4.襲撃場所の確認
翌日、私たちは帝都北部の街道を馬で進んでいた。シャルロッテは黒鹿毛の馬を駆っている。
騎士の私が置いて行かれそうになるくらいシャルロッテを乗せた馬速い。
馬の能力ももちろんだが、シャルロッテの騎乗技術が巧みなのだ。
魔獣の目撃情報が集中しているのは、帝都から北へ半日ほどの大陸公路から少し脇道に入った街道沿い。
森が近く、魔獣が出没しやすい場所だ。
「レオンくん、この辺りね」
シャルロッテが馬を止める。
周囲を見回すと街道の両側には木々が迫り、見通しは良くない。
魔獣が潜むには格好の場所だ。
「被害にあった商隊は、この辺りで襲われたようですね」
「そうね。痕跡を探しましょう」
私たちは馬から降り、周囲を調べ始めた。
街道には戦闘の跡が残っている。荷車の轍、血痕、そして……
「爪痕ね。かなり大きい」
シャルロッテが地面に残された爪痕を指差す。
「狼型の魔獣でしょうか」
「そのようね。しかし……」
シャルロッテが立ち上がり、周囲を見回す。
「何か引っかかるわ。狼型魔獣にしては、被害が大きすぎる気がするの」
「どういうことですか?」
「護衛がついた商隊が全滅してるのよ……狼型の魔獣なら全滅する事例は稀なはず。」
その時遠くから悲鳴が聞こえた。
私たちは顔を見合わせ、すぐに馬に飛び乗り、悲鳴の方向へ馬を走らせる。
街道の先で、商隊が魔獣に襲われていた。
狼型の魔獣が数頭、商隊を取り囲んでいる。
護衛の兵士たちが必死に応戦しているが、押されている。
「行くわよ、レオンくん!」
シャルロッテが馬から飛び降り、片刃の長剣を抜く。
狼型魔獣が私たちに気づき、牙を剥く。
体長は2メートルほど、灰色の毛並みに鋭い牙と爪を持つダイアウルフと呼ばれる魔獣だ。
商隊の護衛たちは魔獣に囲まれ、半ば腰が引けている。
剣を構えてはいるが、明らかに戦意が低い。
「レオン君、右を!」
「わかりました。」
シャルロッテが右にいる3匹のダイアウルフに向かう。
魔獣に剣を向けるが、襲われていた商隊の護衛が邪魔になっている。
「邪魔よ、戦う気がないならあっちへ行きなさい!」
シャルロッテが邪魔な護衛の腰を蹴り飛ばす。
「会長!?」
私が驚いて声を上げるが、シャルロッテは振り向きもせずに魔獣に向かっていく。
(……やれやれ)
私はため息をつきながら、左側の2頭に向かった。
ダイアウルフが飛びかかってくる。私は、剣を一閃させた。
刃が、魔獣の首を斬り飛ばす。
もう1頭が背後から襲ってくるが、振り返りざまに斬り伏せる。
シャルロッテの方を見ると、彼女は3頭を相手に舞うように戦っていた。
剣を一振りする度に、刃が魔獣を切り裂く。
さらに、何の前触れもなくマジックアローが出現し、別の魔獣を貫いた。
無詠唱、しかも予備動作なし。並の魔法使いではこうはいかない。
(相変わらず見事だな)
私は感心しながら、残りの魔獣に向き直った。
私が手を出すまでもなく、残りの1頭も、シャルロッテが鋭い斬撃で瞬時に斬り伏せた。
あっという間に、ダイアウルフの群れは全滅した。
襲われていた商隊の隊員と護衛たちが安堵の表情を浮かべる。
「助かりました!ありがとうございます!」
「まったく、護衛がついていてこの程度の魔獣に後れを取るなんて護衛のないじゃない。シルバーヴェーク護衛隊に依頼しないから、こんなことになるのよ」
シャルロッテが呆れたように言い放つ。
商隊員たちが顔を見合わせる。
「い、いや、その……シルバーヴェーク護衛隊より安かったんで・・・」
「それで被害を出していたら本末転倒でしょ。命はお金で買えないのよ」
(シャルロッテの言い分はもっともだ……しかし、もう少し言い方というものが……)
私は内心で呟いたが、口には出さない。
その時、荷車の陰から商隊のリーダーらしきが現れた。
顔面蒼白で、足が震えている。
「た、助かった……死ぬかと思った……」
男はパニック状態で、ブツブツと呟きながら荷車にしがみついている。
「おい、しっかりしろ!」
護衛の一人が声をかけるが、男は反応しない。
シャルロッテがため息をつき、男に近づき、ものも言わず男の頬を平手打ちした。
パシン!と派手な音を立てる。
「!?」
男が目をもんどりうって地面に転がる。私も驚いた。
「言ってもわからない奴は、ショック療法に限るのわね」
シャルロッテが涼しい顔で言う。
男は頬を押さえながら、ようやく正気を取り戻したようだ。
「いきなりなにをするんだ!!」
「何も言わずに殴ったわけじゃないわ。あなたがパニックで何も聞こえていなかっただけよ」
「いや、でも……」
「うるさいわね。細かいことをゴチャゴチャ言わない。もう一発殴るわよ」
男が口を閉じる。
護衛たちも、助けてもらった手前何も言えずに黙っている。
(……やれやれ)
私は額に手を当てた。
「ケガ人もいるようですし、大陸公路にでるまでご一緒しましょうか?」
私が護衛たちに声をかけると、彼らは「は、はい……」と小さく頷いた。
その時突然、大きな影が私たちを被い、上空から風切り音が響いた。
「なんだ!?」
私が叫ぶと同時に、巨大な影が商隊の荷車に襲いかかった。
鷲の頭と翼、馬の胴体と脚を持つ見たこともない魔獣だ。
「グリフォン・・・ちがう、ヒポグリフ!初めて見たわ。」
シャルロッテが魔獣を見ながら言った。
ヒポグリフは荷車から荷物を掴み、そのまま空へ舞い上がる。
「待ちなさい!逃がさないわよ」
シャルロッテの周りから無数のマジックアローが次々とヒポグリフに向かって飛んでいく。
しかしマジックアローが着弾する寸前、ヒポグリフの周りで魔力を帯びた突風が発生した。
「ちっ!風魔法で防ぐか・・・」
ヒポグリフはゆうゆうと射程圏外へと飛び去って行った。
「……逃げられたわ。」
シャルロッテが悔しそうに呟く。
私は呆然としていた。
「あんな大型の飛行魔獣が……商隊が全滅するわけだ」
「ダイアウルフ程度じゃあおかしいと思ったのよ。立て続けに商隊を襲っていたのはヒポグリフだったのよ。」
言いながら荷車に近づき、奪われた荷物を確認する。
「あの魔獣は何を奪っていったの?」
護衛の一人が答える。
「デロティア草という最近新しく使用され始めたポーションの材料です……最近帝都で需要が高まっている、魔力を帯びた薬草の一種で……」
「魔力を帯びた薬草ね・・・レオンくん、ヒポグリフは基本的に肉食のはずよね・・・」
「多分、そうじゃないですか。頭が鷲ですし・・・」
「役に立たないわね。帝都に帰ったら、ヒポグリフについて調べるわよ。」
自分だって知らないくせに、そのことは棚に上げて他人を叱責できるのはさすがだ。
常日頃の言動から考えるにシャルロッテの心には図書館の様に多数の棚があるに違いない・・・こんな状況だというのに私はとりとめのないことを考えていた。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




