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14.飛燕

 帝都への帰路、シャルロッテが口を開いた。

「レオンくん、まだ怒ってるの?」

「・・・怒ってはいません」

「嘘おっしゃい。顔に出てるわよ」

「・・・・・」

「まったく。無事成功したんだからいいじゃない」

「結果オーライでは済まないと思いますが」

「何よ、文句があるなら言いなさいよ」

 シャルロッテが不満そうに言う。


「いえ、もういいです」

「・・・・ふん」

 しばらく沈黙が続いたあと

「実はね、もう買い手は見つけてあるのよ」

「えっ?」

 私は驚いて顔を上げた。

「図書館で調べものした後、キミと別行動をとったでしょう?その時、ある公爵家を訪ねたのよ」

「公爵家ですか・・・」

「ええ、グスタフ・フリードリヒ・フォン・ライヒェンバッハ公爵よ。知ってる?」

「あの、皇帝陛下の信認厚いライフェンバッハ公爵ですか?」

「その陛下の信認厚い公爵閣下にはちょっと変わった趣味があってね。魔獣の剥製を集めることが趣味なのよ。特に希少な魔獣には目がないの」


「・・・それで、会長はそこに目をつけたと」

「事前に『ヒポグリフの剥製が手に入るかもしれない』と打診しておいたのよ。公爵は目の色を変えて『いくらでも出す』と言ってきたわ。まあ、蒐集家って変人が多いから予想道理の反応だったわ」

「変人、ですか」

「ええ、公爵閣下は、仕事は出来るし貴族としても立派な方なんだけど、魔獣の剥製を集めることに人生を賭けているようなところがあるのよね。領地には展示するための専用の建物がいくつもあるそうよ」

 シャルロッテが少し呆れたように言う。


「で、いくらで売れるんですか?」

「金貨8万枚よ」

「金貨8万枚?」

 私は思わず聞き返した。

「そう金貨8万枚、騎士の年俸がだいたい金貨300枚くらいだから......まあ、キミが260年以上働いて稼ぐ金額ね」

 騎士の年俸の260年分以上・・・貧乏騎士の私には想像を絶する金額だ。

「だから、できれば傷をつけたくなかったのよ。焼けたり焦げたりしたら、価値が半分以下になってしまうわ」

「なるほど」

 確かに、そこまでの金額なら、多少の危険を冒す価値はある。


「キミの取り分は金貨3,000枚ね。キミが盾になってくれなければ、あんなにきれいにヒポグリフの首を落とすことはできなかった。だから、それなりの報酬を出すわ」

「いえ、私は騎士団から俸給をもらってますので・・・」

「遠慮しなくていいのよ。護衛騎士は功績を立てた場合、派遣先から報酬をもらっていいはずよ」

「・・・・・」


 金貨3,000枚、騎士の年俸の10年分だ。まあ、剣も壊れたから新調しないといけないし、ここは素直に受け取るとしよう。

「ではありがたく、頂戴いたします」

「よろしい、そうして素直にしていればキミもかわいいんだけどね。」

 シャルロッテは、からかうように笑いながら言った。


 私は居心地が悪くなったので、強引に話題を変えることにした。

「あのヒポグリフを仕留めた、飛ぶ斬撃・・・あれは何ですか?」

「ああ、あれね。《飛燕》っていう剣技よ。騎士団には使える人いなかった?」

 唐突な話題な変更に、多少不機嫌になりながらだが答えてくれた。

「ええ、初めて見ました。」

「簡単に言うと、魔力を刀身に込めて、斬撃として飛ばすのよ。飛ぶ斬撃が空を舞う燕のようにみえるのでこの名がついたみたいよ」

「魔力を刃の形に固めて飛ばす技術。矢やクロスボウとは違って、風の影響を受けないから精度も段違いよ」

「風の影響を受けないんですか?」

「ええ。魔力で構成された斬撃だから、風が吹いていても軌道がブレないの」


「それに、熟練すれば様々な使い方ができるわ。直線的に飛ばすだけじゃなく、曲線を描かせたり、複数の斬撃を同時に放ったり」

「・・・そんなことまでできるんですか」

「ええ、私もある程度は使えるけど、今回みたいに威力を上げようと思えば魔力を溜める必要があるのよね。普通に威力で飛ばす分には溜めは必要ないわ」

 シャルロッテが少し得意げに言った。


「飛ぶ斬撃の切れ味は、使う剣の鋭さがそのまま斬撃の切れ味になるのよ。だから、切れ味の鋭い剣を使えば使うほど、《飛燕》の威力も上がる」

「・・・なるほど。だからあの剣を用意したんですね」

「その通り、あれは西方の戦士が使う切るための剣で「太刀」というのよ。斬撃に特化した武器だから、《飛燕》に最適なの。それに、刃が鋭いほど、斬撃の形成もしやすいのよ。帝国の剣でやると、斬撃というより魔力の塊が飛んでいく感じになっちゃうのよね」

「なかなか扱いが難しそうな技術なんですね」

「ええ、だから《飛燕》の使い手は帝国ではあまりいないわ。そもそも教えてくれる人がいないもの。わたしは亡くなった父から教えてもらったんだけどね」


「剣を魔力で強化するのは騎士団でもよくやりますが・・・」

「まあ、強化とはまた違った使い方なのよね・・・レオンくんもできるようになりたいの?」

「えっ、私は魔法が使えませんよ」

「《飛燕》は厳密には魔法じゃないわ。魔力を物理的な形に変換する技術よ。魔法の使えなくても、魔力さえあれば習得できる」

「そうなんですか・・・」

 たしかに私にも魔法を使えないだけで魔力はある。

 あまり気にしたことはないが・・・

「ええ。ただし・・・」

 シャルロッテが少し残念そうに言う。


「キミは魔法が使えない分、魔力を溜めることができないわ。だから、今回私が使ったような技は無理ね」

「普通に使う分には大丈夫なんですか?」

「ええ。簡単に言うと魔力を溜めるには、魔法をコントロールする才能が必要なの。キミ、魔力は結構あるけど、魔法をコントロールする才能はないみたいなのよね。だから魔法も使えないってこと」

「......なるほど」

「でも、普通の斬撃を飛ばすだけなら問題ないわ。・・・教えてほしければ、教えてあげてもいいわよ」

「はい、ぜひお願いします」

 習得できれば、戦闘の幅が広がりそうだ。


「ただし、有料だけど」

「えっ、有料なんですか?」

「当然でしょう。技術指導は無料じゃないわ」

 シャルロッテがにやりと笑う。

「・・・いくらですか?」

「そうね・・・・指導の後のランチをおごりなさい。帝都に新しく、いい感じのカフェができたのよ」

 ランチか・・・どれだけ吹っ掛けられるかと思ったが、シャルロッテにしては良心的だ。

「なによ、文句があるなら、独学で頑張りなさい」

 シャルロッテは私が黙っているのが不満だったようで、少し怒ったように言った。


「わかりました。ランチをおごらせていただきますので、ご教授お願い致します」

「よろしい。では、落ち着いたら特訓よ。その後、楽しみにしてるわね」

 シャルロッテが満足そうに頷く。

(やれやれ、大金持ちのくせにしがない騎士にたかるなよ・・・)

 まあ、いいか・・・新しい戦技を学べるのは悪くない。

 私たちは馬を並べては帝都へと向かった。


拙い文章、読んでいただきありがとうございます。


多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。

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