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誰が彼女を殺したのか  作者: 志波 連
32/43

31 おばあ様とアレン

すみません。昨日の予約登録の際29話を飛ばしていました。

できれば29話から読み直していただけると嬉しいです。

申し訳ありませんでした。 





 二人が到着したとき、アレンは涙を流しながらマーガレットの手を握り跪いていた。

 アースが抱いていたマリアをマーガレットの横に座らせる。

 マリアは我慢できずにマーガレットに抱きついた。


『おばあ様……お会いしたかった』


『良かったね、マリア』


『はい、アース様が計らってくださったのですか?』


『いや、これはアレンの手柄だね。悔しいけれど君のために随分頑張ったみたいだよ?』


『アレンさんって? この方ですか?』


『ああそうか。君たちは初対面じゃないけど、本当の意味では初対面だねぇ。そうだよ、この男が君の夫となったアレン・ブロウだ』


『結婚式の時の方? こんなお顔だったかしら……』


『覚えてなくて当然だから、気にする必要は無いよ』


 二人の会話は生きている人間には聞こえないし、姿も見えない。

 それをいいことに、アースはマリアの頭を撫で続けていた。


「実は……マリア嬢は……亡くなりました。私が殺したも同然です。いえ、私が……死なせてしまいました。申し訳もございません」


 マーガレットの肩がビクッと揺れた。


「どういうことか、この年寄りにもわかるように説明していただけるかしら?」


 アレンは時々しゃくりあげながら知っている限りの話をした。

 マーガレットの横でマリアも驚いている。


『そんなことがあったのですか……知らなかったわ』


『知っていればやりようもあったのにねぇ。ホントに酷い父親だ』


『でもお父様は3か月したら必ず迎えに来るって言ってたのですよ? 私が3か月もたなかったから……お父様も亡くなったなんて。可哀想なお父様』


『あの父親を可哀想って思えるマリアは素晴らしい子だねぇ。うん、いい子だ』


 アースがマリアを抱き寄せた。

 

『あんまり甘やかすと、つけ上がっちゃいますよ?』


『是非つけ上がってほしいものだね。だってマリアは私の愛し子だから、もっとたくさん我儘を言って良いんだよ?』


『ありがとうございます。でももう生まれて初めていっぱい我儘を言ってますよ?』


『そう? 宝石とかドレスとか家とか言わないじゃない』


『だって必要ないですもの。時々忘れかけますけど、私死んでるんですよね? どこに着ていくんですか? 面白いアース様』


『ははは! そうかもう死んでるんだものね。マリアは生き返りたいかい?』


『生き返りたいか……う~ん、微妙ですが……おばあ様の看病はしたいなって思います』


『うん、なるほどね。マリアが望むならちょっと考えてみようかな?』


 二人が吞気な話をしている間に、アレンの告白は終わった。

 いかに自分が酷いことをしたかを訥々と懺悔したアレンの肩に、マーガレットの手が伸びた。

 マリアはマーガレットが怒っていることを感じ、ゴクッと喉を鳴らした。


「アレン・ブロウ侯爵様、あなたの言い分はわかりました。要するにあの子は実の父親に利用されたということね? そして父親は死んだ……無責任な男だったのねぇ」


「確かにエヴァンス伯爵は初手を間違えたと思います。しかし、マリア嬢を利用しようとした人間たちが如何にずるくとも、僕がしっかりしていれば……守れた命だったと思います」


「そうね、それは確かにそうだと思うわ。でも貧乏は辛いものねぇ。それにお母様の御病気のこともあったのでしょう? 逃げたかったのよねぇ? 縋ってしまったあなたの気持ちは理解できますよ。でもマリアは死んでしまったのね……マリアは……」


 マーガレットは両手で顔を覆って涙を流した。

 細かく震える背に手を回そうとして、アレンは伸ばした手を引っ込めた。


「申し訳ございません。僕にはあなたを慰める資格なんて無いんです」


 ひとしきり泣いた後、マーガレットは顔を上げてアレンに話しかけた。


「マリアの愛したカレントのために生涯を捧げることで、償いたいということなのね?」


「償えるとは思っていません。これは僕の自己満足です。少しでも罪の意識を薄めたいという汚い考えだと思います。でも……でも僕は……マリア嬢の愛したこの地を……マリア嬢に代わって少しでも……」


 アレンの言葉は嗚咽で聞き取れない。

 マーガレットはそんなアレンをじっと見ていた。


「ブロウ侯爵様、本当はあなたの援助など受けたくはありません。でも私が笑って暮らさないとマリアが悲しむわ。だからあなたの贖罪の気持ちを利用させてもらいます。そしてあなたの覚悟を命の限り見ていることにするわ。いい? これは監視よ? 許したわけではありません」


「申し出を受けていただけただけでもありがたいです。本当に感謝いたします」


「お金の心配はいりませんよ。こう見えて私って意外とお金持ちなの。でもね、足が悪くて一人では暮らせないのよ。あなたが面倒をみてくれるかしら?」


「勿論です。ご自宅にお帰りになりたいという事でしたら、すぐに手配いたしますし、お世話をさせていただく者も……」


 アレンの言葉を遮ってマーガレットが口を開いた。


「いいえ、私はあなたに面倒をみてほしいと言ったのよ? マリアの代わりをしてくれるのでしょう?」


「は……はい。勿論です。領主の仕事もございますので時間の許す限り……」


「それじゃダメでしょう? マリアの代わりに一緒に暮らしてもらうわ。そして我が家から領主館に出勤なさい」


「えっ……」


「さっきの言葉はウソだったの?」


「いいえ! ウソではありません!」


「じゃあ決まりね」


「うっ……わかりました。そのようにさせていただきます。しかし僕は家事ができないので返ってご迷惑をかけてしまうのでは無いでしょうか?」


「それは努力してちょうだい。マリアも最初はお湯も沸かせなかったわ」


 アースがマリアの頬を揶揄うように指先でつついた。

 苦笑いをするマリア。

 数秒考えたアレンが大きく息を吸った。


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