初恋の思い出 パート2
時計の針が9時50分指した頃、院内に暖かな日差しが差し込めていた。
院内の窓から見える中庭には楓の木が見える。まだ三月ということもあり葉は見られていないが4月になれば緑の葉を咲かせ目立たないほどの小さい花を咲かせる。季節に応じて色や見た目を変えて人々を楽しませてくれる。その変化を楽しむことがいつしか私の喜びになっていた。これからの変化に期待と思いを馳せながら窓の外を眺めていると、病室のドアをノックする音が聞こえてきた。
「すみません。10時から予約の大紫 香花です。」
「はーい。どうぞ中にお入りください。橘さん彼女をこちらの
席まで案内してもらえるかしら。私は一旦飲み物を用意し
てくるわね。」
「わかりました。」
橘は大紫さんの元に近づき
「はじめまして。大紫さん。私は本日づけでこちら時空心療科
に配属になりました。研修医の橘 空です。よろしくお願い
します。席ご案内しますね。」
「ありがとうございます。あの、ところで雨宮先生は?」
「今飲み物を準備しておりまして、もうすぐ見えると思いま
...
「お待たせしました〜。はじめまして。雨宮詩音です。どうぞ
よろしくお願いしますね〜。大紫さん。
あ。そうだ。こちらハーブティーです。あ、ハーブティーは
お好き?ちなみにこちらジャスミンティーなんですけど、緊
張したりする時にはとても「ゔんんゔん!
橘はいきなりの詩音の弾丸トークに圧倒される大紫さんを見ていられるず咳払いをして止めに入る。
「ごめんなさいねー。ほほほほ。大紫さん、改めてよろしくお
願いしますね。どうぞおかけください。」
「は、はい。あの、ハーブティー、は私も好きです。頂いても
よろしいですか?」
(とても若い先生なのね、女性ってことはこちらとしても有難いけど、こんな若い人で大丈夫かしら。それになんだかあまり医者っぽくない雰囲気。)
「ええ!ぜひ!」
院内はブラインドを下げ少々薄暗い状態だが目の前が見えないほどの暗さではなく日中の目を刺すような鋭い光が遮断され程よくブラインドの隙間から溢れる光が心地よく流れ込んでいた。さらに室内にはジャスミンの香りが立ち込めここが病院である事を忘れてしまうほどのリラックスした雰囲気が流れている。
その雰囲気の中詩音が声をかけた。
「大紫さ、香花さんとお呼びしてもよろしいですか?」
「はい。構いませんよ。」
「ありがとうございます。それでは、香花さん。
飲み物を飲みながらで構いませんのでリラックスした状態で
事前カウンセリングの方をさせていただきますね。」
「はい。わかりました。」
「では、いくつか質問させていただきますね。
一度だけ恋をした事があったと伺いましたがその時は香花さ
んが何歳くらいの時の事でしたか?」
「そうですね、私が11歳の時ですね。1つ上の先輩に恋をして
いました。」
「彼のどこが好きでしたか?」
「...思い出せないです。」
「それでは質問を変えます。彼とはどうやって知り合ったんで
すか?」
「私の小学校は四年生になると授業の一環で高学年が合わさっ
てクラブまがいな事をするんですよ。
私と先輩は屋内クラブで体育館の中で運動をするクラブだっ
たんですよ。その時に知り合いました。」
「彼との思い出で強く覚えている事はありますか?」
「赤。赤いラインが入ったジャージのズボンと、私達の周りに
いる皆んなの笑顔。それから大きな大きな高揚感。1つ上の
綺麗な先輩のえがお。」
「それらを振り返ってみて怖いと感じますか?」
「いえ、恐怖は無いです。でもなんだか、私は私を見つけられ
るかもしれないと胸が高鳴っているみたいです。」
「そうですか。ですが無闇にドキドキしたりするのは催眠治療
の前ではよろしくありません。一旦深呼吸をしてからハーブ
ティーをお飲みください。」
「はい。」
彼女がゆっくりと深い深呼吸をしてハーブティーに口をつけ始めてから再び詩音が口を開く。
「それでは、これから治療について説明しますね〜。
リラックスして聴いたて頂ければ大丈夫ですからね。
治療は別室に用意してあります、リクライニング式のチェア
に横になっていただきbrain analysisを装着します。その時
点からニュートンの揺籠という一定のリズムを刻むものを鳴
らしていきます。そこから私が口頭で催眠をかけていきま
す。
そうしますと、だんだんとbrain analysisが自動で香花さ
んの潜在意識から恋が出来なくなったきっかけとなった過去
の記憶を呼び起こし疑似体験する事になります。
そこで自分自身で過去と向き合ってください。
そうすることで、これまでのあなたを取り戻せるだけではな
くこれからのあなた見つけて本当の貴方としてどう生きてい
くのかをみつけてきてください。
その後は事後カウンセリング受けて今後の事を私達と考えて
行きましょう。
以上で治療の流れの説明になりますね。質問とか不安な
事はないかしら?」
「脳への影響や精神への影響は大きいものなのですか?」
「脳への影響は特には無いはずです。brain analysisは人間が
口頭で催眠をかけて貴方自身の力で潜在意識を呼び起こして
貴方の潜在意識を分析、解析を行うものだから直接のへの働
きかけがあるわけでは無いの。
精神への問題は正直わからない。貴方がどういった過去を持
っているのかは見てみないと分からないことだから、大きな
過去や自身を変えるきっかけとなる分岐点であるなら精神干
渉の大きさは、計り知れない。でも暴走しそうになるなら
brain analysisを強制的に止めさせてもらいます。
それから保険として私たちの1人も一緒に過去にダイブする
ことにしたわ。何かあればあなたを止めたり誘導をすること
にしています。ですがあくまでも私達は保険です。過去と向
き合うのは貴方自身であることは変わりありません。
どうですか?これを聞いても治療を受ける事に異論はありま
せんか?」
「正直不安な気持ちもあります。でも昔に無くしてしまった私
を取り戻したい。そうすれば、今の悩んでる事も解決できる
かもしれない。もっと生きやすいと思えるかもしれない。
治療を受けます。どうぞ、よろしくお願いします。」
「わかりました。それでは別室に移動しますか。」