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誰が彼女を殺したのか  作者: 志波 連
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21 信じられない真実

 王宮に到着した一行は、地下牢や小部屋に隔離され、尋問がすぐに始まった。

 宰相の判断で全て秘密裏におこなわれ、守秘義務を誓った近衛騎士が聞き取りを担う。

 死んだのはローラだと信じている宰相は、いずれにせよ消す予定だったからか、さほど焦った様子もなく、彼の興味は専ら第二王子から出ている化粧料の行方だった。

 

 アレンが憔悴している理由はルーナが主犯だったらどうしようというものだったし、ロナルド公爵の顔色の悪さは、替え玉がバレることを恐れてのものだった。

 宰相の執務室で大の男が三人黙り込んでいるところに、駆け込んできたのは警備隊からの知らせを握った側近だった。


「ブロウ侯爵! あなたの奥様が警備隊に拘束されました。エヴァンス伯爵刺殺容疑です」


 全員が立ち上がった。

 一番最初に声を出したのは宰相。


「今なんと言った? あなたの奥様だと?」


「はい、連行された女はマリア・エヴァンスと名乗っており、伯爵家の次女であり、ブロウ侯爵の正妻だと……」


 ロナルド公爵が床に膝をついてから口を開いた。


「他には? 他に被害者はいないのか?」


「はい、知らせではエヴァンス伯爵のみと」


「あいつらは……同行してなかったのか?」


 宰相が聞き咎めた。


「私に話すことがあるようですね? ロナルド公爵。まあそれは後にしましょうか……。取り急ぎ、君はその奥様とやらを迎えに行ってくれ。こちらに引き渡すように手紙を書くから持って行け。他言無用だと念を押せよ?」


「畏まりました」


 宰相はソファーを離れ、さらさらと一筆したためて側近に渡した。

 

 再び部屋に静寂が訪れて、意を決した公爵が口を開いた。

 公爵の口から語られる真実に啞然とする宰相とアレン。

 罪もない女性を無残にも死なせてしまったアレンの顔は蒼白だ。


「君も知らなかったのか?」


 宰相の言葉にアレンは力なく頷いた。

 公爵が庇うように言った。


「このことを知っているのは、私とエヴァンス、そしてエヴァンスの長女、そしてローラを逃がしてしまった騎士4人です」


「エヴァンスはなぜ? このひと月ほどは長女の結婚に合わせて休暇を取っていたはずだ。それもウソなのか?」


「はい、逃げたローラを追っていました。絶対にバレてはいけないと思ってそう言わせました。長女は使用人たちに付き添われて隣国に嫁いだ後です」


「死んだのはエヴァンス一人だと言ったな。その騎士達というのは捜査に加わっていたのでしょう?」


「ええ、あの者たちはローラの捜査を最優先させていたはずです……」


「すぐに探して呼んでください」


「わかりました」


 公爵が部屋を出て、自分の側近に指示を出している間、宰相はアレンに向き直った。


「知らなかったとはいえ、君の家の全員が容疑者だ。死亡したのは本物のマリア・エヴァンス。そして今から連行されてくるのがローラという娘か。君はローラを知っているのか?」


