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【邪祓師の腹痛さん一巻】@富士見L文庫より発売中  作者: 深川我無@書籍発売中
水鏡案件 その壱

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74/91

旅館㉝


 

 遠くで声が聞こえる。

 

 

 

 ちゃ……

 

 

 ば……ん……

 

 

 

 ひどく不明瞭な声だが懐かしい気がする。

 

 

 

 ばん……おじ……

 

 

 

 しっかりしてください……ちよちゃんを……たすけるんでしょ?

 

 

 

 千代……?

 

 

 

「坂東のおじちゃん!! しっかりしてください!! 坂東のおじちゃん!!」

 

 

 突然意識がはっきりして坂東は上体を起き上がらせた。

 

 

「痛ぁあ……」

 

 

 途端に鋭い痛みが頭を襲う。

 

 

 

「おじちゃん!? 気がついたの!? 良かった……死んじゃうかと思ったよ……」

 

 

 坂東は痛む頭を押さえながら車のヘッドライトに照らされた青年の顔を見た。

 

 

 

「松永さんとこの……百々くんか……!?」

 

 

 松永百々は泥まみれの姿で安堵の表情を浮かべていた。

 

 

 坂東が周囲を見渡すと土砂崩れに巻き込まれた無惨な木々と人形の姿が目に飛び込んできた。数メートル下には土砂に埋もれた軽トラの姿もある。

 

 

 

「百々くんが助けてくれたんか?」

 

 

 

「旅館の近くに車を止めて千代ちゃんが出てくるのを待ってたんです。そしたら坂東のおじちゃんが慌てて出ていったから気になって……」

 

 

 

 

「そうだった!! はよ旅館に戻らんと!!」

 

 

 坂東は血相を変えて起き上がった。

 

 

 

「どうしたんですか??」

 

 

 

「急いで帰らんと!! 千代ちゃんは旅館のもんを皆殺しにしちまうつもりだ!!」

 

 

「ええ!?」

 

 

 

「わしが呼んだ霊媒師の人が上手くやってくれていればいいが……」

 

 

 

「霊媒師!? いったい何の話ですか!?」

 

 

 

「話は車でするから早く車を出して!!」

 

 

 そう言って坂東は百々を車に押し込むと自分は助手席に乗り込んだ。

 

 

 

 

「忌沼旅館には秘密があるんよ……女将の旦那になるもんは皆長く生きられん……だから千代ちゃんは百々くんとの結婚を先延ばしにしとった。あの旅館を出るまでは結婚できんっ言ってな……百々くんが死んだら困るって泣いとった」

 

 

 

「そんなの迷信でしょ!? 僕は大丈夫なのに……」

 

 

「迷信じゃない」

 

 

 坂東は百々を睨みつけて言った。

 

 

「春男、夏男、秋男、そして幸男。それがあそこの女将の亭主になる男の名前よ。女将の旦那さんは春男さん。だから次は夏男になる」

 

 

 百々は息を飲んだ。たしか先代は幸男といったはずだ。たしかに作り話や験担ぎにしては手の込み過ぎた話だった。 

 

 

 

「幸男以外の男は生贄されるって話だ。千代ちゃんは百々くんを生贄にされないために必死だったんだよ。あれこれ理由を付けて結婚を先延ばしにしてた。遅々として進まない縁談に業を煮やした女将は親戚筋から夏男さんを引っ張てきた」

 

 

 坂東は悔しそうな表情を浮かべて続けた。

 

 

「わしは小さい頃から千代ちゃんのことはよおく知っとる。あんな優しい子がこんな目に遭っていいわけがない。だから内緒で霊媒師を雇った。同情を誘うために千代ちゃんに成りすましてメールを送った」

 

 

「だけど霊媒師に接触する前にこんなことになってしまって……」

 

 

 

 そこまで話を聞いて百々は首を捻った。

 

 

「ちょっと待ってください!? どうしてそんな状態の旅館から出てきちゃったんですか!? 千代ちゃんは霊媒師の話は知ってるんですか!?」

 

 

「いや……まだ言ってない。それにこんなことになるとは思ってなかった……」

 

 

 

「大体なんで千代が皆を殺そうとしてるって分かるんですか!?」 

 

 

 

 坂東は俯き加減で弱々しくつぶやいた。

 

 

「さっき……」

 

 

「さっき?」

 

 

「意識を失ってる時に……」

 

 

 

 

 

「死んだ家内が教えに来た」

 

 

 

 

 

 百々は絶句した。おじちゃんは頭を打っておかしくなったのだろうか!? そうでなくても随分な歳だ。痴呆の気があっても不思議ではない。

 

 

 

 

「千代ちゃんが大変よ!! 千代ちゃんを助けるんでしょ!? そう言って家内が教えに来たんじゃ」

 

 

 

 坂東は百々の目を真っ直ぐに見つめて今度は力強く言い切った。

 

 その眼はとても痴呆症の老人には見えなかった。

 

 

 百々は黙って頷くとハンドルを握る手に力を込めて忌沼温泉へと急いだ。

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