第九十六話 人形倒し
人形倒しの競技のために、各クラス10人ずつがフィールドに出た。
自分の陣地の人形を守りつつ、相手の陣地の人形を倒せば勝利という、棒倒しのような競技だ。
参加人数は10人なので、どういう割合で人を振り分けるかが重要そうだと思った。
攻撃的に行くのか、防御重視にするのか。
でも、そこはもう、人を決めるときに決まっている。
「打ち合わせ通りに、俺、江子田、稲田、佐藤、一橋の5人が攻撃、小島、柳田、清川、山田、荒井の5人が防御で行くぞ」
「おう」
男の子達が、威勢良く答える。
優も、頑張るぞという風に拳をグッとしていた。
バランス重視というか、どんな相手にも対応可能な布陣だった。
全員攻撃で、一気に倒すか倒されるかみたいなのも面白そうだけど、そう上手くはいかないだろう。
普通に考えるなら、こういう割り振りになるはずだった。
そのクラスの特色で、火力の高い人が6人いるとかあれば、6:4になったりもするんだろうけど。
「相手は、同じ一年の杖組だ。勝てる相手だぞ」
そう言いながらも、堀田君の声は緊張していた。
フィールド上に、15組が同時に向かい合う。
3学年で30クラスあるので、一試合目は15組だ。
それが、一斉に行われるようだった。
ピーッと笛が鳴る。
防御の人達は後ろに下がって、攻撃の人は前に走る。
相手は……こちらと同じ5人5人の布陣のようだ。
そこで、走っている攻撃の味方がふたり、突然倒れた。
「うっ!?」
「くそっ!」
状態異常の魔法を食らったみたいだ。
仕方が無い。
わたしには、妨害魔法は飛んでこなかった。
飛んできたけど、無効化したのかな?
一日10回の効果を使い切るまで星海武具にしているので、本当のところは、わからない。
そして、一番乗りで人形までたどり着く。
この人形を攻撃して、一定のダメージを与えれば勝ちだった。
「<クアドラブルエアブレード>」
「<ナイトブリンガー>」
「<バスターアクス>」
3人の波状攻撃で人形が弾ける。
勝ちのようだった。
やけにあっさりと勝ったかな?
「やったよ! 砂緒ちゃん!」
後ろで優が喜んでいる。
そちらに手を振りながらも、攻撃した3人でグータッチした。
「杖組は、回復をしてこなかったな」
「防御魔法と回復要員を入れないで、状態異常で封じる作戦だったんだろ」
「…………」
まさかの、防御は全員状態異常だった?
状態異常二発は間違いないけど、残りの三発が全部わたしに飛んできてたの?
まぁ、わからないけど……。
フィールドはいくつもあって、同時に試合が行われていた。
「これじゃあ、次の相手の偵察ができないな」
「クラスの誰かに、他の試合を見ててもらえば良かったか」
堀田君が、残念そうにそう言う。
いや、今からでもそうした方がいいと思うけど……。
全部の試合が終わって、息つく暇もなく、次の試合が始まる。
二回戦のフィールドに行くと、相手は二年生のようだった。
相手の戦い方とか見てないけど、向こうは見てたんだろうか?
不戦勝が1クラスと、7組の対戦相手が向かい合う。
ちょっと、コツが掴めたような気がした。
今度はちょっとやってみたいことがある。
そこで、試合開始の笛が鳴った。
「嘘だろっ!?」
なんと、相手は攻撃に7人が走って来る、超攻撃的な布陣だった。
でも、これは丁度いい。
わたしがやりたかったのは……。
「<スピリットストーム>」
攻撃に来る7人の中央辺りに魔法をぶち当てる。
すると、スピリットストームに持ち上げられて、5人が空中を舞っていた。
まぁ、わたしも移動できないんだけど。
スピリットストームを避けたふたりが攻撃に入る。
でも、防御は5人いるんだから圧倒的に有利だろう。
その間に、こちらの攻撃の4人が、相手の防御3人相手に頑張っていた。
スピリットストームが終わる。
相手を攻撃してもダメージを与えられないから、着地した5人は、すぐさま攻撃に走っていった。
「間隔を空けろ!」
「今のやつがまた来るぞ!」
もう一発、スピリットストームを入れようと思ったけど、瞬時に対策されてしまった。
味方の人形の辺りにスピリットストームをすると、たくさん巻き込めそうだけど、人形に自殺的なダメージを与えてしまいそうなのでやめる。
こちらの防御は5人だ。
味方を信じてわたしも、攻撃に行く。
「ナイスだ一橋!」
「結構追い込んでるぞ!」
防御3人相手に、攻撃が4人いたんだから有利だっただろう。
「<クアドラブルエアブレード>」
そして、そのアドバンテージのまま、わたし達が勝ってしまった。
「やったー!」
「一橋さんすごい!」
「滅茶苦茶強いじゃないか!」
「そうだよ、砂緒ちゃんはすごいんだから!」
なんか、優が胸を張っている。
まぁ、ともあれ、これで、残りは8チームだ。
あと、3回勝てば人形倒しで優勝だった。
 




