26.いざ、上陸
翌日、シャルロッテは一人で町へ出かけると言い出した。
「レオンくん、今日は一人で行ってくるわ。キミは別邸で待機していなさい」
「しかし、護衛として……」
「大丈夫よ。町中を歩くだけだから」
「それに、キミは昨日歩き回って疲れているでしょう? 休んでいなさい」
「……わかりました」
私は渋々頷いた。
(……まあ、確かに町中なら危険はないだろう)
シャルロッテが出かけた後、私は別邸で太刀の手入れをしたり、軽く体を動かしたりしていた。
久しぶりの一人の時間だったので、持参した本を読んで時間をつぶした。
夕方になり、シャルロッテは両手に小さな包みを持って帰ってきた。
「レオンくん、これキミの分よ」
シャルロッテが包みを一つ渡してくる。
「これは?」
「耳栓よ。特別製の」
包みを開けると、小さな耳栓が入っていた。
だが、普通の耳栓ではない。魔力を帯びているのがわかる。
「魔法がかかっているんですか?」
「ええ。音を遮断する魔法ね。歌声対策よ」
「普通の耳栓に魔法工房で魔力付与してもらったのよ。音だけじゃなく魔力も遮断するようにね」
「・・・なるほど」
「ただし、音も聞こえにくくなっちゃうけど、魔力の遮断はおそらく例の歌に有効なはずだから仕方ないわね」
「よく考えましたね」
「わたしは思慮深いのよ。島へは明後日の朝、出発よ。マルコが船を手配してくれたわ。明日の早朝出発することになるわ」
「わかりました」
その夜、私は自室で装備を最終確認していた。
(……なにがおこるかわからないから気を引き締めていかないとな)
私は覚悟を決めて、ベッドに横になった。
翌日の早朝、私たちは港へ向かった。
マルコが手配してくれた小型の漁船が、桟橋に停泊している。
「お嬢様、レオンハルトさん、こちらがベネデットです」
マルコが、40代ほどの頑健な男性を紹介する。
「ベネデット、よろしく頼むわ」
「おう、任せな。船は小さいが大船に乗ったつもりでいてくれ」
ベネデットが豪快に笑いながら言った。
シャルロッテはベネデッドにも耳栓を渡してた。
船頭が歌声に誘われて、いなくなってしまっては目も当てられない。
「お嬢様、これを」
マルコが小さな袋を手渡す。
「これはなに?」
「魔法の照明弾です。万が一の時は、これを空に打ち上げてください。すぐに救援の船を向かわせます」
「ありがとう、マルコ。もしいなくなった船員達を見つけられたら使うわね」
シャルロッテが袋を受け取る。
「じゃあ、出港するぜ!」
ベネデットが帆を張り、船がゆっくりと港を離れる。
朝日が海面を照らし、波がきらきらと輝く。
船は順調に進み、やがてオスティアの町が小さく見えるようになった。
「お嬢様、あれが『忘れられた島』だ」
ベネデットが指さす方向の先に、小さな島影が見える。
岩だらけの荒涼とした島で、植物はほとんどない。
「・・・不気味な場所ですね」
「ええ。近づくにつれて、魔力の気配が強くなっているわ」
シャルロッテが真剣な表情で島を見つめる。
「2人とも、耳栓を着けなさい」
「今からですか?」
「ええ。聞こえてからじゃ遅いでしょ」
私達は耳栓を着けた。
音が少しこもったように聞こえるが、お互いの声はある程度聞こえる。
船が島に近づいていく・・・だが、予想に反して、歌声は聞こえてこなかった。
「……おかしいわね」
「何も聞こえませんね」
「これだけ島に近づいてるんだから、そろそろ何かあってもおかしくないのに・・・」
その時、島に人影が見えた。
「おい、誰かいるぞ!」
ベネデットが警戒の声をあげる。
「・・・あれは」
私は目を凝らした・・・女性の姿が見えるが、どこかおかしい。
肌が青白く、髪は海藻のように揺れている。
そして、その口が開いた。
歌声が――聞こえる・・・
確かに歌声は聞こえているが、耳栓が歌声の魔力を遮断しているようだ。
「効いているわね」
「あれが、船を襲っている犯人にちがいないわ」
「人間・・・ですか?」
「セイレーンのような歌声を持つ人間はただの人間じゃないわね」
シャルロッテが鋭く見据える。
「ベネデット、船を島の反対側へ回して!」
「おう、了解だ!」
女性らしき人影は追ってくることはなかった。
私たちの船が島の岸辺に到着した。
「島から離れて待機してちょうだい。ただし合図をしたら迎えにきて」
「わかった。気をつけてな……」
ベネデットに見送られながら、私たちは船を降り、岩場を登って島に上陸した。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




