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セフィロトプロジェクト  作者: 魑魅
王国への旅立ちと登攀の始まり
6/6

出会い

 教えられた通り、入り口から左側にある受付へと向かう。そこは三つの受付があるにもかかわらず、真ん中の受付に柔和そうなお姉さんがいるだけだった。先ほど見ていた中央の受付は列ができないまでも、常に人がおり忙しそうに動いている。


「すみません。挑戦者登録に来ました」

「はい、挑戦者登録ですね。こちらの紙にお名前をお書きください。代筆も可能ですがいかがいたしますか?」

「自分で書けるので大丈夫です」


 言われたままに紙に名前を書く。文字は母から教わった。この世界の識字率は7割くらいで、文字が書けない人もざらにいる。昔は貴族や商人ばかりが文字を使っており、一般人は必要がなかった時代もあったそうだが、塔の出現によって仲間同士でやり取りする際や依頼を出すこのにも受けることにも必要になってきたため一気に文字が普及した。


「アイン様ですね。挑戦者になるためには3刻ほどの講習を受けていただく必要があります。本日は14の刻から講習がありますが参加されますか?」


 一日は24刻で分けられる。今は11の刻で14の刻まではあと3刻ほどだ。

 この受付の場所を教えてくれた彼女が登録時に説明があると言っていたが、それはこの講習のことなのだろうと納得した。口ぶりからすると別の日にしてもらうこともできるようだが、そうする必要もないし、むしろ早く挑戦者になりたいという気持ちのほうが強い。


「はい、参加します」

「わかりました。ではこちらの札をお持ちください。13刻になりましたらあちらの扉に担当の者がおりますので、札を見せていただければ部屋に案内されますのでそこでお待ちください。14刻時点で部屋にいない場合、辞退したと判断されます。また、こちらの札は後程返却していただきますので紛失にはお気を付けください」

「すみません、講習ではどんなことをするんですか?」

「はい、講習では組合の利用方法、塔へ挑戦するための手順、現段階での実力の確認を行います」


 番号の書かれた札を受け取り、講習について質問することで何をするかはなんとなくわかったが、先ほど気になったことについては教えてくれるのか疑問に思い頭をひねる。


「う~ん」

「何か気になることでもございましたか」

「いえあの~。聞いていいのかわからないですけど。中央の受付と違ってこちらにはあまり人がいないじゃないですか。それでその、今の時期に挑戦者になる人は少ないのかなって思いまして。あっ、講習でそういったことも教えていただけるなら答えていただかなくてもいいんですけど……」


 恐る恐る聞く僕に対して、受付のお姉さんはきょとんとした表情を浮かべた後一度口元を押さえ俯く。なにかをこらえたように息をのみ顔を上げると、はにかむように微笑んでいた。


「そうですね、講習ではそのようなことは教えませんね。講習は基本的に毎日行われるため多くの人が一度に集まることはほぼほぼありません。大体は10から20人ほどになり、本日もその程度の人数がすでに集まっているので、安心なさってください。また、学園の生徒などが団体で挑戦者になることがございますが、その場合は担当の者が学園に向かい講習を行うようになっているので、こちらの受付が忙しくなることはめったにないんですよ」

「ありがとうございます」


 優しく教えてくれるお姉さんに、一人で講習を受けなければいけないのかという不安を見透かされたようで気恥ずかしいが、ほかにも受ける人がいることにほっとする。それで気が緩んだのかぐ~~という音がおなかからなる。あまりの恥ずかしさに顔が赤くなる。


「まだ時間がありますし、向かいの酒場でお食事でもいかがでしょうか」

「そうします。色々教えていただきありがとうございました」


 ニコニコと笑いながら酒場を進められ、余計に顔が赤くなる。あまりの恥ずかしさに早くその場から立ち去りたいため素直にうなずき、ぎこちなくその場を後にした。




 組合をでて向かいの酒場に入る。昼時ということもありかなりの人数でにぎわっているようだ。店員に案内されるまま席に着きメニューを開く。村では見慣れないような料理の数に迷ってしまう。そのままメニュー表とにらめっこを続けていると。店員から声を掛けられる。


「お客さん相席いいかい」

「はいかまいませんよ」


 反射的に答えてしまったが、見ず知らずの人と相席なんて初めてのことで少し失敗したかなと思った。


「お客さんいいって、こっちに座って」

「はーい、こんにちは相席ありがとね!今日はお昼抜きになるとこだったよ」


 そういって声をかけてきたのは、褐色の肌に短く切りそろえられた白い髪が目立つ、はつらつそうな少年だった。


「僕の名前はラフムよろしく」

「僕はアインです」


 少年は席に座ると手を伸ばし名を名乗る。同じく手を伸ばして握手を交わしながら僕も名乗る。先ほどは失敗したかと思ったが、元気よく快活そうな雰囲気に、あまり気まずくはならないかなと考えを改める。


