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2025/5/17

気が付くと僕は地下神殿のどこかにいた。

周りには淡々と柱が立っていて、出口なんてどこにも見当たらない。

なぜかこの時、「だれかとはぐれた」という考えが去来してやまなかった。

茫漠な不安を払しょくするためにも、僕は地下神殿の奥深くへと潜りこみに行った。

コツコツと足音が反響して神殿内に鳴り響く。その山彦が孤独感に僕を閉塞させていき、また僕はそれを消し去ろうと歩を進める。柱はより早く視界の外側へと追いやられていく。

そして、何たびもネガティブな感情から逃げようと神殿の奥深く迄逃避して、或ることに気が付いた。

柱の本数が、いや、スパンが短くなっているのだ。

既に冴えた目で先を見つめると、柱の間隔がさらに近づき、徐々に連なっていって、壁のようになっていた。つまり、この先は袋小路になっていたのだ。

もしや出口があるかもしれない。と淡い願望を胸に抱いて、袋小路に入っていった。

やっぱり何もない。なんだ。軽めの絶望に拉がれていると、上から不愉快な物音が聞こえた。

それは青軸の打刻音に似た、笑い声か足音。しかも、重複して響いている。

見てはいけないものだ。とすぐさま察知して、先ほど来た道を戻ろうと振り返ったとき、柱が増殖していた、壁になっていたのだ。そして不愉快な物音はいまだ鳴りやむことないばかりか、大きくなっている。

こちらに接近しているのだ。

僕は恐怖で腰が抜け、生の終わりを悟った。その時だった。

あなたはどの能力が欲しいですか?1、蛾になる 2、異世界に…

死にたくない、と無様に思考する中に投じられたチャンスを逃がさぬように、僕は反射的に「1」と答えていた。

すると忽ち、背中から翅が生えてきた。そいつを広げてやるとプロペラのような轟音を鳴らしながら飛ぶことが出来るようになり、僕は、さっきからカタタタと鳴らす化け物の姿を視認した。

闇の隙間から姿を露わにしたのは、全長3メートルを超える大蜘蛛。そいつはどうやら糸疣をぷっくりと膨らましているらしく、予備動作だと理解した。ごおおお!と暴風のような鳴き声を出して、その疣から針糸が飛んできた。僕は翅をうまく操ってひらりとそれを避ける。

この調子でかわし切れれば。

そして油断した時だった。大蜘蛛はきいいい!と黒板を爪で削るような衝撃波を雷鳴させ、あたりに亀裂を走らせた。僕の翅もボロボロに砕き、逃げる手段を失わせたのだ。

僕の一身は地に打ち付けられ、万事休すとなったその時、ぱらぱらと石ころが降っていることに気が付いた。見上げると、一帯に亀裂が入っており、地下神殿は崩壊を始めていた。降り落ちる礫のスケールは次第に巨大なものになっていき、ひとたび降りかかれば、圧死してしまうほどの大きさになっていった。

喘ぎ喘ぎ蠢きながら、僕は叩きつけてくるそれらを回避して、生き残ろうとしていると、背中に、望んでいた感触が湧いてきた。直ぐにわかった。翅が再生したのだ。

再来を喜びながらも、今はこの崩壊から身を守らねばならない。僕は再び翅を広げ、空に舞った。崩壊を続ける天井を見上げると、そこにもう闇は存在せず、月明かりが差し込んであたりを照らしていた。僕は月を目指して更に翅を大きく広げ、外の世界へ舞い上がった。

超克と共に地上に照らされて、物語の終わりを悟る。少し切なく、僕は真下にある深淵を覗いてみることにした。

だがそこにはもう、闇しか残っていないらしい。


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