15.伯爵家への報告とシャルロッテの今後の展望
帝都に戻り、まずヴェルザー伯爵家に報告することになった。
シャルロッテの母、リーゼロッテ・フォン・ヴェルザー伯爵夫人が待つ伯爵邸へ向かう。
伯爵邸は帝都郊外にある広大な敷地に建つ、重厚な石造りの館だ。
執事に案内され、応接室に通される。
しばらくして、ヴェルザー伯爵夫人が現れた。
40代前半の女性だが、シャルロッテほどではないが秀麗な美貌の持ち主で、ヴェルザー伯爵家当主として落ち着いた威厳のある雰囲気を纏っている。
「シャルロッテ、ユーリヒ卿、お久しぶりね」
「そうだったかしら?」
「ヒポグリフ討伐、見事だったそうね。カスパーから報告を受けたわ」
「当然よ。今回はレオンくんも手伝ってくれたし・・・余裕だった」
「相変わらずね。シルバーヴェーク護衛隊の被害を未然に防いでくれて、ありがとう」
「まあ、一応親族だからね。それにデロティア草の需要はこれからもっと伸びるでしょう?今回の魔力遮断容器は商業ギルドに登録したので私の商会も継続的に利益があがりそうだしね」
「ええ。それと、ヒポグリフの剥製を作るそうね。ライヒェンバッハ公爵が喜んでいたわ」
「あら、知ってたの?」
「ええ。あなたが事前に打診していたことは聞いていたわ。金貨8万枚とは・・・.さすがね」
ヴェルザー伯爵夫人が感心したように言った。
「本当は競売にかけてもっと値を釣り上げてもよかったんだけど、ライヒェンバッハ公爵には今後もひいきにしてもらった方が長い目で見れば得だと思ったのよ。」
シャルロッテはライヒェンバッハ公爵をカモにすることに決めたようだ。
公爵も気の毒なことだ・・・まあそれくらい痛くも痒くもないか。
「ところで......」
伯爵夫人が私の方を見る。
「ユーリヒ卿、あなたも良くやってくれたそうね。シャルロッテを支えてくれて、ありがとう」
「いえ、護衛として任務をこなしただけです。」
私は若干緊張して一礼した。
伯爵夫人が何か言いかけたが、シャルロッテが遮った。
「用はそれだけ。じゃあね」
「ところで、月末の舞踏会には参加なさい」
「まあ、考えとくわ」
シャルロッテは私を促し、応接室を出た。
「会長、少し急ぎすぎでは?」
「あのオバさんと長話しても仕方ないでしょう」
「......相変わらずですね」
「いいから、さっさと帰るわよ」
シャルロッテが足早に歩き出す。
(......本当に、母親が苦手なのか、それとも単に面倒なだけなのか......)
まあ、考えても仕方ないし、護衛騎士の職分を超えることだ。
翌日、シルバーレーヴェ商会でヒポグリフ討伐成功の祝賀会が開かれた。
「皆さん、今回の作戦は大成功でした。これもひとえに、全員の協力のおかげです」
オットーが音頭を取る。
「会長とレオンハルトさんの活躍、そして全員の支援があったからこその成功です。乾杯!」
「「「乾杯!」」」
全員がグラスを掲げる。
シャルロッテが立ち上がる。
「今回の作戦、本当にお疲れ様。みんな、よくやってくれたわ」
「それと、今回の成果だけど——ヒポグリフの剥製がライヒェンバッハ公爵に金貨8万枚で売れたわ。あと魔力遮断の容器の特許登録で今後も継続的に利益が出そうよ」
周囲からどよめきが起こる。
「この中に、レオンくんの取り金貨3,000枚が入ってるから。あと商会のみんなにも特別手当を出すわよ」
「ほんとうに頂いてよろしいんですか?」
「遠慮しなくていいのよ。働いたんだから、報酬を受け取るのは当然でしょう」
シャルロッテが革袋を私に押し付ける。
「......わかりました。ありがとうございます」
私は革袋を受け取った。
(......金貨3,000枚。これで当分生活には困らないな)
「さあ、飲んで食べて、今日は楽しみましょう」
シャルロッテが宣言する。
祝賀会は和やかに夜半まで続いた。
祝賀会が終わり、夜遅く、自室に戻った。
私は自室で騎士団への方向所を書き始めた。
「ヒポグリフ討伐......」
ペンを走らせながら、今回の作戦を振り返る。
