7.ヒポグリフ討伐作戦会議
翌朝、シルバーレーヴェ商会へ向かった。
商館はシャルロッテの邸宅から徒歩5分ほどの距離にある。帝都の商業地区に位置する3階建ての堅牢な建物で、1階が受付と応接室、2階が事務室と会議室、3階が高額品の倉庫になっている。
「おはようございます、会長、レオンハルトさん」
受付のレオニーが明るく挨拶してくれる。
「おはよう、レオニー。オットーたちは?」
「はい、すでに会議室でお待ちしております」
私たちは2階の会議室へ向かった。
扉を開けると、商会の幹部たちがすでに集まっていた。
番頭のオットー、情報担当のイルゼ、交渉担当のヨアヒム、護衛隊長のカスパー、経理担当のマルタ、庶務担当のアンナ。
「お待たせ。全員揃っているわね」
シャルロッテが上座に座る。私もシャルロッテの左手側に着席した。
「それでは始めるわ。昨日の魔獣襲撃について報告よ」
シャルロッテが簡潔に状況を説明する。ダイアウルフの群れとの戦闘、そしてヒポグリフの出現と薬草の強奪・・・
「・・・つまり、最近の商隊襲撃事件の犯人はヒポグリフということですね」
オットーが眉をひそめる。
「ええ。そして厄介なことに、ヒポグリフは魔力を帯びた薬草、特にデロティア草に強く惹かれているようね。」
「デロティア草……最近需要が急増している薬草ですね」
イルゼが手元の資料に目を通す。
「帝都の錬金術師や薬師の間で、新しいポーションの材料として注目されています。従来のポーションに比べ回復効果が高いとか」
「その通りよ。回復効果の高いポーションとなれば冒険者はもとより帝国軍の軍事関係まで需要はこれから高まることが予想されるし、当然これからもっと需要が増える。シルバーヴェーク護衛隊でもデロティア草を扱う商隊の護衛依頼が増えるでしょうね」
シャルロッテがオットーを見る。
「オットー、現状は?」
「はい。すでに3件の依頼を受けております。レオンハルトさんからの指示通り、魔力遮断保管庫の使用を徹底させました」
「よろしい。保管庫の費用はシルバーヴェーク護衛隊に請求したわね?」
「もちろんです。あくまで別の商会ですので、請求書を回しております。」
「ヴェルザー伯爵家への報告も済ませました。リーゼロッテ様からは『適切な判断だ』とのお言葉をいただいております」
「あの年増、さすがに判断が早いわね」
(相変わらず母親への呼び方が……)
私は内心で苦笑した。
「ただし、これは当面の対策に過ぎないわ。魔力遮断保管庫を使えば襲われないでしょう。でも、商隊を襲ってデロティア草を奪っていった魔獣は魔力を遮断していても商隊を襲う可能性が高いわ。」
それを受けてヨアヒムが口を開く。
「では、ヒポグリフを討伐するということですか?」
「その通りよ。商隊が好物をもっているとヒポグリフは認知しているはずよ。最悪の場合、あのヒポグリフはデロティア草を求めて無差別に商隊を襲うかもしれない。」
シルバーレーヴェ商会護衛隊長のカスパーが腕を組む。
「しかし、空を飛ぶ魔獣を相手にするのは容易ではありませんね。しかも会長からの情報ではグリフォンよりはるかに手ごわいとか・・・私の部隊では対処できません」
「だから、ヒポグリフを誘い出す。誘い出して、戦いやすい場所に誘導する作戦をたてるのよ。」
シャルロッテが立ち上がり、壁に掛けられた帝都北部の地図を指差した。
「ヒポグリフの目撃情報が集中しているのは、この辺り。大陸公路から少し外れた街道沿いね」
私も地図を見る。確かに、森が密集している地域だ。
「作戦は3段階に分かれるわ」
シャルロッテが指を3本立てる。
「第一段階:誘い出し。デロティア草を使ってヒポグリフをおびき寄せる」
「第二段階:誘導。ヒポグリフが飛べない地形まで誘い込む」
「第三段階:討伐。地上に引きずり降ろして仕留める」
オットーが顔をしかめる。
「・・・恐れながら申し上げますが、そう上手くいきますかな。」
「ヒポグリフの習性を利用するの。グリフォンには『獲物を横取りされると異常な執着で奪い返そうとする』という習性があるわ。ヒポグリフにも同じ習性があると仮定すると……」
「奪った薬草をさらに奪えば、執拗に追ってくるということですか」
イルゼが目を見開く。
「その通りよ。ヒポグリフがデロティア草を奪う瞬間に横取りする。そうすれば、必死で追いかけてくるはず。もし追いかけてこなかった場合は一時撤退して作戦の再検討よ。」
「しかし、もし追いかけてきたとして、それでは空中戦になるのでは?」
カスパーが疑問を呈した。
「だから、飛べない場所まで誘導するのよ。この辺りで飛べない地形といえば?」
シャルロッテが私を見る。
私は地図をみながら答えた。
「……渓谷ですね。この辺りには、深い渓谷がいくつかあります。幅は狭く、両側が切り立った崖。巨大なヒポグリフが飛ぶには狭すぎる」
「正解よ。渓谷に誘い込めば、ヒポグリフは飛べない。地上を走って追ってくるしかないわ」
「なるほど……しかし、渓谷までかなり距離がありますよ。ヒポグリフにおびえて馬はおそらく使えないでしょう?」
「ええ、だから馬は使わないわ」
なぜかシャルロッテが私を見る。
「レオンくん、キミが囮になるのよ」
「……は?」
予想外の提案に私は間の抜けた声を上げるのだった。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




