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12.ヒポグリフ誘導作戦

 翌朝、まだ薄暗い午前6時、シルバーレーヴェ商会の前に集合した。

 シャルロッテは既に戦闘服に身を包み、例の長剣を腰に帯びている。

「全員揃ったわね」

 シャルロッテの前には、私の他、カスパーと護衛部隊15名、それにオットー、イルゼ、マルタ、アンナ、それと商隊を偽装する商会のメンバー10名の31名だ。


 荷車には商隊を装うための荷物と、デロティア草が魔力遮断袋に入れて積んである。

「では出発するわよ。」

 私たちは帝都の北門を抜け、大陸公路を北上した。

 朝靄の中、馬車と馬が街道を進む。

 商隊を装うため、護衛部隊も通常の護衛のように振る舞っている。


「会長、天候は問題なさそうですね」

 私が空を見上げると、シャルロッテも視線を上げた。

「ええ。快晴よ。ヒポグリフにとっても飛びやすい天候でしょうね」

「......それは、良いことなのか悪いことなのか」

「おびき寄せやすいという点では良いことよ。まあ、こればかりは天に任せるしかないわ」

 午前7時半、襲撃予想地点付近に到着した。


「ちょっと早く着いたかしら。一旦ここで待機するわよ」

 シャルロッテが荷車を止めさせる。

 カスパーが周囲を警戒しながら、護衛部隊を配置する。


「会長、配置完了しました。第一陣は荷車周辺、第二陣は森の手前に配置しております」

「よろしい。では、デロティア草を魔力遮断袋から出して」

 マルタがデロティア草を慎重に取り出し、普通の革袋に入れ替える。

「これで、魔力が外部に漏れます。ヒポグリフが感知できるはずです」

「よろしい。では、後は現れるのを待つだけね」

 シャルロッテが日傘を手に荷車の横に立ち、空を見上げる。

 私も不自然にならないよう注意しながら周囲を警戒した。


 待つこと2時間、午前9時30分過ぎ、遠くから風切り音が聞こえてきた。

「来たわよ。まだ気づかないふりで」

 シャルロッテが指示を出す。


 巨大な影が旋回しながら近づいてくる・・・ヒポグリフだ。

 鷲の頭と翼、馬の胴体と脚、翼を広げた幅は優に10メートルを超える。

 幻獣と称されるだけあり、その威容は美しい。

 ヒポグリフは上空を旋回しながら、こちらの様子を窺っている。


「レオンくん、準備はいい?」

「いつでも大丈夫です」

 その時まさに、ヒポグリフが急降下してきた。

 やはり、予想通り荷車の上のデロティア草を狙っているようだ。

「今よ!」


 シャルロッテの声と同時に、私は荷車に飛び乗り、デロティア草の革袋を掴んだ。

 ヒポグリフの鉤爪が荷車を掠める。

「撃て!」

 カスパーの号令で、第一陣の護衛部隊がクロスボウを放つ。

 ヒポグリフの周囲で風が渦巻いてクロスボウの矢を阻んだ。

 どうやら風魔法を発動したようだ。


 矢は阻まれたが、牽制にはなったようでヒポグリフは体制を立て直すように上昇した。

 その隙を逃さず、私は全力で北西の森の入口へ向かって走り出した。

 背後から、ヒポグリフの鋭い鳴き声が響く。

 振り返る余裕はないが、どうやらヒポグリフが猛然と追きているようだ。

(......速い!)

 鳴き声の接近具合から推測するに、予想以上の速度だ。

 空からの直線距離では、私の疾走速度をはるかに上回るようだ。

「ギャアアアッ!」

 ヒポグリフが急降下してくる。


 その瞬間——

「第二陣、斉射!」

 森の手前に伏せていた第二陣の護衛部隊が、一斉にクロスボウを放った。

 矢がヒポグリフの翼と頭部を狙う。

 ヒポグリフは風魔法で矢を防ぎながら上昇し、もう一度体制を立て直す。


 その隙に、私は森の入口に飛び込んだ。

「よし!援護予定どおり。牽制部隊は撤収しろ!」

 カスパーの声が背後から聞こえる。


 枝を避け、岩を飛び越え、森の中を全力で木々の間を縫うように走る。

 背後から、バサバサという羽音と、木々がへし折れる音が聞こえる。

 ヒポグリフが森の上空を飛びながら、私を追っているようだ。

(森の中では木が邪魔で急降下できないはずだ)


 時折、木々の隙間からヒポグリフの影が地面に写る。

 だが、密集した木々がヒポグリフの攻撃を阻んでいる。

 私は木々を盾にしながら、ひたすら前へ走る。

 ヒポグリフの鳴き声が響く。苛立っているようだ。


 無事森を抜け、下り坂を更に速度を上げて駆け抜ける。

 森の木々の邪魔がなくなったからであろう、さっきより背後に迫る羽音が近くなってきている。

 羽音がいよいよ近くなってきた時、渓谷の入口が見えてきた。

(もうすぐだ!)


 背後で、ヒポグリフの鳴き声が一段と大きくなる。

 だが、渓谷の入口まであと100メートル。

 私は更に加速し、渓谷の入口に飛び込んだ。


 渓谷の中に入ると、ヒポグリフの羽音が足音に変わった。

 予定通り、翼を広げられないため、地上に降りて追ってきているのだ。

 振り返ると、ヒポグリフが四肢で地面を蹴り、猛然と追ってくる。

(地上でもかなり早いな・・・)

 しかし、その速度は予想の範囲内だ。

 私とヒポグリフの速度は同じだが、渓谷は曲がりくねっているので、小回りが利く分私の方が有利だ。

 ヒポグリフが迫ってくる・・・その距離、約30メートル。

 曲がり角で、私は急激に方向を変えると、ヒポグリフは巨体ゆえに曲がり切れず、岩壁に激突しそうになる。

 その隙に、私は距離を稼ぐことが出来る。

 しかし、ヒポグリフは知能が高いようで次第に曲がり角での速度調整を覚え始めている。

(......やれやれ、厄介だな)

 それでも渓谷を走る速度は私の方に分があった。

 私は速度を調整しながら、ヒポグリフを渓谷の奥へ誘い込む。

 距離を詰められすぎないように、かといって離しすぎないように・・・ヒポグリフが諦めて引き返さないように、距離を保ち走り続ける。

 渓谷の奥まで約2キロ、ヒポグリフ相手の命がけの鬼ごっこもあと少しだ。


拙い文章、読んでいただきありがとうございます。


多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。

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