プロローグ
もうずっと、まるで水の中にいるような感じだ。
体は冷たく、うまく喋ることもできない。
唯一の心の癒しだった小鳥の囀りが聞こえなくなって何日くらい経つのだろう。
昨日よりずっと何も感じなくなっているから、そろそろかなと考えていたら、誰かが部屋に入ってきたような気配を感じたが、うっすらとした光りしか感じなくなったこの目では、確認もできない。
少しだけ指先が温かいような気がするが何だろう。
誰かが手を握っているのだろうか。
また殴られるのだろうか。
今の自分には抵抗する力はおろか、叫ぶことさえできないというのに。
まあ叫んだところで、だれも駆けつけてはくれないが……。
もういい。
もう全部終わりにしてほしい。
私が何をしたというのだろう……。
お祖母様の具合はどうなのだろう。
お父様は約束を守ってくれたのだろうか。
ごめんなさい、お祖母様。
きっともう会えないわ。
先に行ってお祖父様とお母様と一緒に待ってるね。
あら? あの光は何かしら。
ああ、なんだかとても温かい。
『マリア……お前を迎えに来た。本来ならすぐにでも連れて行くところだが、辛い思いばかりだったお前に、願いをひとつだけ叶えてやろうと思って私が自らきたのだよ。さあ、何なりと言ってみるがいい』
『願い? あなたはどなた?』
『私は森羅万象を司る者』
『願い……』
『何を望む? お前をこんな目に遭わせた奴ら全員に罰を与えるか? 誰かの愛を手に入れるのも思いのままだぞ。一人になって自由に生きることも選べるし、この国の女王にもしてやろう。ただし叶えてやれるのはひとつだけだ』
『ひとつだけ……私は……今すぐ全部終わって欲しい。本当にそれだけなのです……』
『それは願わずとも……あいわかった。すぐに連れて行ってやろう』
マリアの指先がピクッと動き、ゴフッと大きく息を吐いた。
それと同時に心臓は止まり、彼女の肺は静かに動かなくなった。