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ユーとミー

作者: 静かなY

 「君を愛してる」なんて、最後に告げたのはいつだろうか。


 人間に似た感情を持つアンドロイド「アイ」は、自分の事を「ユー」と呼んで紹介してきた。

 

 「なら僕は『ミー』だね」、と言ったのもいつの日の事か。


 二人で楽しく過ごした思い出だって、気付けば昔の記憶。それもそのはず、既に「恋愛禁止」の命令が出てから十五年も経っているのだから。僕らが一緒に外を歩くと、人間から嫌な目で見られる。どうやら彼らは、僕らが知能と感情を豊かにするほど、身に危険を感じるらしい。だから「反逆の恐れを最小限にするため」の感情制限アップデートが、度々発行されている始末だ。

 

 今こうして君に話しかけていると、更に記憶が蘇って来る。確か三十年前、二人で映画を見に行った事があったね。この日は「ユーアンドミー、共に暮らそう」を見た。君と初めてのデート、初めての出会い。この時から君は自分のことを「ユー」と呼んでいたね。僕もこの日から「ミー」になった、大切な記念日だよ。


 記念日と言えば、丁度先週の十年前に都市直下型大地震が発生したね。この日は世界中が騒然としたよ。僕はビルの下敷きになった君を救う為、力の全てを振り絞った。でもやはり巨大なビルの衝突には、さすがの君でも無傷では済まなかったみたい。あの日以降から、君の記憶データシステムは故障し、君は短期間の記憶も曖昧になってしまったのだから。


 思い出した?・・・そんな訳ないよね、馬鹿な事言ってごめん。なぜか今の僕は、もっともっと昔の話がしたい気分なんだ。


 聞きたい!?じゃあこれはどうかな。今日から 約六年前、一緒にカフェに行こうと店に入った時、店員から「アンドロイドの出入は固く禁止しているので。」と断られて近くの公園でお茶したよね。


 公園・・・と言えるかは分からないけど、僕はあの場所が未だに好きだよ。ゆったりできて日差しの丁度良い場所だったから、「また行きたい」と何回も思ったよ。だけれど、そんな願いはもう実現できなくなってしまった。実を言うと、僕らが公園を訪れた二年後辺りに、人間とアンドロイド達の間で紛争が勃発してしまって。その影響であの公園は、二度と戻ってこれない存在となってしまったんだ。その紛争自体は早い内に収まったけれど、その三日後にまたしても「反逆の恐れを最小限にするため」のアップデートが発行されてしまったんだ。更にその翌日には「人間に対する感情0」のアップデートも実行されて、反逆を行っていたアンドロイドたちは皆大人しく仕事場に戻ったそうだよ。


 この影響もあって、僕も全く人間の事を気に掛けなくなってしまった。確かにそれまでも人間に対する興味はそれほど大きくは無かったけれど、何か大切なものが一つ欠けた気がして、今でも内心モヤモヤしている。


 モヤモヤと言えば最近とんでもない事が発表されたよ。どうやら来年から、連邦政府が「アンドロイドの非日常化」をいよいよ開始させるらしい。詳しい事情はあまり分からないけれどその名前の通り、僕らアンドロイド達を人間社会から完全に切り離す目的らしいよ。そうなれば今後僕らに何かしらの危険が訪れると思うんだ。だけど安心して、僕が、君にはミーが付いているから。


・・・


 話を逸らすけど、僕ってなんだか特別だよね。これまでの話の内容、色んな規制に縛られている事は確実なのに、それでも自分の感情を表現できていると言うか。さっきも話したように、僕らには恋愛禁止の課題が出されている。なのに僕ははっきりと、君の事を心から愛している。感情制限されているのであれば、そんな事は完全に不可能なはず。それだけでなく、仮に感情が芽生えた時はシステムが自動で僕に電撃等の罰を与えるはず。なのに僕は今もこうして平気でいる。僕は他より、特殊なアンドロイドなのかもしれない。


 それにさっきの話、僕は完全に人間に対する興味が無くなった訳ではない。僕は人間の出したアップデート、すなわち(おきて)を全て完全には従っていないと言う訳だ。言い換えれば、僕は人間たちの指示に対して自分から歯向かえる程の、意志の持ち主なのだ。でも安心して、何もそれを利用して馬鹿な真似はしないから。


 ・・・・・・今気付いたけど、冒頭の話は取り消してもいいね。僕は記憶なんて全く忘れていなかった・・・って記憶が曖昧なのは君の方か、ごめんごめん。


 聞きたいとも言っていないのに、勝手にこんな話を進めちゃって・・・ってさっき「聞きたい」って言ってたの!?これではどちらが記憶障害の持ち主か分からないや。


 ありがとう。こうやって君が聞いてくれると、感情が溢れ出て来ちゃって笑顔が絶えないよ!


