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セフィロトプロジェクト  作者: 魑魅
王国への旅立ちと登攀の始まり
4/6

魂具

 部屋に戻り、窓際に椅子を運ぶ。まだほんのりと熱を持つ頭を冷やすために窓を開ける。


「うぅさむ」


 夜の冷たい風が頬を撫でる。椅子に座り窓縁に肘を置き頬杖を突きながら夜空を見上げると、そこには燦爛とした星空が浮かんでいた。


「どうしよっかなぁ」


 母さんは背中を押してくれた、よく考えて決めたことなら何も言わないだろう。挑戦者になってみたい気持ちは強い。でもまだ不安は残る。何か強い決定打、挑戦者になるために必要な決定打が欲しかった。

 頭を冷ますために窓を開けたはずなのに、考えすぎて逆に熱が高まる。まとまらない頭で堂々巡りをしていると、急に強い風が吹き込み髪を巻き上げる。突然の突風に驚き目を閉じた瞬間、母さんの言葉を思い出す。


(――魂具が出現してから決めてもいいわ)


 魂具とはこの世界のすべての人型の生物に与えられる道具だ。種族によって授かる年は違うが、人種は15歳になり次に寝て目覚めた際近くに置かれてあるらしい。その形は様々で剣や盾といった武具防具、鍋などの道具や椅子といった家具を授けられた人もいたという。またすべての魂具は自身の意思で異空間に出し入れが可能なのと、その魂具固有の特殊能力がついている。その人の才能、運命、魂の在り方を神が顕現させたという謂れから魂具と名付けられた。またその人の成長とともに新たな能力を得られたり、魂具の形が変わったりすることもあるらしい。


「もし、良さそうな魂具だったらなってみようかな、挑戦者に」


 問題を先延ばしにしただけのようにも思うが、ある程度考えもまとまったため窓を閉め自分のベットに入る。自分の魂具に期待と不安を乗せ眠りについた。




 遠くから鳥の声が聞こえる。目覚める前の安らかな微睡の中で寝返りを打つ。カランカランとなく鳥の声が……カランカラン?奇妙な音に眠い眼をこすり起きる。ぼやける視界で周りを見渡しても何も見つからない。ベットから降り立とうとした瞬間何かを踏んだのか、すてーんという擬音語を幻聴するほどきれいな放物線を描き後頭部から床に倒れこみドーンと大きな音が響いた後、またカランカランと何かが落ちた音が聞こえた。


「いっっっっったぁぁぁ。なんなんだよもう」


 痛む後頭部を手で押さえながら、踏んだものを確認するために手を伸ばすと同時に廊下からどたどたと慌てた足音がが聞こえてくる。


「アインどうしたの大きい音が鳴ったけど」


 バタンッと勢いよく扉があけられたと同時に母さんがはいってくる。床に座る僕を心配そうに確認すると、手に何かを持っていることに気づき不思議そうな顔をする。


「あらアイン、それは何?」

「え、これは…………棒?」




 とりあえず着替え居間にあつまり、机の上に先ほどの棒を置き母さんと一緒にのぞき込む。その棒は180cmくらいの長さと握りこむのにちょうどいい太さということ以外特に特徴がない。


「これがアインの魂具?」

「たぶん」

「ま、まああれよ、なんかこうしまえーって感じで念じてみて」

「わ、わかった」


 母さんに言われた通りに念じてみると、目の前の棒がパッと消える。


「うおっ」

「ふふふ、じゃあ次は手を伸ばして出てこいって念じてみるのよ」


 驚いたことを笑われ少し気恥しくなりながらも、また言われた通りにすると急に手元に棒が現れ重力に従い下へ落ちる。反射的に伸ばした手を丸め机に落ちる前に棒を握ることができた。


「ん~、出し入れができるということはやっぱりそれがアインの魂具なのね。あっ、そうそうしまうときはどんなに遠くてもしまえるけど、出すときはその場から手で届く範囲にしか出せないからね」

「わかった。でも、棒かぁ」

「あらいいじゃない。何か特定の使い方があるわけじゃないから使い勝手もいいし。棒術って言ってちゃんと確立した戦闘技術もあるんだし」

「戦闘技術って。母さんはさ、本当は僕に挑戦者になってほしいの」

「そうじゃないわよ。でも、一度は広い世界を見てみるのもいいじゃないとは思うわ」


 そういってにこにこ笑う母さんと、手元の棒を交互に見る。何度見ても棒なことに落胆する。


「でも棒だよ。剣とは言わずともせめて槍とかの武器らしい武器、いっそのこと鎧とか戦うことを目的とした魂具なら悩まずにいられたのに」

「あれよあれ、えっと、特殊能力、そう特殊能力は何なの。ほら、魔法が出るとかだったら戦闘向きじゃない。使い方はなんとなくわかるはずよ」

「そ、そうだよね」


 うなだれる僕を励ますようにまくしたてる母さんに押され魂具に集中する。朧気ながら使い方が浮かんでくる。がっちりと棒を握りこみ何も無い空を突く。ついた空間が水面に石を投げ入れたかのように波紋を広げながら歪む。


「これは、何?」

「えっとぉ、これはちょっとした異空間につながっていてものを出し入れすることができます。こんな感じで」


 そういって近くにあったコップをしまったり取り出したりする。


「あら便利ね」

「便利って。結局戦いに使えそうな特殊能力じゃないし、やっぱり向いてないのかな挑戦者」

「そんなことないわよ。挑戦者としてとてもぴったりな能力だと思うわ」

「どうして?」

「挑戦者はね、塔に上るのに何日もかけるの。最初のうちは低い階に挑戦するからその日のうちに帰ってこれるけど、それでも怪我をしたり毒を受けたりでポーションが必要になるし、いざというときの食糧。ほかにもいろんな道具が必要になる。塔内で見つけた素材やお宝を持ち帰るのだって荷物になる。そんな中で戦いながら移動するなんて大変だから、わざわざ荷物持ちを雇う人も珍しくないわ。まあ荷物持ちを守りながら戦うのと、荷物を持ったまま戦うじゃどちらが大変かを天秤にかけながら決めなくてはならないけど。」

「へぇ、そうなんだ」

「そこで、アインの力があればそういった煩わしいことがなくなるわ。普通の荷物持ちはその荷物の量で戦いには参加できないことが多いけど、アインなら異空間に荷物がしまえるから機動性もあるし、荷物のせいで道が通れないなんてこともない。さっきも言ったけど挑戦者としてはかなり便利と言えるわ」

「そうかな」


 並べられる利点に、自分が挑戦者にすごく向いているかのように錯覚する。


「そうよそうよ、だからなってみましょ挑戦者」

「そうだね、やってみようかな」


 若干母さんに乗せられたような気がしないでもないが、もともと憧れていたこともあり挑戦者になる決心がついた。

成長する武器。いろんな作品に出てきて最近では珍しくもないですが、皆さんはほかに成長する武器が出てくる作品を見たことがあるでしょうか。私が最初に見た作品は『魔〇騎〇レイ〇ース』でした。

アイン君の魂具はタロットカードの愚者が持つ棒と袋をイメージして作っています。

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