「さっきからメニューをずっと見てるみたいだけど、この店は初めて?」

「はい、実はこの町にも始めてきたから何を頼んだらいいかわからなくて」

「う~ん、それじゃこのコカトリスの香草焼きがおすすめだよ」

「じゃあそれにしようかな」

「決まりだね。すみません注文いいですか」

「はーい、なんでしょうか」

「コカトリスの香草焼き二つください」

「コカトリスの香草焼きですね。承りました」


 少年が店員を呼ぶとあれよあれよと注文を済ませてしまった。流れるような注文に、慣れていることがよくわかる。


「ラフム君はこの店によく来るんですか?」

「ん~、もっと砕けた口調で大丈夫だよ。僕はそういうの得意じゃないし、名前も呼び捨てでいいよ。この店には何回か来たことあるかなって程度。そういう君は、この町に来るのは初めてって言ってたけど何しに来たの?」

「あっ、はい、……実は挑戦者になりに来たんだ」

「そんなんだ。あっそれじゃ今日の講習は受けるのかい?」

「受けるよ。まだ時間があるから腹ごなしに来たんだけど、注文するのに時間がかかりすぎて食べる時間が無くなるとこだったよ」

「それならよかった。実は僕もその講習受けるんだ。奇遇だね。」

「えっそうなの!?」


 自分より小さく見える少年が講習を受ける。つまりは挑戦者になるということに驚く。それに気づいたのか、少年がこちらをジト目で見つめてくる。


「アイン君、きみ僕がまだ成人を迎えてないと思っただろう」

「い、いやそんなことは」


 変わらずジト目で見つめてくる彼の視線に罪悪感を感じ、言葉が尻すぼみになる。


「これでも、もう魂具が発現して三年たつくらいの年齢だからね」

「えっ、じゃあ年上」

「失礼しちゃうよ全くもう。ま、気にしないで慣れてるから。そうだ、アイン君も挑戦者になるんだよね?パーティとかはもういるのかい?」

「パーティ?まだ決まってないんだ。こっちに知り合いもいないし」

「えっ、じゃあソロで挑戦者やるつもりだったのかい!?」

「ううん、いずれは仲間を集めてパーティ組もうと思ってたけど」

「……アイン君は前衛タイプ、それとも後衛タイプ?」

「前衛だよ」

「じゃあちょうどいいかな」


 ラフムが右手を横に出す。一回瞬きをした次の瞬間、その手には真っ赤な布をつけた旗?を持っていた。よく見てみるとその布は通常の旗とは異なり横に長く、蛇の刺繍が施されていた。旗と棒は上下合わせて六つの紐で結ばれており、あまり部分が絡まるように棒に巻き付いていた。


「これは僕の魂具なんだけど、地面に突き立てることで土系統の魔法が使えるんだ。でも、魔法を使うのにも時間がいるから、守ってくれる前衛を探してたんだ。アイン君一緒にパーティ組まないかい」

「いいの!!あっでもこの町出身ならほかにも知り合いと書いたんじゃないの?」

「あ~、もともと挑戦者になる予定ではなかったんだけどいろいろあってね……」


 空笑いを浮かべながら言いよどむラフムに、まずいことを聞いてしまったのかと慌てる。


「言いにくいことなら別に言わなくても……」

「大丈夫大丈夫。パーティを汲むことになったらどっちにしろ話さなきゃいけないし」

「……」

「簡単に話すと、僕には妹がいてね。僕は家の仕事手伝って、妹は挑戦者になったんだ。その妹のパーティが壊滅しちゃってね。何人かは帰ってきたんだけど、妹は毒か呪いかに侵されたみたいで寝たきりになっちゃたんだ。命に別状はないみたいなんだけど、目を覚まさないんだ。目を覚ます方法を探しに塔に上ることになったんだよ」

「そう、なんだ」

「気にしないでって言っても無理か。さっきも言ったけど妹も命に別状はないし、液状のものなら食べさせられるから餓死したりすることもない。時間に余裕はある。でも一人で塔に上るより、パーティで登ったほうが安全だし早く登れる。目を覚ます方法がどのようなものかわからないけど、塔は高ければ高いほど、達成した数が多ければ多いほど、いい情報や物が手に入るからね」

「わかった。改めてよろしくラフム」

「よろしく。そういえばアイン君はなんで塔に……、後でにしよっか」


 ラフムが何か言いかけたところで、店員がテーブルに食事を並べる。そのあとは何気ない会話をしながら食事を楽しんだ。ただその間もラフムが言いかけた言葉が気になっていた。ラフムは塔に上る目的が明確にあった。ほかの人もきっといろんな理由があって塔に上っているのだろう。少なくとも、お金が欲しいとか塔を攻略して名誉が欲しいとか、自身の力を試したいというのもあるだろう。ただ僕は憧れから塔に上ることを決めた。


僕はなぜ塔を登るのだろう

 最初の仲間の登場です。最初の仲間は魔法職にしようとは決めていたのですが、何をモチーフにするか悩みました。

 ラフムはバビロニア神話の神、ラフムからきています。魂具はラフムが赤い帯と六つの巻髪を持つといわれることから、赤い布とそれを結ぶ六つの紐だったのですが、魔法職ということもあり杖が欲しくなりました。ただ、杖と布と紐のイメージができなかったため、棒と布から旗を思いつきました。ラフムは泥の神ともいわれているので、大地に突き立てて使う旗は能力的にもあってるなと個人的には思っています。

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