22.事件のウワサ
オスティアは、想像以上に大きな町だった。
広大な港には、無数の船が停泊している・・・大型の商船、小型の漁船、そして豪華な貴族の船など初めて光景は壮観だ。
港の周辺には、市場や商館、酒場が立ち並び、多くの人々が行き交っているが、どこか活気が乏しい。
「・・・妙ね」
シャルロッテが呟く。
「これだけ大きな港町なのに、活気がないわね。前に来た時はもっと賑わってたと記憶してるけど・・・」
「事件の影響でしょうか?」
「そうかもね・・・」
それでも、帝都の堅苦しい雰囲気とは違い、町全体が明るい色彩に包まれている。
白い壁、オレンジ色の屋根、青い海・・・人々も、帝都のように堅苦しい服装ではなく、軽やかな服を着ている。
「本当に、帝都とは違いますね」
「オスティアが一部の貴族に保養地として人気があるのも頷けるでしょう?」
馬車は港を抜け、海を見渡せる高台へと進み、やがて立派な白い邸宅の前で止まった。
「ここがヴェルザー家の別邸よ」
白い石造りの建物で、オレンジ色の屋根が美しい・・・広いテラスからは、青い海が一望できる。
門をくぐると、50代ほどの陽気そうな男性が出迎えてくれた。
「お嬢様! お待ちしておりました!」
男性が両腕を広げてシャルロッテを歓迎する。
「マルコ、久しぶりね。元気にしていた?」
「ええ、もちろんです! お嬢様がいらっしゃると聞いて、心が躍りましたよ!」
マルコが陽気に笑う。
「こちらがレオンハルト・フォン・ユーリヒ卿、私の護衛騎士よ」
「レオンハルトさん! ようこそオスティアへ! どうぞごゆっくりお過ごしください!」
力強く握手を求めてくる。
「よろしくお願いします」
(陽気な人だな)
「さあさあ、中へどうぞ! お部屋の準備は万端です! それに、今夜の夕食は特別に腕を振るいましたよ!」
言いながら私たちを案内してくれる。
明るい光が差し込む広い窓、白い壁に飾られた南方風の絵画、開放的なテラス・・・別邸の中は、帝都の邸宅とは全く違う雰囲気だった。
「お嬢様のお部屋はこちらです。レオンハルトさんのお部屋は1階にご用意しております」
私は部屋に荷物を置き、ひと息ついた後、マルコと一緒にシャルロッテの部屋に向かった。
ドアをノックすると、中から声がする。
「どうぞ」
部屋に入ると、シャルロッテがテラスに立ち、海を見下ろしていた。
「久しぶりのオスティアね。懐かしいわ・・・レオンくん、調査は明日から始めましょう」
「わかりました。どこから始めますか?」
「まず、港で情報を集めるわ。被害に遭った船の関係者に話を聞く。それから、現地の人々の噂を探る」
「わかりました」
「マルコ、この町について、何か知っていることはある?」
「と、おっしゃいますと?」
「最近の怪事件について。町で噂になっていることはない?」
「......ああ、あの件ですか」
マルコの表情が少し曇る。
「港の人々は恐れております。魔物の仕業ではないか、海の呪いではないか......様々な噂が飛び交っております」
「具体的には?」
「ある者は、海の魔女が船を襲っていると言い、ある者は、海神の怒りだと言います」
「魔女? 海神?」
私は思わず聞き返した。
「ええ。特に、『歌声』についての噂が多いのです」
「歌声?」
「はい。近くを航行していた船の船員が、奇妙な歌声を聞いたと証言しているのです」
マルコが声を潜めて言った。
「事件となにか関係があるのかしら?」
「陽気なオスティアも、この事件のせいで少し暗くなっています。早く解決してほしいものですよ」
マルコがため息をつく。
「レオンくん今日は休みなさい。明日は忙しくなるわよ」
「わかりました」
私は一礼して、自室に戻った。
奇妙な歌声か、厄介なことにならなければよいのだが・・・しかしシャルロッテが首を突っ込む以上、十中八九厄介なことになるに違いない。
私は明日に備えて早めに休むことにした。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




