27.魔術実験
岩場を登り、島の内部へと進む。
足元は不安定で、鋭い岩が靴底に食い込む。
「・・・荒涼とした場所ですね」
私が呟くと、シャルロッテが頷いた。
「ええ。でも、漂っている魔力はどんどん強くなっているわ」
島の中央部へ向かうにつれて、確かに異様な雰囲気が漂ってくる。
「あれを見なさい」
シャルロッテが指差す方向を見ると、岩場の奥に、半ば崩れかけた石造りの建物が見えた。
古い建物のようだ。壁の一部は崩落し、屋根も半分近く失われている。
どうやらこれが、オスティア総督や古株の漁師のいっていた魔術師の研究施設のようだ。
私たちは慎重に近づいた・・・建物の入口は開け放たれており、中は薄暗い。
周囲を警戒しながら施設の中に足を踏み入れる。
内部は思ったより広く、いくつもの部屋に分かれているようだ。
床には古びた魔法陣の痕跡、壁には奇妙な文字が刻まれている。
「・・・これは、魔術の研究記録ね」
シャルロッテが壁の文字を読む。
「『人体へのモンスター因子の移植実験』......『セイレーンの歌声因子、被験体A-01に付与成功』......」
「人体実験!!」
私は眉をひそめた。
「どうやら人間にモンスターの能力を付与するのが目的の様ね。帝国魔術学院から追放されたのも、おそらくこの研究のせいね」
その時、奥の部屋から物音が聞こえた・・・ドスン、ドスンと重い足音がする。
「何か来るわ。いったん身を隠すわよ」
扉が開き、巨大な人影が現れた。
それは人間の形をした異形のものだった。
身長は3メートル近く、筋骨隆々とした体躯をしているがが、その顔は歪み、目は虚ろで、理性の光がない。
「人体実験の被験者か・・・」
「ガアアアッ!!」
人影が咆哮し、身を隠していた私たちに気づき襲いかかってきた。
私達は左右に飛びのき、攻撃をかわす。
人影の拳が床を叩き、石が砕け散る。
「ッ!」
凄まじい力だ。まともに食らえば、かなりのダメージを負いそうだ。
シャルロッテが左から斬りかかる。
人影の腕を斬り裂くが、人影は痛みを感じていないかのように、逆の腕でシャルロッテを薙ぎ払おうとするが、シャルロッテは軽々と攻撃をかわす。
異形の人影がシャルロッテに気をとれているうちに私は背後から斬りかかった。
太刀が人影の背中を斬り裂く。
「グオオオッ!」
人影が振り返り、私に襲いかかるが、その動きは鈍い。
私は攻撃をかわし、再び斬りかかる。
シャルロッテも前方から攻撃する。
私たちの連携攻撃に、人影は次第に動きが鈍くなる。
人影がシャルロッテを捕まえようと手を伸ばした時人影の体勢が崩れた。
私は全力で剣を振り下ろし、刃が人影の首を斬り飛ばす。
ドサリと巨体が倒れる。
「・・・終わったわね」
「この異形の怪物も、犠牲者なんでしょうね」
「ええ。おそらくモンスター能力付与の実験台にされたのよ」
「・・・・酷いことをする」
「禁忌の研究とはそういうものよ。他人も自分も不幸にする・・・」
その時、さらに奥から微かな物音が聞こえた。
「......まだ何かいるようね。慎重に進みましょう」
私たちは慎重に奥へ進んだ。
奥の部屋の床に、下へと続く階段が隠されていた。
「どうやら地下に施設があるようね。行くわよ」
私たちは階段を降りた。
地下は湿気が強く、カビ臭い空気が漂っている。
松明の明かりで照らすと、長い廊下が続いており、廊下の両側には、いくつもの部屋がある。
最初の部屋を覗くと、古びた実験器具が散乱していた。
試験管、フラスコ、魔法陣が刻まれた台・・・
「・・・これは、魔術装置ね。サイズや魔術式を見るにたぶんモンスターから因子を抽出するための装置の様ね」
次の部屋を覗くと、書類が山積みになっていた。
シャルロッテが書類を手に取り、読み始める。
「『実験記録No.1:セイレーン因子付与、被験体A-01、成功』......」
「『実験記録No.57:オーガー因子付与、被験体B-15、成功』......」
「『実験記録No.106:ドラゴン因子付与、被験体C-01、失敗。被験体の魔力量不足』......」
「魔獣を捕獲して、その能力を因子として抽出し、人間に移植する・・・・それが、例の魔術師の研究だったのか」
「ええ。そして、その研究は今も続いている。どうやらこの魔術師の最終目標は、人間にドラゴンの能力を付与することのようね。でも、失敗したようね。ドラゴンの能力を付与するには被験体の魔力量が足りなかったのかしら?」
「......つまり、今の犯人は、魔力量の多い人間を探している?」
「その通りよ。そして・・・おそらくこの先にいなくなった船員たちが囚われている可能性が高いわ」
私たちは奥の部屋の扉を開けて、先へと進んだ。
中には、鉄格子で区切られた独房がいくつもあり、中に、何人もの人間が囚われている。
生きているが、意識は朦朧としているようだ。
「歌声に誘われて海に飛び込み、ここに連れてこられたのね」
私たちは独房の船員たちを確認した。
「全員生きているし、まだモンスターの因子を注入される前の様ね」
その時、背後から声が響いた。
「ヴェルザー伯爵令嬢、こんなところでお会いするとは奇遇ですな」
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




