初恋の思い出 パート1
2025年3月1日。午前9時。
X県Y市にある総合病院時空心療パラレル科に一人の女性医師がいた。彼女の名前は雨宮詩音(29)。
詩音は診療室のデスクで温かいハーブティーに口をつけながら本日の患者のカルテに目を通していた。
コンコン。
診療室の扉からノック音が聞こえて視線を向ける。
「あのぅ〜失礼します。本日からこちらを担当させていただき
ます。研修医の橘空です。雨宮詩音先生でいらっしゃいます
か?」
「えぇ。そうだけど今日からでした?ごめんなさい。すっかり
その事を忘れていて準備とかしていていないの。
まあ、今日は患者さんが10時から1人いらっしゃるから治療
の様子を見ていてちょうだい。」
「わかりました。えぇ〜っと、」
「とりあえず、橘さんよね?こちらにいらっしゃい。
あなたハーブティーはお好きかしら?」
「えっと、飲んだ事がなくて、分からないです。」
「あら〜そうなのぉ〜。じゃあ、あなたの初体験は私が頂いち
ゃうわけか〜。それならカモミールがいいかしらね〜」
「あの、その言い方はちょっと、色々誤解が生じそうなので」
「まあまあ。はい。カモミールティーよ。カモミールはカモミ
ールでもジャーマンカモミールなの。ハチミツに似た香りと
クセのない口当たりだから飲みやすいはずよ〜。リラックス
効果もあるから緊張する時はオススメよ〜。」
「はあ。ありがとうございます。」
(なんだか、ゆるーい人だな。最年少で世界の心理治療の技術
力の飛躍させてきた人とは思えない。あ!このお茶とって
も良い匂い。なんだか身体の余計な力が抜けて心がほぐれて
くみたい。)
「あ!そうだわ!今日10時から患者さんが来るっていってたわ
よね?
これがその人のカルテ。ハーブティーを飲みながらで良いか
ら目を通して置いてね〜。それから今日の一連の流れを説明
するわね。」
「わかりました。でも1日1人しか患者さん来ないんです
ね。」
「"しか"じゃなくて"も"よ。意外とこの治療はね大変なの
よ。」
そう言った彼女の表情これから戦に向かうような、決意と覚悟を決めて、どこか諦めに近い表情をしていた。
(とりあえず、私もカルテに目を通さなくては。)
大紫 香花(26) "あおむらさき こうか"女性
診療の目的
なぜか男の人を好きになった事がない。
女性に恋心をいだく、いわゆるレズビアンと言うわけではないがなぜか誰かを愛する事が出来ないという。
恐怖があるという事でも無い。
アセクシャルということでも無いそうで、過去に一度だけ男性に恋をした事があるというがその時の記憶が一部ない様子。
だが振り返ろうということに嫌悪感とかもなく覚えている限りではその方に問題があるような性格の持ち主では無いとのこと。だがこの時以降から恋をしていないとのこと。
本人は恋愛をして結婚して子供を望んでいるのだが、その一歩を踏み出せずにいる為過去で何があったのかしりたがっている。
ただ今のところは日常生活に著しい障害をきたしていたり身体への影響があるわけでもない。
そのように事前に以前通われていた病院でのカウンセリング内容がこのカルテにはある。
(大きなトラウマを抱えているわけでは無いのか、
ただ人生のライフステージを上げるのに足踏みしているとい
うことなのかしら?でも昔なら考えられないわね。
特に大きな影響をきたしているという訳では無いにもかかわ
らず病院での治療ができるなんて。)
「橘さん。カルテには目を通し終わったかしら?
終わったのであれば、治療の流れを説明するね。
まずは事前カウンセリングをしますね。
カルテでカウンセリングはしているけれど私達は彼女に会う
のは今日が初めてだから。僅かなニュアンスのズレを擦り合
わせる作業をここでしていくからね。そうする事で催眠をかけ
る時に安全でスムーズに催眠状態に入っていただけるから
ね〜。
それから催眠をかけていきます。その際に患者さんにはこのbrain analysisを装着していただきます。催眠状態に入ると後はこのbrain analysisが解析して患者さんの過去の疑似世界で患者さん自身で己と向き合っていただきます。
状態を見て危険だと感じたらbrain analysisを解除して催眠状態を解き直ちに処置をします。
まあ想定よりも大きな過去を抱えてる可能性もあるので私達の1人も患者さんと一緒に過去にダイブしてもらいます。
ダイブしていない方にも状態が伝わるように感覚をコチラのサングラスとリンクするように出来てるから私達もリアルタイムで患者と向き合い続けることになるわね。覚悟はいいかしら。
1人の人間の過去に向き合うということは己の精神への影響を少なからずとしても受けるわけね。だから私たちには自分自身を保ち続ける精神力を求められる。大変な仕事だけど、よろしくね?
で、その後に事後カウンセリングをして体験したことを振り返り、これからの解決策を話し合っていく。
以上が治療のながれね!
よろしく!橘さん。」