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【邪祓師の腹痛さん一巻】@富士見L文庫より発売中  作者: 深川我無@書籍発売中
水鏡案件 その壱

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旅館㊳


 

 渡り廊下を覆う無数の蟲。

 

 食事の後なのか、甲虫達は一様に触覚を拭うような動作をしている。

 

 

「なんだよこれ……」

 

 松永百々が思わず口を開いた。

 

 

 水鏡は松永の方に振り向くと彼の両肩にぽんと手を乗せる。

 

 

 

「千代さんが待ってるのは僕ではなく……松永くん!! 君だ!! あとは任せた」

 

 

 

 そう言って引き返そうとする水鏡の後ろ髪を翡翠が掴んで引き戻す。

 

 

「さ、冴木くん!! これはマジで無理なやつだ!! 僕は虫だけは本当に駄目なんだ!! アレルギーがある!!」

 

 

 

「いいから行け!!」

 

 

 翡翠は水鏡のお尻をヒールで刺すようにして渡り廊下に押し出した。

 

 

 踏み出した足の下からパキっという不気味な音がして水鏡の背中に鳥肌が立つ。

 

 

 

「ああ……」

 

 

 

 水鏡は情けない声をあげてしばらくそのまま固まったかと思うと、突然大声を上げて渡り廊下を走り抜けた。

 

 

 

 

「どぉうだぁあ!? 思い知ったか虫どもめがぁあ!!」

 

 

 

 叫ぶ水鏡をよそに、三人は水鏡の切り開いた血路を素早く渡りきった。

 

 

 水鏡はなおも虫たち向かって挑発するように舌を出し目を見開いて両手の中指を立てている。

 

 

 

「水鏡先生……もう分かりましたから先を急いでください」

 

 

 翡翠がそう言っても水鏡は挑発をやめない。

 

 それどころか群れからはぐれて別館に入って来た虫を蹴飛ばして勝ち誇った笑みを浮かべて翡翠たちの方を見た。

 

 

 

「見たか!! 僕だってこんな虫の怪異ごときには負けないんだよ!!」

 

 

 翡翠の反応が無い。

 

 それどころか水鏡以外の全員が唖然とした表情で水鏡の背後を見つめている。

 

 

 

「なになに!? みんなどうしちゃったの!?」

 

 

 

「後ろ……」

 

 

 そう言って松永百々が水鏡の背後を指さした。

 

 

「へ……?」

 

 

 

 水鏡が振り向くと、そこにはだらりと首をぶら下げた三谷が立っていた。

 

 

 

「み、三谷さん……!!」

 

 坂東がつぶやく。

 

 

 

 三谷は片方のまぶたをピクピクと痙攣させながら不自然に垂らした首を揺らして水鏡に抱きつこうと両手を大きく広げた。

 

 

 

「ぎゃああああああああ!!」

 

 

 

 叫ぶ水鏡を翡翠が引っ張ったおかげで、水鏡はなんとか捕まらずにすんだ。

 

 

 

「水鏡先生!! こういう時はどうすれば!?」

 

 

 

 叫ぶ坂東に向かって水鏡も叫び返す。

 

 

 

「逃げるが勝ちです!!」

 

 

 水鏡は翡翠の手を引いて廊下の奥へと走った。

 

 それを見た二人も置いて行かれまいと慌てて後を追った。

 

 

 

 どこかの部屋に逃げ込もうとするも、廊下の両脇にある扉はどれも施錠されていて開かない。

 

 翡翠が振り向くと三谷だった怪異が四つん這いで追いかけてきているのが見えた。

 

 

 

「先生!! 追いかけて来てます!!」

 

 

「やばいやばいやばいやばい……!!」

 

 

 手分けして入れる部屋を探していると坂東が思い出したように奥へ向かう。

 

 

「皆さん!! こっちです!! こっち!!」

 

 

 三人は坂東が呼ぶ方へ走った。そこは物置部屋のようだった。

 

 

 全員が中に入ると坂東は扉を閉めて鍵をかけた。

 

 

 

 

「これって追い詰められたんじゃ……」

 

 翡翠がぽつりとこぼした。

 

 

「いやいや!! 冴木くん!! さすがに怪異でも人間の姿ではこの鉄の扉はどうしようもないよ!!」

 

 

 水鏡はコンコンと扉を叩いて言った。

 

 

 

 

 コンコン……!!

 

 

 

 

 まるで呼応するかのように扉が叩き返された。

 

 

 

 水鏡は顔を膨らませて息を止めた。

 

 扉に付いた針金入りの擦りガラスから目が離せない。

 

 

 

 

 そこには明らかに人のものではない細長い手足のシルエットが浮かんでいた。

 

 

 

 

 一行は息を潜めて成り行きを見ていた。

 

 

 冷や汗が背筋を伝う中、物音を立てぬように誰も微動だにしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「行ったかな……??」

 

 気配が消えてしばらくすると水鏡が小声でつぶやく。

 

 

 

「どうでしょう……??」

 

 翡翠が疑わしそうにささやく。

 

 

 

「開けてみますか……??」

 

 坂東の提案に三人は同時に首を横に振った。

 

 

 

 カリカリカリ

 

 カリカリカリ

 

 

 ガコン……

 

 

 

 一行が音の方に振り向くと、換気ダクト蓋が外れて、四角い穴から長い首を伸ばした三谷の頭が覗いていた。

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