6.帝都国立図書館
帝都に戻った私たちは、まずシャルロッテの邸宅に向かった。
門をくぐると、執事のフリードリヒが出迎えてくれた。
60代の白髪の老執事で、シャルロッテが伯爵家にいた頃から仕えている人物だ。
「お帰りなさいませ、お嬢様、レオンハルト様」
「ただいま、フリードリヒ。湯あみの準備をお願い」
「かしこまりました。すでに準備させております」
さすがに手回しが早い。
「レオンくん、キミも湯あみしてきなさい。その後食事をしながら打ち合わせをするから。」
「……わかりました」
私は身を清めるために自室に戻った。
湯あみと着替えを済ませた私が食堂に向かうと、シャルロッテはまだいなかった。
まあ女性の身支度は時間のかかるものだ。
しばらくして、シャルロッテが食堂にやってきた。私の方を一瞥して
「前から思ってたんだけど、湯あみは本邸にある浴室を使用して身だしなみを整えるようにして。わたしと一緒にいるんだからもう少し気を付けなさい。」
湯あみと着替えをして来たんだが・・・お気に召さなかったようだ。
「・・・わかりました。以後気を付けます。」
「フリードリヒ、頼むわね。」
「承りました。お嬢様」
食卓には料理長のグレーテが用意した、疲れた体と胃にやさしい温野菜やスープを中心とした昼食が並んでいる。
「さて、とりあえず栄養補給して英気を養わないとね。」
「いただきます」
私は席に着き、食事を始めた。
シャルロッテが書類に目を通しながら話しかけてくる。
「フリードリヒ、オットーに伝言をお願い。明日の午前中にデロティア草の在庫を確認させて。できれば小分けにして持ち運べるように準備しておくように」
「かしこまりました」
フリードリヒが一礼して退出する。
「レオンくん、シルバーヴェーク護商隊への連絡もお願い。イルゼとヨアヒムに状況を説明して、デロティア草を扱う商隊があれば、魔力遮断保管庫を使用するよう指示して。それと、ヴェルザー伯爵家への報告も忘れずに、保管庫の代金はきちんと請求してね。」
「わかりました。すぐに連絡します」
シャルロッテが満足そうに頷く。
「よろしい。では、食事が終わったら図書館へ行くわよ。1時間後に迎えに来るように。」
「では、1時間後に・・・」
私は食事を済ませ、すぐに商会への連絡に取りかかった。
イルゼとヨアヒムへの伝言をフリードリヒさんに頼み、ヴェルザー伯爵家への報告書も作成した。
そうこうしているうちに、シャルロッテを迎えに行く時間を若干すぎていたので、慌てて向かった。
私邸にシャルロッテを迎えに行くと、フリードリヒさんに日傘をさされたシャルロッテが正面扉
の前に立っていた。
「すみません。遅れました。」
「おそい!図書館に行った後、カフェで紅茶をおごってもらうわよ。」
「しがない騎士にたからないでくださいよ。会長は大金持ちじゃないですか。」
「それとこれとは、別よ。この日差しの下で5分も待ったのよ。」
フリードリヒさんが、私にそっと目配せをしてくる。
「・・・わかりましたよ。では、図書館に向かいましょう。」
シャルロッテは満足そうにうなずいて、日傘をフリードリヒさんから受け取る。
フリードリヒさんは同行しないようだ。ついてきてくれた方が助かるのだが・・・
帝都国立図書館は、帝都の中心部にある壮麗な建物だ。
蔵書数は帝国随一で、魔獣に関する資料も豊富に揃っている。
私たちは図書館の受付で、ヒポグリフに関する資料を探していることを告げた。
「ヒポグリフですか・・・魔獣関連の資料は3階の奥になります。ですが、ヒポグリフの資料があるかどうか・・・」
司書の案内で、私たちは3階へ向かった。
魔獣関連の書架には、様々な魔獣の生態が記された書物が並んでいる。
シャルロッテが手慣れた様子で書物を探し始める。
