1.騎士レオンハルト新興貴族令嬢の護衛騎士に配属される
月に一度の定例会議が始まる。
私、レオンハルト・フォン・ユーリヒは、執務室の隅に立ち、黙って会議の様子を見守っていた。護衛騎士として、護衛対象であるシャルロッテの傍にいるのが仕事だ。
ここはシルバーレーヴェ(銀獅子)商会の会議室。
シャルロッテが所有する商会で、ザルツヴェーデ帝国の帝都グラーフェンハイムでも評判の商会だ。ザルツヴェーデ帝国は大陸の中央に位置する富国強兵の国で大陸公路(別名:銀の道=シルバーヴェーク)の要衝を押さえ、陸路交易で繁栄している。
シルバーレーヴェ商会の主な事業は交易と物販である。
帝国内外の物品を取り扱い、特に海路を通じた新商品の輸入に力を入れている。貴族の婦女子向けの美容品、富裕層向けの珍しい食材、好事家が好む工芸品など、帝都の富裕層向けに商品を扱っている。
私がこの商会……いや、ヴェルザー伯爵令嬢シャルロッテの護衛に配属されたのは、半年前のことだ。
「レオンハルト・フォン・ユーリヒ、卿をヴェルザー伯爵家の護衛騎士に異動させることになった」
帝国第一騎士団の団長オイゲン子爵からそう告げられた時、私は内心で溜息をついた。
帝国騎士団は第一から第十まであり、職制上で分けられており上下の関係にはない。第一騎士団は帝都の防衛・治安維持などを担っている。要人の護衛も職務の一環だ。
ヴェルザー伯爵家は現当主の父の代に男爵から伯爵へと陞爵した新興貴族だ。(ちなみに家紋が銀獅子で商会の名前は家紋からとっている)
当時のヴェルザー男爵カールが、陸路貿易の際のモンスター・盗賊被害が多い点に目を付け商隊の護衛を請け負う陸路交易護衛隊を立ち上げた。
陸路交易防衛隊は、信頼と実績を積み上げ帝都で最大のシェアを誇る護衛隊となった。帝国において大陸公路貿易が盛んなため、需要は尽きない、護衛隊の事業は安定的で莫大な富を生み出した。
その富を背景にヴェルザー家はは伯爵へと陞爵した。現当主のリーゼロッテ・フォン・ヴェルザー伯爵夫人(夫人が当主、伯爵の夫人ではない)の代で護衛隊の質の向上を果たし名称をシルバーヴェーク護衛隊に変更した。
業界内のシェアとヴェルザー家の富をさらに拡大し、今では帝都屈指の富貴な家として知られている。
実力・財力・影響力で公爵に匹敵するほどだが、旧貴族からは「成り上がり」と蔑まれることも多い。
通常騎士団から護衛騎士が配属されるのは侯爵以上というのが慣例だから、ヴェルザー家への護衛騎士の配属は異例といえるだろう。ヴェルザー伯爵家の護衛騎士となれば色々厄介なことが多そうだ。
……まあ、仕方ない。騎士団からの配属命令だ。
「ヴェルザー伯爵夫人の護衛ですね。拝命いたします」
「卿が快く引き受けてくれてよかった。ちなみに護衛対象は伯爵夫人ご自身ではなく令嬢なのでよろしく」
「あのヴェルザー伯爵令嬢ですか?」
騎士団からの正式な命令である以上、拒否はできない。
団長は申し訳なさそうに続けた。
「すまないな、レオンハルト。お前は将来を嘱望されていたのだが……」
周囲にいた同僚たちも、同情的な視線を向けてくる。
「ご愁傷様」
「あの令嬢の護衛とは……気の毒に」
「性格がきついって噂だぞ」
「まあ、頑張れよ」
皆、慰めるように声をかけてくる。
だが、誰一人として「代わってやろうか」とは言わない。
……そりゃそうだ。
ヴェルザー伯爵令嬢シャルロッテ、ヴェルザー伯爵家の一人娘なのに商会の会長であり、冒険者登録をしている異端の令嬢だ。
たぐいまれな美貌、優れた経営手腕、天才的な剣術・魔術の才能、そしてそのすべてを考慮してもトータルでマイナス評価になるほど性格が悪いと社交界で評判になっている。
誰もが敬遠する、厄介な人物だ。
かつてシャルロッテは騎士団に剣術の訓練に参加したことがあった。
ほんのわずかな期間だったが、彼女は剣術・魔術・戦術指揮どれもそつなくこなす才能あふれる人物であった。
絶世の美女のため研修に来た当初は騎士団内でもあこがれる隊員が多数いたが、私は剣術の立ち合いを通じて性格が悪いこともすぐわかったので表面上の付き合いに終始した。
私はどうせ一時的な研修で期間が過ぎれば会うこともないだろうと高をくくっていたのだが・・・
今回の人事は伯爵家から希望があったということになっているが、事実はおそらく違う。
私は騎士位を持つ下級貴族出身で、24歳で小隊長というのは後ろ盾のない下級貴族としてはまあ出世の早いほうだろう。
だが、それは一部の高位貴族出身の騎士たちにとって、面白くないことだったらしい。
特に、グスタフ・フォン・エッシェンバッハ。侯爵家に連なる男で、騎士団内では派閥を作り、幅を利かせている。
「下級貴族の分際で、生意気だ」
そうグスタフの派閥の奴から陰口を叩かれていることは知っていた。
そして、今回の人事・・・
戦闘の実力を考慮して私が選ばれたという形になっているが、実際は……グスタフの圧力と、団内の派閥調整の結果だろう。
「厄介な令嬢の護衛」という貧乏くじを、下級貴族の私に押し付けた。それだけのことだ。
「……わかりました」
私はそう答えた。
団長は安堵の表情を浮かべ、同僚たちは「頑張れよ」と肩を叩いてくる。
(それなら代わってくれ)
内心でそう思ったが、口には出さなかった。
言ったところで、誰も代わってくれないことは分かっている。配属命令である以上、拒否はできない。
私は、半ば押し付けられる形で、シャルロッテの護衛となった。
しがない下級貴族出身の騎士である私には選択権などないのだ。
拙い文章、読んでいただきありがとうございます。
多少なりとも楽しんでいただけたのなら幸いです。




