28.事件の黒幕
施設の奥から、一人の男性が歩いてきた。
港湾都市オスティア総督のアントニオ・ダ・コスタだった。
「......総督!なぜ貴方がここに?」
「ふふふ、驚いたかね? 私がここにいるのは当然だ。なぜなら、私がこの研究の後継者だからだ」
「後継者ですって?」
「そうだ。50年前にこの島で研究をしていた魔術師......あれは私の祖父だ」
アントニオは熱を帯びた声で言った。
「私は幼い頃から、祖父の研究記録を読んでいた。人間にモンスターの能力を付与する......なんと素晴らしい研究だろうか!」
総督の瞳に狂気が宿る。
「祖父は帝国魔術学院から追放され、この島で研究を続けた。だが、志半ばで力尽きた......だから、私が引き継いだのだ。祖父の遺志を継ぎ、研究を完成させるために!」
「ご苦労なことね。それであんたはこんな辺鄙な島で狂気の実験を行ってきたわけ?」
「狂気の実験? 違う!この魔術処置を行えば人間にモンスターの能力を付与し自由に操ることができる。私は帝国騎士団に匹敵する軍団を手にしたのも同然だ!!」
「そして、私はモンスターの能力を持つ兵士たちを従え、オスティアを帝国から独立させるのだ!」
「帝国から独立・・・」
「そうだ。帝国はオスティアを軽視している。総督と言っても私には大した権限もない。だが、これからは違う。魔獣の能力を持つ兵士たちがいれば、帝国にも対抗できる!」
調子の外れた高笑いが部屋に響く。
「だが、問題があった。船員達の魔力量では、強力な魔獣の能力を付与できない。せいぜいオーガー程度が限界だ......」
アントニオがシャルロッテを見る。
「だが、君は違う。ヴェルザー伯爵令嬢、シャルロッテ・フォン・ヴェルザー......君の魔力量は桁違いだ。君を被験体にすれば、ドラゴン因子の付与も夢ではない! そして、私の思惑通り、君はここへ来てくれた!」
アントニオが魔法の詠唱を始めたその瞬間―― ガツン!
鈍い音がして、アントニオの額に石が当たった。
「ぐあっ!」
アントニオが詠唱を中断し、額を押さえる。
振り返ると、シャルロッテがもう1つ石を拾って、投擲の構えをとっていた。
「魔術師の詠唱中に攻撃するなんて、非礼にも程があるぞ!」
「なんであんたに都合のいいルールで戦う必要があるのよ」
「き、貴様!くっ・・・ならば!」
懐から奇妙な形のベルを取り出し鳴らした。
「出て来い! 我が僕たちよ!」
廊下の奥から、複数の足音が聞こえてきた。
ドスン、ドスン、ドスン......
廊下から、5体の人影が現れた。
どうやら全員、オーガーの能力を付与された人間のようだ。
巨大な体躯、歪んだ顔、虚ろな目、先ほどの異形の怪物と同じだ。
「私の実験体たちだ! 私の命令に絶対服従する!」
アントニオが狂気に満ちた笑みを浮かべる。
「殺せ! あの騎士を殺せ! そして、女は生け捕りにしろ!」
「ガアアアッ!!」
5体の実験体が、私に向かって襲いかかってきた。
「レオンくん!そいつらは任せたわよ」
「善処します・・・」
私は、総督の狂気の犠牲になった元人間たちと対峙した。
5体の怪物が私を囲む。
それぞれが3メートル近い巨体で、凄まじい力を持っている。
「ガアアアッ!」
一体の実験体が私に向かって拳を振り下ろす。
横に跳躍し、攻撃をかした。
拳が床を叩き、石が砕け散る。
(一体一体の力は、先ほど倒したものと同じか。だが、数が多い・・・)
二体目が背後から襲ってくる。
私は振り返りざまに立ちを振って、実験体の腕を切り飛ばす。。
その直後、三体目が横から襲いかかる。
「ッ!」
私は体を回転させて蹴りを放つ。
蹴りをくらった怪物は、地下室の壁に叩きつけられる。
先ほどの戦いでおおよその力量は把握できている・・・力はほぼ互角、スピードは私の方がはるかに上だ。
もともと騎士団では乱戦の訓練もうけているし、実践も数々経験してきた。
一人で多数を相手にするには相手を分断して一体ずつ確実に倒していかなければならない。
私は地下施設の装置を利用して、囲まれない位置取りをした。
これならせいぜい同時に2体の相手で済みそうだ。
まず前方と右方向から襲い掛かってくる怪物と対峙した。
静止状態から、急加速で踏み込む・・・やはり私のスピードに怪物は反応できない。
前方の実験体の懐にもぐりこんだ私は、突撃の加速と体重を乗せて思いっきり実験体を殴りつけた。
後ろにあった装置を壊しながら実験体が吹っ飛んでいく。
時間差で右からくる敵と一対一になった。
襲ってくる怪物の攻撃をかわしながら、太刀で敵の胴を払うと、実験体は腰のあたりで両断された。
これであと4体・・・さきほど蹴りとばしたヤツと壁に叩きつけた怪物はまだ立ち上がってこない。
他の2体の怪物が私を捕まえようと後方から迫ってくる。
迫ってくる2体の間を低い姿勢で太刀を持ったまま、体を回転させながら通り抜けた。
私が通り抜けたあと2体の怪物の足が滑り落ちるよう転がった。
2体が片足になり姿勢が下がった頸部を太刀で薙ぎ払う。
怪物の首がわずかな時間差で転がり落ちる。
「あと2体・・・」
さきほど蹴りで壁に叩きつけた実験体が再び立ち上がり、襲いかかってくる。
私は剣を構え直し、怪物の攻撃に備える。
正面から拳を振り下ろしてきたが、最小限の動きでかわした。
繰り出されてきた腕を斬飛ばし、返す刃で首を刈った・・・残り1体。
最後の怪物が私を捕まえようと両手を突き出してきた。
私は跳躍で攻撃をかわし、空中で体を捻りながら『飛燕』を放つ。
斬撃が空を飛び、実験体の頭部に当たる。
「グエッ!」
実験体は顔から血をまき散らしながらうずくまった。
私は着地と同時に、最後の怪物の首を刈り取る。
「フウ......終わったか」
周りに5体の実験体が倒れている・・・倒すのに少々時間がかかってしまった。
(急がなければ・・・・)
私は急いでシャルロッテの方へ向かった。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




