プール⑪
建物の外に出てあたりを見渡すと、通りにいくつか食事処があるのが見て取れた。スイミングスクールは交差点の一角に建てられており、裏手の方に進むと比較的大きな総合病院があった。そういうせいもあってか、弁当屋やコンビニにはナース服を着た女性の姿も散見された。
「どこに食べに行きましょうか?」
かなめはきょろきょろとあたりを見回しながら卜部に意見を求めた。
「こっちだ」
卜部はそういうと総合病院の方角に向かって歩き出した。
「大通りじゃないんですか?」
かなめは後ろを振り向きながら尋ねる。
「あんなところはチェーン店ばかりだろう。そうでなくても流行りの一発屋みたいな店か、変わり映えのしない無難な店かのどっちかだ」
卜部の偏見に満ちた物言いに、かなめが反論しようかと思っていると、突然卜部の足が止まった。視線の先には「洋食屋トミダ」と書かれた古めかしい看板。
「洋食か……」
卜部は髪をかき上げて後頭部をかく。
「いいじゃないですか! 洋食! 先生、あそこにしましょうよ!」
そう言ってかなめは卜部の背中を押しながら洋食屋トミダに向かった。
ショウウィンドウの中に並ぶ昔ながらの食品サンプル。クリームソーダや、皿から飛び出して宙に浮いたフォークに巻き付くナポリタン。時代錯誤な雰囲気が幼少のころのワクワクを呼び起こしたためか、かなめはどことなくうきうきとした気分になってきた。
深緑と白のストライプ柄のオーニングは年季が入っている。入り口の脇にはベンチが置かれ、その周辺にはごちゃごちゃに色々な花が植えられたプランターがいくつも並んでいた。
白のペンキで塗られた木の扉には凹凸の施された黄色い硝子がはめ込まれており、特有の《《ちゃちさ》》が滲んでいる。かなめが軽い木の扉を開けると備え付けられたカウベルが勢いよくカラカラと音を立てた。
「いらっしゃい。お好きな席にどうぞ」
赤いバンダナを巻いた女性がそう言って二人を迎えた。中は昼間でも薄暗く、よく言えば落ち着いた雰囲気、悪く言えば少々退廃的な感じがした。
「うわー懐かしい感じですね!」
かなめはご機嫌でメニューを開いている。
「日替わりがうまいのか、それとも日替わりはロスを捌けるためのメニューなのか、そこが問題だな」
難しい顔でメニューを睨んでいるが、卜部もなんだかんで楽しんでいる様子だった。
「お決まりですか?」
水とカトラリーを持って先程の女性が注文を取りにきた。
「私は大人のお子様ランチで! 食後にクリームソーダをお願いします」
「大人のお子様ランチ!?」
卜部は思わず口に出した。
「なんです? ちゃんとメニューにあるんですよ! おかしくないですよね?」
店員の女性に向かってかなめが言う。
「はい。うちの人気メニューですよ」
女性はクスクス笑いながら答えた。それを見てかなめは勝ち誇った顔で卜部を見る。
「俺はデミグラスビーフカツレツプレートを頼む。それと食後にホットコーヒーを」
店員は伝票にオーダーを記載するとカウンターの向こうで料理する大柄の男性に向かって注文を叫んだ。すると男性は親指を立てて了解の合図をするのだった。