(......危険な作戦だったが、成功して良かった)
シャルロッテの判断力、戦闘力、経営的手腕・・・
(......やはり、彼女は只者ではないな)
報告書を書き終わった時、自室の扉がノックされた。
「レオンハルト様、よろしいでしょうか」
シャルロットの執事フリードリヒさんの声だ。
「どうぞ」
扉が開き、フリードリヒさんが入ってくる。
「お嬢様がお呼びです。少しお時間よろしいでしょうか」
「わかりました」
私は報告書を置き、フリードリヒさんに従って館へ向かった。
案内されたのは、シャルロッテの私室だった。
「失礼します」
扉を開けると、シャルロッテが窓辺の椅子に座って、夜景を眺めながらワインを傾けている。
「レオンくん、座りなさい」
私は対面の椅子に座った。
「これ、キミにあげるわ」
シャルロットから細長い箱を渡された。
「......何ですか?」
私が箱を開けると、中には片刃の長剣『太刀』が入っていた。
シャルロッテが使っていたものより若干長いようだ。
「今回の作戦で、キミの剣壊れたでしょう?代わりにあげるわ。」
「しかし・・・高価なものじゃないんですか?」
異国の珍しい剣だ・・・当然あるていど値が張るものだろう。
「刀身にアダマンタイトを混ぜて鍛えてあるから・・・金貨7,000枚くらいかしら」
「・・・私の年収20年分以上じゃないですか!いただけませんよ」
「いいから。受け取りなさい。わたしの『太刀』に比べれば安いんだし、そもそもキミに渡す予定だった報酬から差っ引いてあるから安心なさい。」
「えっ・・・差っ引いて金貨3000枚なんですか?多すぎますよ。」
「あのね、キミはそれだけの働きをしたの。今回は特別報酬なんだから受け取りなさい。」
・・・シャルロッテなりの礼のつもりなんだろうか?
「・・・わかりました。ありがとうございます。」
これ以上固辞すると機嫌を損ねそうなのでありがたく頂戴することにした。
「まったく、キミはわたしの善意をもうちょっと素直にとったらどうなの。いつもいつも・・・」
遅かったらしい・・・文句が更に続きそうなので私はあわてて話題を変えた。
「それはそうと、会長の『太刀』は特別製なんですか?」
「・・・そうよ。魔力の通りをよくするためにアダマンタイトだけじゃなくミスリルも混ぜてあるのよね。特注なんで届くまで1年もかかったのよ」
「1年・・・今回の作戦用に頼んだわけではないんですね。」
「そう・・・もともと、わたしの武器にするために頼んでたの。アダマンタイトは強度を増すために使われることが多いようだけど、ミスリルを混ぜて作れる刀匠が限られるみたいで、ずいぶん待たされたわ」
「ちなみにおいくらなんですか?」
「ほんの金貨3万枚よ。これで装備が整ってわたしもようやく万全な状態になったわけね」
・・・いままでだって十分すぎるほど危険だった女性が、武器を得て更に危険になったようだ。
装備が整ってシャルロッテが今まで以上に無茶をするのは火を見るよりも明らかだ・・・
それについていかなければならない私は無事で済むのだろうか?
「いままでみたいに遠慮はしないわよ。ドラゴンでもクラーケンでもかかってきなさい。」
シャルロッテの護衛騎士になって以来半年、私は彼女が遠慮をしているのを見たことがない。
だいたい冒険者登録しているとはいえ伯爵令嬢がドラゴンやクラーケンと戦う必要があるのか?と考えていると、
「ホーホッホッ!私と一緒にいれば、キミにもバラ色の未来が待ってるわよ」
シャルロッテは高笑いしながら言った。
(バラって明るい色だけでなく暗い色もあるよな・・・)
「なによ、なんだか不満そうね。・・・キミ明日から《飛燕》の特訓よ。厳しく指導してあげるから覚悟なさい」
私の否定的な思考を読み取ったようだ。シャルロッテは怒りながら言った。
《飛燕》か・・・身に着ければ少しは生存確率が上がるだろうか?
私の生活に平穏が訪れるのはだいぶ先になりそうだ。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