『魔獣大全』・『生息別モンスター辞典』等、司書がヒポグリフに関連のありそうな書籍を出してきてくれる。
「うーん・・・ないですね。グリフォンの記載はたくさんあるんですけど・・・」
シャルロッテが分厚い書物を取り出し、テーブルに広げた。
『幻獣・妖獣大全集』
私も隣に座り、一緒に内容を確認する。
「ヒポグリフ……鷲の頭と翼、馬の胴体と脚を持つ幻獣。グリフォンと馬のハーフとされる。グリフォンは馬を好んで食べるこということから、ありえないもの(天敵と被食者のハーフ)や不可能の象徴とされることもあるが、なにごとにも例外はある。過去に目撃例、討伐例もごく少数ながら存在する。生態はほとんど不明。基本的に肉食・・・」
シャルロッテが読み上げる。
「食性は……やはり肉食が中心ね。でも……」
「ここに書いてあるわ。『ヒポグリフは馬の特性も持ち、植物も食べる。特に魔力の高い薬草類には強く惹かれると言われる』」
シャルロッテが満足そうに頷く。
「やはりそうだったのね。ヒポグリフは魔力を帯びたデロティア草に惹かれて商隊を襲っていたのよ」
「では、魔力遮断保管庫を使えば、襲われる可能性は減りますね」
「ええ。当面の対策としては有効でしょう。でも、根本的な解決にはならないわ」
「習性について……ほとんど不明ですね。かなり希少な魔獣・・・いや幻獣みたいですよ。」
シャルロッテが興味深そうに覗き込む。
「とりあえず・・・ヒポグリフの習性はとりあえず置いといて、グリフォンの習性を調べましょう。グリフォンと馬のハーフならある程度はグリフォンの習性が当てはまると仮定しましょう。」
「ええと・・・グリフォンは獲物を横取りされると、異常な執着で奪い返そうとするみたいですね。」
「ふむ、ヒポグリフにもその習性が当てはまるとすると・・・」
シャルロッテは形のいいあごに手を当て思索を巡らせる。
「あと、空飛ぶグリフォンに戦いを挑むのは愚者の所業と書いてありますね・・・」
「じゃあ、ヒポグリフを誘導して、地面に引きずりおろす。そして飛べない状況を作る・・・これね!」
「しかし、どうやって・・・」
シャルロッテの瞳に彗星の様な輝きがひらめく。
「やりかたは、いまから考える。明日シルバーレーヴェ商会の幹部を集めて会議よ。」
凡人の私には理解できないが、シャルロッテには勝ち筋が見えているようだ。
せいぜい私も彼女の邪魔をしないようにできることを頑張るとするか・・・
とりあえず必要な情報は揃ったようなので、私が引っ張り出した大量の本を棚に戻している間シャルロッテはあまり参考にならなかった『幻獣・妖獣大全集』をパラパラとめくっている。
「ほかに参考になりそうなことがありますか。」
「とりあえず、戦闘に役立ちそうな情報はなさそうね。」
私たちは帝都国立図書館を後にした。
「レオンくん、私はもう一か所よるところがあるから。先に帰ってて。」
「護衛ですから。ご一緒します。」
「あら、貴族女性御用達の宝飾店やオーダーメイドの服飾店に行くんだけど、付き合ってくれるの?男性には居づらいお店にも行くけど、いいのね。」
・・・帝都の高級店街なら危険はないだろう、と自分に言い訳をし
「いえ、ご指示に従います。」
と答えた。
以前シャルロッテのショッピングに付き合い大変な目にあった経験が脳裏によみがえったのだ。
「じゃあ、帰ったら。オットーに明日の会議の手配をお願いしておいてね。」
シャルロッテはあっさりと言い、高級店街の方へと去っていった。
いつもなら私の逃げ腰をあげつらったりするのに・・・
多少いぶかしく思ったが、私は帰路に就いた。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




