23 王族という生き物
宰相とロナルド公爵は、事の顛末を説明するために国王に謁見した。
謁見を申請してきた内容を察知した国王は、予定を変更してすぐに許可を出す。
「お時間をいただき申し訳ございません」
宰相の言葉にゆっくりと頷き国王は口を開いた。
「子はおったか?」
「残念ながらご懐妊には至っておりませんでした」
「そうか、まあ流石にあの血は入れたくなかったからなぁ。良かったんじゃないか?」
「それが少々問題が発生いたしまして」
宰相はローラとマリアの入れ替わりについて説明した。
表情も変えず聞いていた国王だったが、マリアの死についての説明に片眉を上げた。
「そうか。それで? 何が問題なんだ?」
「えっ……」
「そのマリアという本物は死んだ。父親と一緒に事故死にするのだろう?」
「はい」
「ローラという阿婆擦れが何やら事件を起こして拘束されているのだな? 内容は何でもよいがすぐに死刑に処すのだろう? どこに問題があるんだ?」
「いえ、ございません」
「それとラウムの出費分は必ず取り立てよ。まあ全額とは言わんができるだけ回収するように。ブロウのところで余っていたことにして返金処理すれば良かろう」
「仰せの通りに」
「ふむ……ああ、ロナルドとエヴァンスの誤魔化しを問題視しているのか?」
「はい、それもございます」
「エヴァンスは死んだ。ロナルドは……隠居せよ。それで良かろう。騎士達は消しなさい」
ロナルドがグッと拳を握って頷いた。
「仰せのままに」
「うん? まだ何かあるか?」
「ブロウ侯爵のところはいかがいたしましょうか」
「ああ、メイドは娼館へ売れ。メイド長は売れないかな? まあ家を買っているならそれを売れば良い。ああ、そうか。アレンの女か」
「はい、横領に加担しております」
「アレンはなんと?」
「今のところは何も……」
「辺境の修道院でどうだ? 当人たちが望むならそのまま正妻にするか?」
「いえ、それはさすがに。修道院を手配します」
「うむ。エヴァンスの伯爵株は王家預かりとせよ。領地も無いのだ。長女の子が継ぐというならその時に戻せば良いし、不要とするならそのまま接収だ」
「見事なご裁断でございます」
「くだらん内容だったな。まあ息抜きにはなったから良い」
「それでは御前失礼いたします」
国王との時間はものの20分といったところか。
宰相の顔色も悪かったが、ロナルド公爵は改めて国王の恐ろしさを感じた。
その頃アレンは第二王子であるラウムの前に立っていた。
「マリア嬢が亡くなりました」
「え? マリア? 君の正妻だったっけ? それは大変だったねぇ」
「はい、確かに私の正妻という立場におりましたが、ラウム殿下の公妾ですよ」
「そうだっけ? ああ、俺は謹慎してたから……。そうか、あのマリアか。思い出したよ。うん、思い出した。あの娘は口は悪いが良い体をしてたんだ。俺が初めての男でね。だから公妾か。非処女だったらすぐにでも捨てたのに、俺しか知らない上に妊娠の可能性があるって言うからそういう話になったんだよね? うんうん。そうだったそうだった。そうかぁ、死んじゃったか。ホント良かったんだよ? 鳴き声も締まり具合も抜群でさぁ……」
何を思い出しているのか、死んだと報告しているのにニマニマと笑う第二王子にうすら寒さを覚えるアレン。
「葬儀などはこちらで全て行いますので、お手を煩わせることはございません」
「ああ、そう。じゃあよろしくね」
憎しみしかないローラだが、ここまで蔑ろにされていることに同情を禁じ得ないアレンは、つい余計なことを口にした。
「マリアは殿下に愛されているんだと何度も言っていましたよ。会いたいと何度も」
「そう? それならきっと愛してるって口走ったんだろうね。でもそれって抱く時のお約束セリフでしょ?それにしても、あれほど世間慣れしているような口ぶりだったのに、マリアも普通の女だねぇ。女ってさぁ体を繋げるとすぐに愛だと思うんだよねぇ。そう考えれば男女の仲なんて、体から始めた方が口説く手間が無くて良いかもね。あっちにとっては愛でもこっちにとっては処理なんだけどさ。アレンもそうだろう?」
「いえ、私は……」
「へぇぇぇ。そんな男もいるんだぁ。じゃあアレンは愛した女じゃないと抱けない?」
「抱けないというより、抱きたくないが近いかと」
「まあ、人ぞれぞれだからねぇ。それにしても俺のようなタイプが多数派だと思うよ? アレンは珍しいタイプの男だね。ははは」
「そうかも知れません」
「まあアレンの性癖など興味も無いが。それで? 葬儀とかの関係で休むのかな? 今は人数が減っているけどそろそろ戻るだろうし、俺の外出禁止もまだ解けてないから護衛は必要ない。いいよ、落ち着くまで休みなさい。でもなるべく早く復帰してね」
「ありがたきお言葉。感謝いたします」
「うん、まあ……あまり気を落とすなよ」
アレンは全身が硬直しそうな気分のまま第二王子の執務室を出た。
ローラは恐らく今日中に処理されるだろう。
薬物売買も大変な犯罪だが、何より人を一人殺したんだ。
逃れる術はない。
それにしても、あんな女でも初めての男には何か違う感情を抱くのだろうか。
それともラウム殿下が言うように、体を繋げたことを愛と勘違いしたのだろうか。
そんな事を考えながらアレンは宰相の執務室に向かった。
ドアをノックすると返事はすぐに返ってきた。
「ああ、ご苦労だったね」
そう言った宰相は国王の裁断を淡々と伝えた。




