16.騎士レオンハルト舞踏会へ同行を命じられる
ヒポグリフ討伐から二週間が経過した。
シルバーレーヴェ商会の執務室でシャルロッテはオットーから前月の売上の報告を受けていた。
「会長、今月の売上報告です。魔力遮断容器の販売と使用料が好調で、純利益が先月比の三割増です」
「良いわね。この調子で行けば、更に利益が出そうね」
シャルロッテが満足そうに頷く。
商会ギルドに登録したことで、他の商会が魔力遮断容器を製造・販売する際には、シルバーレーヴェ商会にライセンス料を支払う必要がある。
これが継続的な収入源となっているのだ。
「それと、ライヒェンバッハ公爵からヒポグリフの剥製が無事に届いたとの礼状が来ております」
イルゼが封書を差し出す。
「ああ、あの変人公爵ね。まあ、今後もいいお客様になってくれるでしょう」
(……あの公爵閣下を変人呼ばわりとは……)
私は内心で苦笑した。
「レオンくん、今日の特訓は午後からよ。遅れないようにね」
「……わかりました」
私はため息をついた。
ヒポグリフ討伐後、シャルロッテから《飛燕》の指南を受けている。
最初の一週間は理論と基礎動作の反復だった。
魔力を刃から飛ばす感覚を掴むために、何度も何度も剣を振った。
「太刀を自分の体の一部の様に認識するの。そうすれば魔力が自然と太刀に伝わるから」
「まったく、こんな簡単なこともできないの?」
シャルロッテの容赦ない指導が続く。
指導を受け始めて二週目がたった。
ようやく、私は斬撃を飛ばすことができるようになった。
私が放った《飛燕》が、5メートル先の的に当たる。
威力はまだ弱いが、確かに飛んだ・・・飛燕というより飛雀ってとこかな。
「やった、飛ばせたわね。でも、まだまだよ。実戦で使えるレベルになるには、特訓あるのみよ!」
「・・・はい」
(やれやれ、容赦ないな・・・しかし、新しい技術を習得できるのは悪くない)
確かに厳しいし言葉もきついが、シャルロッテの指導は有益だ。
実戦で使えるようになれば、戦闘の幅が広がる。
「さて、今日の特訓はここまでよ。カフェに行く前に・・・レオンくん、来週の舞踏会だけど、キミも同行するのよ」
「えっ、舞踏会ですか?」
「ええ、母……あのオバさんが参加しろって、うるさいのよ。仕方ないから顔を出すわ」
シャルロッテが忌々しそうに言う。
「来週の舞踏会というと帝室主催でしたよね・・・私は護衛として同行するということですね?」
「当然でしょう。キミは私の護衛騎士なんだから」
「わかりました」
舞踏会か・・・正直、あまり気が進まない。
貴族の社交場は、私のような下級貴族には居心地が悪い場所だ。
騎士団でも、なるべく避けてきた。
「正装の用意はあるわよね?」
「私は護衛なので騎士服ではだめですか?」
「ダメに決まってるでしょ。ちゃんとした正装を用意しなさい。わたしと一緒にいるんだから、みすぼらしい格好は許さないわよ」
シャルロッテが睨みながら言った。
「わかりました。準備します」
「よろしい。明日、フリードリヒに手配させるから」
「え、いえ、自分で」
「キミに任せたら、どんな格好で来るかわからないでしょう。大人しくフリードリヒに任せなさい」
シャルロッテがあっさりと言う。
(やれやれ)
私は諦めて頷いた。
翌日、フリードリヒさんが手配してくれたテーラーがシャルロッテの邸宅に来てくれた。
「それでは、失礼いたします」
テーラーは手慣れた様子で、私の肩幅、胸囲、袖丈を測っていく。
「フリードリヒさん、これは本当に必要なんでしょうか」
「お嬢様のご命令ですので」
「それに、レオンハルト様の騎士服では、明日の舞踏会には相応しくありません」
「そうですか・・・」
「ええ。お嬢様とご一緒する以上、それなりの格好をしていただかないと」
フリードリヒさんは反論を封じるようにやさしく微笑んだ。
(……それなりの格好、か)
私は内心で溜息をついた。
・・・3日後、シャルロッテの私邸に呼ばれた。
「レオンくん、これがキミの正装よ」
食堂のテーブルに、黒を基調とした正装一式が置かれていた。
上質な生地で仕立てられた礼服、白いシャツ、黒いネクタイ、革靴。
「明日着ていきなさい。わたしの護衛として同行するんだから、それなりに身なりを整えてもらわないとね」
「しかし、これは夜会に参加するような服装かと……」」
シャルロッテが不機嫌そうに言う。
「みすぼらしい格好で隣に立たれたら、わたしが恥をかくでしょう」
「……わかりました。」
(……相変わらず、強引だな)
いかにも護衛といった格好の方が落ち着くのだが、これ以上逆らっても無駄なのは経験的に知っている。
私は観念して正装を身に着けることにした。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