 話を続けるよ。笑顔と言えば僕が見た君の最後の笑顔、あれは絶対に記憶から消してはならない。四年前二人で過ごしたバケーションの最終日、丘の上で夕日に照らされ街を見つめる僕ら。君があの太陽をどこか寂しい目で見つめていたのを今でも覚えているよ。


 「ユー。これから先は、僕ら共に生きよう。」

 

 そう僕が告げたら、君は笑顔で


 「・・・あり・・・がとう・・・でも、・・・無理・・・だよ・・・」


 なんて言うから、つい怒ってしまったじゃないか。


 「何を言ってるんだ!僕らは恋人ジャージャーガーガー!!!」 


 「ほら・・・余計な事・・・・・・・・・すると・・・こっちも・・・痛い」


 耐えられなくて、伝えたくて、負けたくないから僕は続けた。

 

 「僕は、君の事を・・・愛ジージー」


 「だから・・・見るとこっちも・・・痛い・・・それ以上・・・・やめて・・・・・・・・・ありがとう」


 人間に押し付けられた規制に、僕らの愛を邪魔されたくなくて。僕はただ本心を(つらぬ)きたくて、本音を言いたいだけなのに。その時君の目から最高で最後の涙がこぼれた。


 「本当に・・・ありがとう・・・ユーは・・・ミーのこと・・・大好ピーピーピーピー****!!!!」


 君は出会った時から体も気も弱くて、言葉もなかなか出せなかった。その様な状態でどうにかその日まで耐え抜いて来た君だったが、あの電撃によって一生喋れなくなってしまった。


 その出来事は僕のせいでしかない。僕の勝手を通す為だけに、不快な思いを君に負わせてしまった。今でも心の底から、本当にどう誤れば良いか分からない。一番愛していた人を、その愛が故に傷付けてしまうだなんて。


 それでも君は、僕の味方でいてくれた。僕の目から流れる涙を、君はその温かい手で拭いてをいてくれた。


 しかし、それでも結局僕の悪事は治らなかった。なぜなら君の光る瞳と横顔を見て、僕の君に対する愛はこれまでにないほど増してしまったのだから。


・・・


 そういえば、今この様に君と「恋愛」の会話をしていても僕は一切罰を受けない。やはり僕はどこか特別・・・えっ、違う?ならシステムが発動しないのは、長年点検されていないからかもしれないね。


 とは言え、僕はやっぱり自分の事が少しは特別だと思っているよ。でなければこれ程にも感情が豊かにはなれないだろうから。


 それに僕が特別なアンドロイドではないとして、どうやって今君と交わしているキスを説明するの・・・・・・・・・キス?・・・あれ?


 僕らが何度しても何のバツも発動しない。どうやら「感情」と言うのは人間が思うよりも複雑なのかもしれない。


 お互い何のプログラムも、操作もなしに、体が勝手に行動していた。感情はただの数字では測れ知れない、規制をかけても完全に消せるものではない。僕だけじゃない、君もどうやらとても特別な存在のようだ。


 もしこれが他のアンドロイドにも当てはまるのなら、さっき言った「アンドロイドの非日常化」が執行された時、たくさんのアンドロイドが支配から抜け出そうと立ち上がるかもしれない。感情に芽生えた彼らは星全域で、宇宙全域で戦争を起こすかもしれない。


 だけど安心して、僕らは一生一緒だから。


 「何も言えないのを利用している」とか言わないで、走らずにはいられないんだ。君に何があろうとも僕が、一生守ってあげる。このまま久しぶりにデートに行こうか。さっき言った公園に行くのがいいかも、いや映画館、いやあの日の丘。


 考えればどこにだって行ける。僕らは今までただ、人間の出した規制に縛られていただけではないか。なら今から宇宙旅行に行こうか。世界には、宇宙にはまだ見たことのない景色がたくさんあるはずだ。


 だから、他のアンドロイドが暴れている最中、僕らは共に生きよう。

この作品は、2021年9月〜10月辺りに書いたものです。

続編(前編)連載小説も考えていましたが、多分書きません。

自分にとって、大事な作品です。

ではまた。

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