19.舞踏会の華
シャルロッテと私が会場を歩いていると、何人かの貴族令嬢たちが私を見て、ひそひそと話している。
「あの方、ヴェル・・・爵令嬢・・・・騎士よね」
「ええ、レオンハルト・フォン・ユーリヒさまと・・・」
「まあ、素・・・・長身と、・・・・がとてもお似・・・・わ」
「・・・整っているし、あれで・・・・勿・・・ね」
令嬢たちが私達の方を見てささやきあっている。
(なんだか見られているような気が・・・あれだけ騒ぎを起こしたからな)
格式高い舞踏会で騒ぎを起こしたのでヒンシュクを買っているのだろう。
私は居心地が悪くなった。
「・・・・」
シャルロッテが無言で歩を進める。
「会長、どうかしましたか?」
「別に」
シャルロッテが短く答えるが、その声音はいつもより冷たい。
(・・・・?何か気に障ることでもあったか?)
私は首を傾げたが、特に思い当たることはない。
舞踏会が進むにつれ、貴族の子弟たちがシャルロッテに視線を向けている。
誰もが、シャルロッテを舞踏に誘いたいと思っているようだが、誰も声をかけられない。
新興貴族という出自と、先ほどの騒動が彼らを躊躇させているのだろう。
「・・・やれやれ、こんな美女を壁の花にするなんて、今夜の男どもは目がついてないのかしら?」
シャルロッテが呆れたように呟く。
・・・グスタフの惨状を見ていれば誰もが二の足を踏むのは仕方ないのではないだろうか?と私は思ったが口に出すのはやめておいた。
「ふん。まあ、いいわ。軟弱な貴族の子弟には興味ないし。」
シャルロッテが不機嫌そうに言う。
「レオンくん、キミ、ダンスはできるわよね?」
「・・・一応、騎士の嗜みとして習いましたが、正直あまり得意ではありません」
私は正直に答えた。
騎士団でも、なるべくダンスは避けてきた。
「そう。でも、一通りはできるのね」
「・・・はい、まあ」
「なら、一曲踊りなさい」
「えっ?」
私は思わず聞き返した。
「だから、一曲踊りなさいって言ってるのよ。わざわざ舞踏会に来たんだから1曲くらいは踊らないと格好がつかないでしょう?」
「しかし、私は護衛ですし、それに私はダンスが得意では・・・」
「わたしが退屈してるんだから、護衛として気を紛らわせる義務があるでしょう?」
「それは、護衛の職務とは・・・」
「つべこべ言わない。こんな美人が誘ってるんだから素直に言うことをきく!」
シャルロッテが強引に私の手を取る。
「・・・わかりました」
私は観念して頷いた。
私たちが会場に進み出ると周囲の視線が一斉に集まる。
(やれやれ、目立つな・・・)
オーケストラがワルツを奏で始める。
私はシャルロッテの腰に手を添え、もう片方の手で彼女の手を取った。
「失礼します」
「ええ、よろしく」
音楽に合わせて、ステップを踏む。
私の動きはぎこちない、シャルロッテの足を踏まない様に必死な有様だ。
「レオンくん、キミ本当にダンス苦手なのね」
シャルロッテが呆れたように言う。
「すみません・・・会長の足は踏まない様に気を付けます」
「わたしがリードするから、あわせなさい」
彼女のリードは完璧だった。
私のぎこちない動きを、自然にカバーしてくれて、まるで私が上手く踊っているかのように見える。
「さすがですね」
「当然でしょう。私は淑女なんだから」
シャルロッテが少し得意げに言う。
淑女は大の男をドレスで蹴ったりしたりしないのではないかと思ったが、華麗に踊る今の彼女は立派な淑女に見えるだろう。
周囲の貴族たちが、私たちを見ている。
特に、貴族の子弟たちは、彼女に羨望の視線と私に嫉妬の視線を向けている。
(やれやれ、代われるもんならよろこんで代わるんだが・・・)
音楽が続き、私たちは優雅にフロアを舞った。
シャルロッテのプラチナブロンドの髪が、シャンデリアの光を受けて輝く。
アメジストのような紫色の瞳が、私を見つめる。
「レオンくん、たまには、こういうのも悪くないわね」
「・・・そうですね」
音楽が終わり、ダンスが終了する。
周囲から拍手が起こき、私たちは一礼して、フロアを離れた。
「まあ、及第点ね」
「ありがとうございます。会長のリードのおかげです」
私は素直に礼を言った。
「キミ一人では、あんなに上手く踊れなかったでしょう?なんなら、ダンスも教えてあげてもいいわよ」
その表情は、先ほどまでの不機嫌さが嘘のように上機嫌だった。
「今日は、まあまあ楽しかったわ」
「……そうですか」
「でも、やっぱり舞踏会は面倒ね。次は断るわ」
「……伯爵夫人が許すでしょうか」
「あのオバさんに許してもらう必要はないわ」
馬車が邸宅に到着した。
「お疲れ様、レオンくん。また明日ね」
「お疲れ様でした。会長、また明日定時に伺います」
「そう。じゃあ、おやすみ」
「失礼します、会長」
私は一礼して、馬車を降りた。
自室に戻り、正装を脱ぎながら、今日のことを振り返る。
(まあ、悪くない一日だったか・・・)
グスタフたちに絡まれたが、シャルロッテが追い払った。
ライヒェンバッハ公爵のおかげで、リヒテンシュタイン侯爵も退散した。
そして、帝室主催の舞踏会でダンスを踊る羽目になった・・・
(彼女の言う通り壁の花にするにはもったいない、彼女は良くも悪くも主役しか似合わない人だからな・・・)
脇役の私は小さくため息をついて、ベッドに横になった。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




