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セフィロトプロジェクト  作者: 魑魅
王国への旅立ちと登攀の始まり
5/6

旅立ち

「行ってくるね」


 挑戦者になることを決めてから一か月たったがあっという間だった。母さんがどこかから古ぼけた革鎧を引っ張り出すと、僕の体に合うように調整してくれた。おそらくは過去に使っていたものだろう。また、戦闘技術について教えてもらった。体の動かし方など、基本的なことを教わった後模擬戦を行ったのだが、さすが元挑戦者なだけあって一撃を当てることができたのはつい昨日のことだ。ブランクがあるから自信ないわ、と言っていたのは何だったのだろうと感じるくらいだった。そして今日は商人の馬車に乗せてもらい町に向かう日だ。


「アイン、挑戦者になったら怪我を負うこともあるかもしれない。毒や疫病を振りまく魔物もいるから、病気になることもあるかもしれないわ。だから健康には気を付けて、常に体調を気にして万全な状態であること心掛けなさい。そしてどのような状況であっても生きることをあきらめてはだめよ」

「わかったよ母さん、ありがとう」

「それから、その防具は軽く調整しただけだからある程度お金がたまったらきちんと自分の体に合うものに変えるのよ、それから……」


 矢継ぎ早に話す母さんが僕のことを心配していることはわかるが、次々と出される注意事項に圧倒される。玄関の前でそう話していると、遠くから声を掛けられる。


「アイン君そろそろ出発の時間だよ」


 声をかけられたほうを見ると、そこには商人のエイビスさんが手を振りながら近づいてきていた。

エイビスさんは中央の町と海岸の町を行きかう商人なのだが、休憩するためにこの村に立ち寄りついでにさまざまな商品を売ってくれている。今回は中央の町へ帰るようで、ご厚意で乗せてもらうことになった。


「それじゃ母さん、呼ばれてるしもう行くね」

「あらもうそんな時間。おはようございますエイビスさん。アインをよろしくお願いしますね」

「ええもちろん、きちんと送り届けますよ」

「アイン、元気でね、落ち着いたら手紙を頂戴、たまには帰ってくるのよ」

「うん、行ってきます」


 エイビスさんに連れられ、馬車に乗り込む。先に乗り込んでいた従業員に軽く挨拶し空いている席に座ると、馬車が動き始めた。最初はゆっくりと動いていたが、その速度はどんどんと早くなっていき村から離れていく。僕はどんどんと小さくなる村に少し哀愁を感じながらも、旅の始まりに心躍らせていた。




 旅はつつがなく終わり、三日をかけて町へたどり着いた。旅の最中はエイビスさんに町についてや、エイビスさんがなぜ商人をしているかなどいろんな話を聞いた。


「町まで送りいただきありがとうございますエイビスさん」

「私もなかなか楽しかったよ。確かアイン君は挑戦者になりたいんだったね」

「はいそうです」

「それじゃ、挑戦者総合組合に行かないといけないね。挑戦者登録をしないと塔に挑めないからね。あそこの通りをまっすぐ行ったら大きな看板のついた建物が見える。とても目立つ建物だからすぐわかると思うよ」

「わかりました。早速行ってみます」


 最後に勢いよく頭を下げ礼をする。顔を上げ、差された方向に向かって歩き出す。途中で振り返ると、エイビスさんはにこやかに微笑みながら、手を振ってくれていた。




「ここが挑戦者総合組合か……」


 顔を上げ目の前にそびえたつ石造りの建物に圧倒される。正面から見ただけでも家四軒分ほどある横幅と三階まであると思われる高さがあり、一階と二階の間に建てつけられた『挑戦者総合組合』の看板が建物の存在感をより一層引き立てていて圧巻だった。


「よし行くぞ」


 道の真ん中で顔を上げて立ち止まっている姿はお上りさん丸出しで、そのことに気づいた僕はハッとしそそくさと建物の入り出入口に向かう。開けっ放しの扉は人の出入りがそこそこあり、そこにはこれから塔に向かうのか鎧や武器を身にまとった人たや、塔から帰ってきたのか大きな荷物を持った人達、商人のような人など様々な人が行き交っていた。

 中に入ると正面に十か所の受付があり、受付の上に何を担当しているかが書かれた看板がついていた。だけどそこには『依頼受託受付』と『依頼報告受付』、『素材・貴重品等受付』の三つしかなくきょろきょろしていると、後ろから声をかけられた。


「おい、入り口で立ち止まってるんじゃねぇよ。じゃまくせぇ」

「あっすみません」


 突然声をかけられたことと、その声がとても威圧感のあるもので体がびくっと跳ねる。慌てて謝りながら左に避け相手を見ると、そこには僕とより少し年上くらいのオレンジ髪の青年と、僕と同い年ぐらいの黄色がかっているが青年と似た髪色をした少女が立っていた。青年が眉間にしわを寄せにらみながら近寄ってくる。


「んだよじろじろ見やがって。うざってぇな」

「はぁ、兄さんそんなに威圧しないの。ごめんなさいうちの愚兄が」

「おいディアナ、愚兄とは何だ愚兄とは」

「うるさい」


 彼女は持ってる杖を彼の脳天へと振り下ろす。ドゴッと鈍い音が鳴り、彼は頭を抱えしゃがみ込む。


「今日の依頼でいろいろあって少し苛ついてるみたいなの。あんまり気にしないでくださいね」

「いえ、入り口で立ってた僕も悪いので」

「そう、よかったわ。ところで君はここで何をやっているの?」

「あ、はい、えっと挑戦者登録をしようと思ってきたんですが受付場所がわからなくて」

「あぁそれならそっちですよ」


 そういって僕の後ろを指さす。そっと振り返るとそこには三つの受付があり、『挑戦者登録・その他受付』の看板が立っていた。


「教えてくださりありがとうございます。でもあんまり人がいないな」

「気になるなら受付の人に聞くといいわ、それに登録前にいろいろ説明があると思うからとりあえず行ってみるといいわ」

「おい、何楽しそうに話してんだよ」


 彼女にお礼を言っていると、いつの間にか立ち上がった青年が会話に割り込んできた。さっきと同じく、眉間にしわを寄せつり上げた目がイラつきを主張している。


「もう起き上がったの。わが兄ながら丈夫ね。さすがだわ」

「何がさすがだ、思い切り殴りやがって、だいたい――」

「わかったわかった、とりあえず報告行くよ。君も頑張ってね」

「あ、はい」


 彼女はそういうと軽く手を振り、わめく青年の後ろえりをつかみ中央の受付へ向かっていった。

町へ向かわせることができました。やっといろんな人物を登場させることができます。

さて2人の名前が新しく出てきましたが、今回はエイビスから。名の由来は七福神の恵比須様から。商業神、漁業神として敬われるため、海岸の町と内陸の町を結ぶ商人になりました。

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