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【邪祓師の腹痛さん一巻】@富士見L文庫より発売中  作者: 深川我無@書籍発売中
水鏡案件 その壱

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旅館⑰

 

 寝汗でぐっしょりと濡れたかなめは荒くなった呼吸と激しく脈打つ心臓の音を聞きながらあたりを見渡した。

 

「ゆ、夢……??」

 

 

 

 差し込んだ朝日が部屋に舞う小さな埃の粒にぶつかり、伸び縮みする空間が美しい。

 

 

 

 

 夢で見た陰鬱な部屋とは似ても似つかない美しい客室に安堵すると同時に、疑問が湧き上がってくる。

 

 

 

「あれはいったい何処だろう……」

 

 

 

 

 夢の中の空間は美しい旅館とは、かけ離れたイメージでありながらも無関係とは思えない。

 

 

 それはまるでコインの裏表のように切り離すことが出来ない濃密な交わりを持つように思えてならなかった。

 


 しかしかなめはその関係をうまく捕えることができない。

 

 

 

 ふと隣に目をやると卜部の姿はなく、綺麗に整えられた布団が冷たくなっていた。

 

 

 かなめは慌てて起き上がり、服を着替え、卜部を探す。

 

 

「先生!?」

 

 不吉な夢のせいでなんとなく不安な気持ちになったかなめは少し大きな声で卜部を呼んでみた。

 

 

 しかし反応はない。

 

 

 ますます不安になって部屋を飛び出そうとした時だった。

 

 

 

 

 ザァーーーーーーー

 

 

 

 水の流れる音がした。

 

 

 

 すると顔色の悪い卜部が個室から姿を現した。

 

 

 

「先生!! いるなら返事してください!!」

 

 かなめは安堵して卜部に抗議する。

 

 

「やかましい。こっちはそれどころじゃなかったんだ……」

 

 目の下にクマをこしらえた卜部が、げっそりした表情で言う。

 

 

 

「お腹こわしたんですか……?」

 

 かなめは恐る恐る尋ねる。

 


 卜部はかなめを一瞥するとわずかに頷いた。

 

 

 

「飲み過ぎですか……?」

 

 

 

「霊障だ……………タブン」

 

 

 語尾は聞き取れないほど小さな声だった。

 

 

「え?」

 

 

「何でもない!! 行くぞ亀。朝飯のあと忌沼とやらを見に行く」

 

 

「やった!! 紅葉狩りですね!! ちょっと待っててください!!」

 

 

 かなめは夢のことも忘れて洗面台に向かうと朝の身支度を手早く済ませて卜部と部屋を出た。

 

 

 

「鈴木を呼んでくる。先に座敷に行ってろ」

 

 

 かなめはラジャと敬礼して一階の座敷へと向かった。

 

 

 

「おい!! 鈴木!! いるんだろ!? 出てこい!!」

 


 ちらりと振り向くと、まるで借金取りのように激しく扉を叩く卜部の姿が見えた。

 

 

 

 

 階段の踊り場に差し掛かったころ、今度は受付の奥から悲痛な声が聞こえてくる。

 

 

 

「お母さん!! 話が違うじゃない!! 待ってくれるって言ったのに!!」

 

 

「若女将!! 旅館で大きな声出さないでちょうだい。お客様に聞こえるでしょ?」

 

 

「何がお客様よ!! いつもそう!! 私の言うことなんて一つも聞いてくれないくせに!!」

 

 

「とにかく、今は声を抑えて。ね? お願いよ? もう夏男さんには来るように言っちゃったの。ね? 少し会うだけで良いから。ね?」

 

 

 

 かなめは気まずい空気に困惑しつつ階段を降りると、ちょうど受付から飛び出してくる若女将と鉢合わになってしまった。

 

 

「お、おはようございます」

 

 かなめは咄嗟に挨拶した。

 

 若女将の千代は目に涙を溜めて、小さく頭を下げると足早に去っていった。

 

 

 

 かなめは若女将を気にしつつ座敷の窓際に位置する席に座って卜部たちを待っていた。窓からは美しい紅葉に彩られた渓谷が赤々と燃えていた。

 

 

「綺麗でしょう? 今が一番見頃ですよ」

 

 気がつくと女将の姿があった。

 

 

「はい。燃えるような紅葉ですね。とっても綺麗です!!」

 

 かなめがにっこり笑って答える。

 

 

「まあ! 素敵な褒め言葉をありがとうございます。だけど地元ではまるで血のようだって怖がる方もいるんですよ」

 

 

 女将はにんまり笑ってそう言った。かなめはそれにどう反応すればいいのか判断がつかず、ああ……と曖昧な返事になってしまった。

 

 

 女将は頭を下げてどこかに行くと、それと入れ替わりで卜部たちがやってきた。

 

 

「悪い。遅くなった」


こうして四人は旅館ならではの充実した朝食をすませて、紅葉の名所と名高い《《忌沼》》へと向かうのだった。

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