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誰が彼女を殺したのか  作者: 志波 連
12/43

11 捕縛

 翌朝まだ暗いうちに、それぞれの家長に付き添われて王宮に出向いたのは、今回の被害者であり加害者である令息たちだった。

 彼らは『研修』という名目で、禁断症状が無くなるまで軟禁されることになっている。

 しかし最初のターゲットにされたデリク・ロナルド公爵令息だけには、特別な任務が与えられていた。

 少し緊張した面持ちでいつものようにローラの部屋に向かうデリク。

 

『主犯をおびき寄せろ。もっと良い薬物を手に入れたから、もうお前たちとは取引しないと言うんだ。値段を下げるなら継続して使ってやると交渉しろ。失敗すればお前は終わりだ』


 父からの厳しい言葉を思い出し、身を震わせたデリクには他の道は無かった。

 そしていつもの時間にローラの滞在するホテルに到着した。

 医者から処方された薬によって、一時的だが依存症は緩和されている。

 大きく息を吐いてローラの部屋をノックした。


「入るぞ」


「ああ、いらっしゃい。今日はひとり?」


「そうだ」


「ラウムは? 一緒じゃないのかい?」


「お前に話が合って来たんだ」


「なんだよ、改まって。気持ちが悪いな。それより早く吸っちまいなよ。今日はまだ誰も来てないから、すぐに準備できるよ」


「いや、そんなものよりもっと良いものを入手したんだ。だから取引はこれっきりにしたいと思っている」


「どういうことだい!」


「言った通りさ。しかし新しいのは少々値が張るんだ。もしそっちが値を下げるなら、継続しないでもないが、どうだ?」


「そんなこと急に言われても……あたい一人じゃ決められないよ。時間をおくれ」


「すぐにだ。すぐ決めろ」


「待ってくれって言ってんだろ? わかったよ。すぐに聞いてみるから。そこで待ってて」


「どうやって聞くんだ? ウソばかり並べてると酷い目にあわせるぞ」


「本当だよ。鳩を使うんだ。ほら、こいつさ。赤いリボンを結んで飛ばせば、すぐに来てくれることになっているんだ。今まで一度も使ってないから、慌てて来るはずさ」


「早くしろ」


「わかったよ……今日は吸わないのかい?」


「ああ、もう必要ない」


「そうかい? じゃあすぐに飛ばすから待っていておくれ」


 デリクは窓から鳩を飛ばすローラの後ろに立った。

 白いハンカチを顔に当てて、潜んでいる騎士達に合図を送る。

 それを確認した騎士が伝令に走り、捕縛計画続行が全員に行き渡った。

 待つこと30分。

 部屋のドアがノックされ、顔に傷のある若い男が姿を現した。


「何の用だ」


「ああ、お前がローラの男か? 思っていたより若いな」


「関係ないだろ、要件をさっさと言え」


「まあ焦るなよ。先ほどローラには伝えたんだが、もっと良いものが手に入ることになったんだ。そっちに乗り換えようと思ってな」


「もっと良いものだと?」


「ああ、そうだ。値が張るが効果が長い」


「長く楽しみたいなら量を増やせばいい」


「それじゃあまり旨味は無いな。どうだ? 少し値を下げないか?そうすれば量を増やしても使い続ける価値はある」


「値切るのか? フンッ! その手には乗らない」


「そうか、では決裂だ。今日で終わりにしよう」


 ドアに向かって歩きはじめるデリク。

 イースは慌てて駆け寄った。

 

「ちょっと待てよ! 他の奴らも同じなのか?」


「ああ、全員だ」


「貴族のくせに値切るなんて最低だな」


「お前ほどじゃないさ……もうお前は終わりなんだよ!」


 最後の言葉だけ大きな声で叫んだデリクは、イースを振り切ってドアを開けた。

 騎士たちが雪崩れ込んできて、イースとローラは瞬く間に捕縛された。


「女は後ろ手に縛れ、腹には縄をかけるな」


 暴れるイースは何度も殴られ、手足を拘束された上で、猿轡を嚙まされた。

 ローラも暴れたが、騎士達の前には成すすべもなく、転がるイースの横に座らされる。

 こうして呆気ないほど『薬物流通事件』の黒幕は逮捕された。

 裏口から王宮北の塔に連行された二人は、別々の牢に入れられた。

 イースは石造りのかび臭い地下牢で、ローラは小さな窓しかないが、ベッドのある貴族用の牢で同じような言葉を叫んでいた。


 犯人捕縛の知らせを受けた宰相は、すぐに国王へと報告に向かった。

 薬物の使用は1度きりであり、効きもしなかった第二王子ラウムは、国王の命令により自室で謹慎している。

 

「ラウム殿下には後でいいな。本人の意向など関係ないし」


 宰相はぶつぶつと独り言を呟きながら、国王の執務室をノックした。


「入れ」


「失礼します。例の件、終了いたしました」


「そうか。何か問題があったか?」


「いいえ、思っていたより淡々と終わりましてございます」


「なんだかんだ言っても、ガキのすることだったな。男は処刑せよ。女の方の準備はできたのか?」


「はい、予定通りラウム殿下の護衛側近であるアレン・ブロウ侯爵に承諾させました」


「ああ、あいつは親の借金で首が回らなかったな。どうせお前のことだ、札束で頬を張るくらいのことをしたのだろう?」


「滅相もございません。来週中に挙式、その後すぐに侯爵邸で3か月ほど過ごさせ、懐妊の兆候が無ければそのまま消します」


「そうか、ご苦労だった」


 宰相は深々とお辞儀をして部屋を出た。


「そうだ、エヴァンスにも伝えておかねば。それとロナルド公爵にもな。ああ、忙しい、忙しい」


 手うちわでパタパタと顔に風を送りながら、宰相は廊下を歩きながら侍従にロナルド公爵とエヴァンス伯爵を呼ぶよう指示を出した。


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