッテが自信満々に言う。
(まあ、確かに彼女の実力なら可能だろう)
「渓谷の中なら逃げ場はないから、一撃で仕留められなくても飛んで逃げられる心配はないわ」
「……そうですね」
「では、出口を確認しましょう」
シャルロッテが渓谷の更に奥へ100メートルほど進むと、渓谷の出口に到着した。
出口は狭く、人間なら通り抜けられるが、ヒポグリフの巨体では難しそうだ。
「ここから脱出できるわね。万が一の場合は、ここから逃げる。馬と援護をこの先に待機させておくわ」
「わかりました。カスパーに伝えておきます」
私たちは渓谷を一通り確認し、入口へ戻った。
「よし、地形の把握は出来たわね。明日はキミが実際に走ってルートを確認する。その後、本番まで準備よ」
シャルロッテが満足そうに頷く。
「会長・・・」
「何か問題でもある?」
「本当に一人で大丈夫ですか? 私も戦闘に」
「だから、邪魔だって言ってるでしょう。キミはわたしを信じて、大人しく見てなさい」
「わかりました」
(やれやれ、まあ一度言い出したら聞かない人だからな。だが、護衛騎士として最悪の場合は想定しとかないと・・・)
私は護衛騎士としてどう放たれた弓矢のような護衛対象をどう守るか考えながら帝都へと戻った。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




