第九十九話 中等部体育祭終了
「さあ、アリス学園中等部体育祭もいよいよ大詰め! 最終種目のバトルロイヤルの決勝戦が始まります!」
「いやぁ、楽しみですね、大学まで併せてランキング1位の一橋さんを倒せるプレイヤーは、出て来るのでしょうか?」
「小野に賭けてるぞ! 頑張れよ!」
「わたしは中村君に賭けてます!」
「有り金持ってけーっ! 村田ーっ!」
「砂緒ちゃん、頑張ってー!」
なんか、不純な応援の隙間に、優の声が聞こえた。
よし、頑張ろう。
決勝は11人だ。
わたしは、みんなから距離を取るために動く。
でも、また開始と同時に位置が変わるんだろう。
そのランダム転移で、ど真ん中に行ってしまったら不利だ。
前から後ろから、どう攻撃されるかわからない。
無駄だと思いながらも、全員が背後を取られない位置取りになった。
「バトルロイヤル決勝、初め!」
「さあ、バトルロイヤル決勝、スタートです!」
フッと視界が変わる。
やっぱりランダム転移か。
「……!」
わたしが位置していたのは、それでも外側だった。
この土壇場で、運が向いている。
「……チッ」
目の前の身体の大きな先輩が、わたしを見て舌打ちした。
わたしは武器を構える。
でも……その先輩は、戦い始めている他の対戦に割り込んでいった。
わたしは放置だ。
「…………」
誰も、わたしに攻撃に来ない。
いや、いいんだけど……。
それなら、戦わないようにしますよ。
「うおおおおぉぉっ!」
「<パーフェクトガード>」
「<シューティングスター>」
「<リコールプロミネンス>」
みんなが、スキルを駆使して戦っていく。
結構、レベルの高そうなスキルだ。
決勝戦だけあって、多分強いんだろう。
一対一で不利になると、他の対戦相手のところに紛れに行ったり、背中が見えたら取りあえず一撃入れたり、結構バラバラの戦いだ。
そして……最後に残ったのは女の先輩だった。
刀を装備しているから、エミリーと同じサムライだろう。
サブ職業は取って無さそうだ。
武器スキルは、もちろん刀だろう。
腰溜めに、居合いのような格好でこちらを見ている。
ここまで戦って、もうボロボロだ。
一方のわたしは……何もしていないから元気なままだった。
無視されていたようでちょっと悲しい。
「尋常に、勝負」
「はい……」
サムライをやっていると、言葉遣いまで凛々しくなるみたいだ。
正々堂々と決着を付けよう。
まぁ、戦う前から、もうズタボロで残りHPもわずかに見えるんだけど……。
「…………」
これなら、武器で戦わなくても……。
「ヤキニクオン」
「オレ様の出番かーっ!」
なんか、わたしがとどめを刺すのは、ちょっと気が引けた。
ペットが倒してしまったなら、仕方が無いという事で、大目に見てもらえるだろう。
「なん……だと……?」
目の前のサムライの先輩は、わたしがペットを呼び出したのを見て絶句している。
逆効果だったのかな……。
「いぃっくぜーっ! <エクスバーン>」
爆発が、女の先輩を包む。
「ぐうっ、無念」
わたしの勝ちだった。
「バトルロイヤル決勝! 今年の優勝は、一年弓組、一橋選手です!」
「うおおおおっ!」
すごい歓声が聞こえてきた。
大盛り上がりだ。
多分だけど、賭けているから盛り上がっているんだろう。
儲けたのか損したのか、それはわからないけど……。
わたしのオッズはどれくらいだったんだろうか?
「一橋選手は、自身のスキルを使わずにユニットとペットだけで余裕の勝利です!」
「いやあ、驚きましたね、ここまで圧倒的な差があるとは、大学でも、彼女を倒せるプレイヤーはいないんじゃないでしょうか?」
そういう敵意を買いそうな表現はやめて。
わたしは、それ以上何も言われないように観客席に戻った。
「砂緒ちゃん! 一位おめでとう!」
「一橋さんすごかったよ!」
「おめでとう! これでうちのクラスも4位だよ!」
クラスのみんなが喜んでくれている。
良かった……のかな?
ちょっと、なんからしくない感情が沸き起こっていた。
「う、うん、ありがと……」
駄目だ、この感情は馬鹿なわたしを調子に乗らせる。
落ち着け砂緒、冷静に考えるんだ。
この人達は、得したから喜んでいるんだ。
得だから、わたしを応援してたんだ。
心が落ち着いてくる。
いつものわたしが戻ってきたようだった。
「それでは、集計が終わりました! 今年度の体育祭の順位を発表いたします!」
ああ、終わった。
無事に終わって、良かった……。
「第3位は……」
うちのクラスは4位だって誰かが言ってた。
もしかして、このクラスは優秀なんじゃないだろうか?
新たな発見に思いを馳せながら、今年の体育祭が終わった。