「顔は知っています。第二王子殿下を迎えに行った時と、結婚前にエヴァンス邸で」


「ああ、私が挨拶に行けと言ったのだったな。ではなぜ結婚式で気づかなかった?」


「それは……ベールも上げませんでしたので」


「そりゃまた屈辱的だな。ベールを上げないということは妻として認めないということだ」


「はい……本当に酷いことをしたと……思います」


「まあ今更過ぎたことを責めても仕方がないが、亡くなったのが本当にエヴァンスのところのマリアだとしたら由々しき事態だ」


「宰相閣下、そのマリア嬢というのは、どんな女性なのですか?」


「知らないよ? それこそ今更だろ?」


「そう……ですよね」


 宰相の側近が縛り上げられたローラを連行したと報告に来た。

 地下牢に入れているというので、廊下にいたロナルド公爵と共に地下牢に向かう。

 じめじめとした空気の中で叫んでいたのは、3人が知るローラという女だった。


「イースは? イースはどこにいるんだ! イース! イース!」


 ローラが掴んで揺さぶっている鉄格子を警棒で叩き、看守が黙らせた。

 宰相が口を開く。


「イースってのはお前の相棒か? 奴はお前がエヴァンス邸に行った翌日に処刑されたよ」


「なんだって! どういうことだよ」


「それはこっちのセリフだ。まあお前もすぐに送ってやるから安心して静かにしてろ」


「……あたいを殺すのか? あたいはラウムの子を身籠っているんだぜ? やれるもんならやってみやがれ」


「そう言うと思ったよ。一応診察は受けてもらうが、どの道助かるなんて思うなよ? お前は殺人を犯したんだ」


「あたいは悪くない! あのおっさんがいきなり掴みかかって来やがったんだ。抵抗して暴れたら勝手にコケやがって。縁石で頭を打って動かなくなったんだ。事故だろ? あれは事故だよ」


「バカな女だ」


 宰相は溜息を一つ吐いて、看守に言った。


「医者を呼べ」


 看守が頷くと、宰相もロベルトもすでに興味を失ったかのように踵を返した。

 アレンだけがローラを睨みつけている。

 アレンの顔を見たローラが言った。


「あんた、ラウムに伝えておくれよ。マリアが助けてって言ってるってさぁ。ラウムはあたいを愛してるって言ってんだ。あたいもラウムを愛しているんだよぉ」


 アレンは拳を握りしめローラを睨みつけて、その場を去った。

 宰相の執務室に戻ると、マリアの遺体を調べた医師と、ブロウ侯爵邸の使用人たちの調書を持った近衛騎士長が待っていた。

 宰相が執務机に座り、報告が始まった。

 まず口を開いたのは医師だ。


「マリア・エヴァンスと思われる女性の検死結果を報告します。被害者は極度の衰弱でしたが、決定的な死因は不明です。突然心臓が止まったとしか言いようがない。それと、左足首骨折箇所周辺の壊死が確認されました。これは折れた骨が肉に刺さり、炎症を起こしたことが原因です。骨折の場合はよくある症状なので、すぐに手当をしていれば問題無かったのですが、放置されていたようですね。傷が内部から腐って、膝の下まで炎症が進んでいましたから、大腿部から切断しなくてはいけなかったでしょうが、死因とまではいかないですね」


 アレンがグッと拳を握りしめる。


「餓死かと言われれば、それに近い状態だったとしか言いようがありません。胃が通常の半分以下まで収縮していました。これは長期にわたって食事制限をされていた遺体の共通点なのです。おそらくここ数日は水も摂っていなかったのでしょう。見事なほど何も無かった。辛かったでしょうね」


 その場の全員が顔を顰めた。

 咳ばらいをして次に口を開いたのは近衛騎士長だった。


「ブロウ邸使用人の全員に聞き取り調査を実施しました。ご指示通り内密に個別で行いましたので信憑性と機密性についてはご安心ください。まず殺人犯の容疑者についてですが、実行容疑は3名で幇助容疑が1名です」


「誰だね?」


 ロナルド公爵が質問した。


「メイド長と担当メイドの2名は食事を運んでいますが、入り口付近の床に放置したままで、テーブルにさえ運んでいません。食器を下げたときに手つかずだったとしても様子さえ窺っていないと証言しました。食事の内容はパンとスープだけです。これは被害者が屋敷に入った日からずっと同じものだと3人とも同じ証言をしました。回数は1日2回、食事時間は約20分だったそうです」


「そんなバカな!」


 アレンが立ち上がった。

 近衛騎士長がアレンを目で制してから続けた。


「厨房スタッフに確認したところ、厨房側は主人夫妻の献立よりも豪華なものを準備していたと証言しました。それを3人は着服したのでしょう。パンは固くなった廃棄分から1個で、スープは少量を水で増やしていたのです。そして準備されていた料理は全て持ち帰っていました。メイド二人は一週間に一度だったと言っていますが、メイド長は週に5日です。自分で食べるか、食べきれない分は近所に配っていたと自白しました」


「有り得ない……」


「その他の使用人達は主人から関わるなと言われていたので、近寄ったことは無いと言っていますが、これは事実ですか?」


 アレンが血を吐くような声で言った。


「事実です」


「まあ、実際のところ料理は準備されていましたし、公妾という立場を考えても男性の使用人を近づけないというのは、納得できる範囲ですね。ブロウ侯爵はその3名で事足りると考えていたのでしょう? 定期報告は受けていたのですか?」


 アレンはグッと歯を食いしばった。


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