導入部分
2020年医学の世界では心理学の分野である催眠療法に興味関心が向けられた。
人々の奥深くの記憶、いわば潜在意識を視覚・聴覚・触覚におけるものを極限にまで呼び起こすことで、ある種のタイムリープはたまたパラレルワールドを体験することが出来るのではないか?そんな理論が医学界では提唱された。この言葉を受け大衆の多くのものの期待と欲望を孕んだ熱い視線が向けられた。
世界的にも注目を受け数多くの著名人がスポンサーについて多額の資金援助がなされたこともあり精神医学での治療技術が向上した。主に催眠療法での技術力が目覚しい進歩を遂げた。
2025年僅か5年でゲーム会社と手を組みbrain analysisという医療機器が生まれた。それは、脳波から記憶を読み取りその情報を自動解析されVRでの疑似体験ができるというものだ。改良を重ねVRとbrain analysisと人の潜在意識この3つのリンクが強化されよりリアルでクリアな視覚体験が出来るようになった。さらに改良を重ね体験時の匂いや温もり痛みなどを潜在意識からbrain analysisが読み取り直接神経に訴えかけることが可能になった。より鮮明に過去と向き合うことができるようになったのだ。それらの事があり、以前よりも催眠に掛かっている時間も長くなり入り方もスムーズになったことで利用者の負担を格段に減らす事ができるようになった。
この医療機器を使い自分達の人生の分岐点、かつての後悔はたまた思い込みで作り変わった記憶と自らが向き合い今後の人生に意味や指針を見つける助けが出来るようになった。この医学治療を時空心療と名付けられた。
だが、この治療で著しく何かが改善させられる訳ではない。
未来が変わる訳ではない。いかに過去がリアルに見えるからといって、分岐点を変えたところで己の記憶から作り上げた世界での話だからだ。ただ月日を重ねることで過去の記憶を過大評価してしまったり小さな失敗を大きいものと思い込んでしまいトラウマのようになった過去と向き合うということは大なり小なり怖いということがある。
この医療機器と催眠療法により等身大の過去と改めて向き合い今後にどう活かして生きていくかを己で見つけるということがこの治療法では可能なのだ。
己で気づき導き出せた答えだからこそ納得し確固たる自己肯定を芽生えさせる事にも繋がっていくわけだ。
次第にこの治療法も一般に流通するようになり気軽に受けられるようになっていった。
そして、舞台は日本。X県、Y市。
県立総合病院時空心療パラレル科。
ここで医師を勤める女性がいた。
雨宮詩音(29)若くしてこの時空心療のノウハウを学びさらなる医療技術の向上のため世界を席巻していた。