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銀獅子令嬢シャルロッテは華麗に笑う ~新興貴族令嬢と護衛騎士の冒険~  作者: 朧 李奏
3章 港湾都市オスティア怪事件編
25/26

25.忘れられた島

「会長、どなたとお約束されているんですか?」

 ヴェルザー家の別邸に帰る途中、私は尋ねた。

「うそに決まってるでしょ。下心みえみえだったから断る口実よ。」

「そういう風には見えませんでしたが・・・・」

「わたしぐらいの美人になると、いやでも分かるようになるのよ。美人に生まれるのも考え物よね」

 嘆いているのか、自慢しているのか分からない言葉が返ってくる。

 きっと彼女に対して邪な思いで近づいた男たちは想像を絶するひどい目にあわされたに違いない・・・同情する気にはなれないが。


「そんなことより、さっきの海図にあった島に行く方法を考えないとね」

「えっ・・・行くんですか?」

「あたりまえでしょう。私の推察によるとおそらくそこに元凶があるはずよ」

 言い出したら聞かないだろう・・・私は抵抗することをあきらめた。

「では、別邸に戻って作戦を考えましょう」

「レオンくん、めずらしく話が分かるじゃない。」


 護衛騎士になって約半年、物分かりが良くなったわけではない。

 シャルロッテに逆らっても無駄だと理解しただけだ。

 まあ口に出して機嫌を損ねることもないだろう。

 私たちはヴェルザー家の別邸へと歩を進めた。


 ヴェルザー家の別邸に戻ると、マルコが出迎えてくれた。

「お帰りなさいませ、お嬢様、レオンハルトさん。調査はいかがでしたか?」

「まあまあね。それより、オスティアから南西20キロほどの沖合にある無人島について、何か知ってる?」

「ああ、あの島々ですか。漁師たちの間では『忘れられた島』と呼ばれています」

「昔は漁師の休憩所として使われていましたが、今は誰も近づきません」

「どうして誰も近づかなくなったの?」

「不吉な場所だと言われているんです。あやしげな魔術師が島に住み着いて、奇妙な研究をしていたという噂があります」

「総督もそう言っていたわ。その魔術師について、もっと詳しく知らない?」

「残念ながら、詳しいことは……ただ、古株の漁師なら何か知っているかもしれません」

 マルコが申し訳なさそうに言う。


「わかったわ。それと、もう一つ。あの島へ行く方法を手配してほしいの」

「えっ……お嬢様、まさか島へ?」

「ええ。明後日にでも行きたいわ」

「しかし、お嬢様。あの海域は危険です。怪事件が起きている場所ですよ」

「だからこそ、調査する必要があるのよ」

「・・・わかりました。では、信頼できる船頭を手配いたします。武装した護衛も数名つけましょう」

「護衛は必要ないわ。目立たないように、小型の漁船で十分よ。ただし、腕の良い船頭を頼むわね」

「承知しました。それと、例の島にいた魔術師の話が聞けそうな古株の漁師も今夜ここへお呼びしましょうか?」

「そうね、よろしく頼むわ」


 マルコが一礼して退出する・・・2人になると、シャルロッテが口を開いた。

「レオンくん、どう思う?」

「歌声で人を誘い出し、積み荷まで消える……通常の魔獣の仕業とは思えません」

「その通りよ。誰かが意図的にやっている」

 シャルロッテが海図を広げる。

「この『忘れられた島』に、何かがあるはずよ」

「しかし、総督府も調査しているはずでは?」

「表向きはね。でも、あの総督……どこか引っかかるのよね。この事件、もう2ヶ月も続いているのよ。それなのに、総督府の対応が遅すぎるわ。海域の巡回だけで、島の調査すらしていない」

「確かに……不自然ですね」

「ええ。まるで、わざと調査を避けているかのような・・・とにかく、『忘れられた島』へ行けば何か分かるはずよ」


 夜になり、マルコが一人の老人を連れてきた。

 70代と思われる、日焼けした顔に深い皺を刻んだ男性だ。

「お嬢様、こちらがジョヴァンニです。この町で最も古い漁師の一人です」

「ジョヴァンニさん、および立てして申し訳ありません」

 シャルロッテが丁寧に挨拶する。

「……伯爵家のお嬢様が、わしのような老いぼれに会いたいとは、驚いたよ」

 ジョヴァンニが照れくさそうに笑う。

「座ってください。お茶をどうぞ」

 マルコが椅子を勧め、温かいお茶を出す。

「ジョヴァンニさん、『忘れられた島』について教えていただけますか?」

「……ああ、あの島か」

 ジョヴァンニが遠い目をする。


「わしが若い頃、あの島にはよく立ち寄ったもんじゃ。漁の途中で休憩したり、嵐を避けたり……良い島だったんじゃがな」

「それが、変わったのはいつ頃のことですか?」

「ああ。50年ほど前じゃったかな。帝国から魔術師が来てな、島に住み着いたんじゃ」

「その魔術師は、その島で何をしていたんですか?」

「わからん。ただ、奇妙な音や光が島から聞こえてきたそうじゃ。夜になると、青白い光が島を包んだり、不気味な歌声が聞こえたり……」

「歌声・・・」

「ああ。美しい女の歌声じゃった。まるで、天使のような……いや、悪魔のような……」

 ジョヴァンニが震える。

「わしも一度だけ聞いたことがある。あれは……恐ろしかった。体が勝手に動き出して、海に飛び込もうとしたんじゃ。幸い、仲間が止めてくれたが……あの時、海に飛び込んでいたら、わしは今ここにおらんかったじゃろう」

 ジョヴァンニが顔を覆う。

「その魔術師は、今どうしているんですか?」

「わからん。ある日突然、島から光も音も消えた。それ以来、誰も魔術師を見ていない」

「いなくなった?」

「おそらく死んだんじゃろう。それとも、どこかへ去ったか……それからというもの、漁師たちは島に近づかなくなった。不吉な場所じゃと……」

「でも、最近また歌声が聞こえるようになった?」

「ああ。2ヶ月ほど前からじゃ。若い漁師たちは知らんが、わしのような年寄りは覚えておる。あの恐ろしい歌声を……悪いことは言わん、どうかあの島には近づかんほうがええ。あそこには、何か恐ろしいものがおる」

「ご忠告感謝します。今日は貴重なお話ありがとうございました」


 老漁師が帰った後、シャルロッテが口を開いた。

「50年前の魔術師の研究……それが今、再び動き出している」

「魔術装置が、何かの拍子で動き出したということですか?」

「それもあるかもしれないけど……もっと別な可能性もあるわ。誰かが、その研究を引き継いでいるとか」

「引き継いでいる?」

「ええ。50年前に中断された研究を、誰かが再開した。」

 シャルロッテの紫色の瞳が鋭く光る。

「とにかく、島へ行けば答えが見つかるはずよ。明日は島に渡るための準備ね」


拙い文章、読んでいただきありがとうございます。


多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。

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