17.レオンハルト、元同僚に絡まれる
舞踏会当日、私は先日受け取った正装に身を包んだ。
黒を基調とした礼服は体にぴったりと合うだけでなく、動きを妨げることはない。
(これなら万が一のことがあっても問題なく動けそうだ。あのテーラーさすがだな・・・)
感心しながらシャルロッテの私邸へ向かった。
しばらく待つとドレスに身を包んだシャルロッテが現れた。
「・・・・」
シャルロッテの瞳に併せた深い紫色のドレスに身を包んでいた。
肩を露わにしたデザインで、腰のラインを強調するシルエット動きやすいように脚部にスリットが入っている。
プラチナブロンドの髪は普段より丁寧に整えられ、一層美しさが際立っている。
首元には銀の装飾が施されたネックレス、耳には小ぶりのイヤリング、華美ではないが、洗練された美しさがあった。
まさに絶世の美女だ・・・口さえ開かなければ。
「どうしたの、レオンくん。遠慮なく褒めていいのよ」
「・・・大変お美しいかと」
「あいかわらず語彙が乏しいわね。・・・まあいいわ、行くわよ」
シャルロッテが私を促し、私たちは馬車に乗り込み、舞踏会会場へと向かった。
「今夜の舞踏会の会場の護衛は第一騎士団があたってるみたよ。もし騎士団の連中に絡まれても、適当にあしらいなさい。相手にする必要はないわ」
「……第一騎士団ですか・・・」
「ええ。今日の舞踏会は帝国の要人が多く参加しているから、当然第一騎士団の出番よね。キミの元同僚もいるでしょうね」
「……そうですか」
私は少し憂鬱になった。
騎士団の元同僚か……おそらく、グスタフの派閥の連中もいるだろう。
彼らに会うのは、正直気が重い。
しばらくして、馬車が会場に到着した。
今夜開催される舞踏会の会場は帝都の中心部にある帝室が所有する舞踏会場だ。
壮麗な石造りの建物で、内部は豪華なシャンデリアと大理石の床が広がっている。
通常夜会や舞踏会は主催の貴族がいて主催者の館で行われる。
この会場が使われるということは、今回の舞踏会の主催は帝室ということだ。
私たちは馬車を降り、会場へと向かった。
入口では、執事が招待状を確認している。
「ヴェルザー伯爵家、シャルロッテ・フォン・ヴェルザー様、ご入場です」
執事が声高に告げると、周囲の視線が一斉にシャルロッテに集まる。
(やはり、目立つな・・・)
シャルロッテは堂々と会場に入っていく。
会場内は、既に多くの貴族たちで賑わっていた。
男性は礼服、女性は華やかなドレスに身を包み、談笑している。
オーケストラの演奏が流れ、一部の貴族たちはダンスを楽しんでいる。
私たちが入場すると、一部の貴族令嬢たちの視線が私に向けられた。
(・・・?何だろう)
気のせいかもしれないが、何人かの令嬢が私を見て、ひそひそと話している。
「レオンくん、なにキョロキョロしてるのよ。好みの女の子でもいたの?」
「何言ってるんですか。護衛として会場内を見てたんですよ」
「ここは帝室所有の建物よ。内部は一応安全よ・・・多分」
じゃあなんで私は同行させられてんだ。
中が安全なら外で待たせてくれればいいのに・・・
「とりあえず、私は母に顔を見せないといけないから、適当に待機しておいてね。」
シャルロッテが会場の奥へと向かう。
私は壁際に立ち、会場内を眺めていたら後ろから声をかけられた。
「レオンハルトじゃないか」
振り返ると、見覚えのある顔があった。
第一騎士団時代の同僚、ヴォルフラム・フォン・シュタインだ。
30代前半、中肉中背の男で、グスタフの派閥に属している。
「……ヴォルフラム卿」
「久しぶりだな。元気にしているか?」
ヴォルフラムが皮肉めいた笑みを浮かべる。
「ええ、まあ」
私は短く答えた。
「俺たちは警護にかりだされてるのに、お前は正装で伯爵令嬢のお守か?いい身分だな。」
「……別に」
「まあ、ヴェルザー伯爵家は金だけはあるからな。お前も頑張って尻尾をふるんだな。」
ヴォルフラムが肩を叩く。
私は内心で溜息をついた。
(……やはり、絡んでくるか)
「それにしても、下級貴族のお前が、正装して参加するつもりか?」
ヴォルフラムがわざとらしく言う。
「護衛として同行しているだけです」
「ここで護衛なんか必要か?第一騎士団が警護してるんだぜ」
ヴォルフラムが嘲笑する。
私は何も言わずに視線を逸らした。
(……相手にするだけ無駄だ)
その時、別の声が割り込んできた。
「ヴォルフラム、何してるんだ?」
振り返ると、グスタフ・フォン・エッシェンバッハが立っていた。
侯爵家に連なる男で、騎士団内で派閥を作っている人物だ。
本人は男爵家の称号を持つ20代後半、整った顔立ちをしているが、傲慢な性格を隠しきれていない。
「グスタフ男爵」
ヴォルフラムが恭しく一礼する。
「レオンハルト、なんでお前がいるんだ?ここに入れる身分じゃないだろう」
グスタフが私を見下すように言った。
「・・・・」
「フンッ、どうせヴェルザー伯爵令嬢にくっついてきたんだろう?」
グスタフが皮肉めいた笑みを浮かべる。
「ええ、護衛ですので」
「まあヴェルザー家も成り上がりとはいえ伯爵だからな・・・一応」
グスタフが嘲笑する。
(やれやれ、始まったか)
「それに、下級貴族のお前がお供とは、ヴェルザー家も人材難だな」
グスタフが更に続ける。
「まあ、成り上がりの家には、成り上がりの騎士がお似合いか」
周囲の参加者たちがクスクスと笑う。
私は拳を握りしめたが、ここで反論したらグスタフの思うつぼだ。
シャルロッテの「適当にあしらうのよ」と言われているが、どうしたものかと考えていた。
私は確かに下級貴族の出身なので、下級貴族といわれても別段腹は立たない。
しかし、シャルロッテがこんな能無しのあほうに嘲られるのは、なんだか腹が立ってきた。
私は短い間、どう反論してやろうか思案していたので、グスタフの後ろに立つ人影に気づくのが遅れた・・・やれやれ、厄介なことになりそうだ。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




