第九話 月間ランキング発表 ※
今日は、月間ランキングが発表される日だった。
わたしは、ずっと最下層に籠もっていたので更にレベルが上がり、所持金も増えている。
でも、今は、体育の時間で女子はサッカーをしていた。
「砂緒ちゃん、ランキング見に行こうね」
「ロビーに掲示されるんだっけ?」
センターバックの位置で、わたしは優と話をしている。
あまり運動が得意ではないわたしは、なるべくボールを触らないように逃げていた。
「スマホで、見れるようにしてくれればいいのにね」
学園内の情報だから、外にもわかるようにはしたくないんだろう。
そこに、運悪くボールが飛んできた。
わたしは仕方が無く、そのボールをキープする。
「一橋さん、そのまま上がって!」
「え!?」
体育教師にそんな指示を出されてしまった。
サボっているのがバレバレだったから、走らせようとしているんだろう。
「砂緒ちゃん、頑張って」
「もうっ……」
優の声援を受けながら、わたしはドリブルを始める。
なんだろう、ここ数日感じていたことだけど……身体が軽い。
簡単に、ボールを操れるような気がする。
相手チームの子がボールを取りに来きた。
スポーツの得意な子だ。
「…………」
でも、わたしはそれをかわせると確信する。
左にフェイントを入れてから、すぐにボールを右足に持ち替えて……。
「えっ!?」
スポーツの得意なクラスの子を、わたしは華麗にかわしていた。
その子が驚いているけれど、わたしも驚いている。
そして、そのままドリブルで上がっていくと、またふたりがボールを取りに来た。
かわせる。
ボールを少し浮かせて、ふたりの間を抜いていった。
みんなわたしのことを、呆然と見ている。
パスを出すよりも、このまま行った方がいい。
なんだろう、この高揚感は。
身体が自由に動くって、こんなに気持ちのいいことだったの?
ゴールまで後3人。
抜ける……今ならできる……。
ひとりをかわした後、ボールを少し長く蹴って前に出す。
その勢いで、もうひとりをかわし、後はキーパーとディフェンスの子がひとり。
走るのが速くなってる。
誰も、わたしに追いつけない。
シュートコースが鮮明に写る。
ゴールの左隅、枠下ギリギリのところ。
そして、わたしは思いきりボールを蹴った。
ボールはディフェンダーをすり抜け、ゴールキーパーも届かず……ネットに吸い込まれていく。
そして……。
ピピーッと体育の先生の笛が鳴った。
えっ、なんだろう今の感覚。
わたしは、ふと我に返る。
ゾーンに入るってこういうこと?
「すごいよ砂緒ちゃん!」
遠くから優の声が聞こえた。
クラスのみんなも、一斉にわたしを褒めだした。
「一橋さんって、サッカー上手かったんだね!」
「足が速くてびっくりしちゃった!」
「プロみたいな動きだったよ!」
「あ、あはは……まぐれだよ」
本当にまぐれだ。
わたしは、運動オンチで足も遅い。
こんなことはまぐれか偶然以外にあり得なかった。
「一橋さん、今の良かったわよ!」
体育の先生も褒めてくれている。
なんか照れくさくなって、わたしは優のところに戻った。
「すごかった! 格好良かったよ!」
なんか、優がすごく興奮している。
「まぐれだよ……でも、ゲームをしているみたいな感じだった」
「VRで身体を動かすと、実際の身体も鍛えられるのかな?」
「まさか、実際に動かさないと、筋肉は鍛えられないし、運動神経も鈍くなるんじゃないかな?」
「とにかく凄いよ、おめでとう」
そして程なくして、体育の授業は終わった。
更衣室で着替えて、ホームルームが終わると放課後になる。
「じゃあ、ランキング見に行こっか」
「うん、行こう」
わたしたちはVRのヘッドセットを付けると、ロビーと言われているVR空間に繋いでいった。
「なんか……人多いね」
いつも、ロビーは閑散としているのに、今日はすごく人が多い。
みんな、月間ランキングの結果が楽しみだったんだ。
「大学生の人とかもいるから、アルバイト料が出るし」
「さてと……」
ちゃんと一位を取れているか。
世の中そんなに甘くないのか……。
「えっ! えええええっ!?」
優が驚いている。
有名人でもいたのかな?
「どうしたの?」
「一位……砂緒ちゃんの名前が書いてある!」
「ああ、うん。一位取れてたんだ、良かった」
改めで自分でも見る。
4月の月間ランキング一位は、一橋砂緒……わたしだった。
二位をぶっちぎって一位だ。
ポイントは何桁も違う。
「ええええっ! えええええええっ!?」
優が嬉しそうな驚いているような、複雑な顔でわたしを見ていた。
なんだか照れてしまう。
「すごい、すごいよ! 砂緒ちゃん! ソロなのにすごい!」
周囲からの視線が痛い。
わたしが砂緒だって、近くの人にわかっちゃったじゃないか。
なんだか、羨ましそうな視線を向けられている。
「ゲームシステムの裏をかいくぐったんじゃないのか?」
「ソロらしいから、そこに盲点があるのかも」
なんだか、ボソボソと噂されている。
まぁ、ゲームの中ではステルスしているから見つからないんだけどね。
「そう言う優はどうなっているの? 最近上手くいってないって言ってたけど」
「そうなんだよねぇ」
小島優で検索を掛けてみる。
同姓同名が一人いたけれど、それは高等部だから違うとすぐにわかった。
「ちょっと……悪いね」
優はかなりの下位ランクにいた。
他のメンバーも調べてみるけど、永遠の風のメンバーはランク外もいる。
あんなに調子よく進んでいたパーティーだったのに。
「みんな喧嘩ばっかりしてて、上手くいってないの、片石君はパーティー抜けちゃうかも」
「そうなんだ……」
タンクが抜けると困るだろう。
まぁ、代わりに誰か入れるんだろうけど、同じ学園生の方が都合がいいから、そこまで贅沢には探せない。
「取りあえず、自分へのお祝いも兼ねて、今日はご飯を奢るよ」
「嬉しい! 最近お金無くて、貧乏生活してたんだ」
そうだったんだ。
放課後は別行動がつづいていたから、わからなかった。
「猪狩君は、報酬半分にされてるから、もっと苦しいと思うよ」
「そんなことになってたんだ……」
報酬半分って……なにかやらかしたのかな?
しかも受け入れてるってことは、明らかなミスってことだ。
「お金はいくらでも貸すから、困ったら言ってね」
「ありがとう、本当に厳しくなったら借りるよ」
なんだか心配だなぁ。
もう無理矢理にでも貸してしまおうか。
「というか……片石君が抜けたところで、優も抜けちゃいなよ」
そう言うと、優はちょっと寂しそうな顔をした。
優しいから、余計なことを考えているんだろうなぁ。
「みんな困ってるから、抜けられないよ」
支援職の神官は、なり手が少ないから人気だ。
落ちぶれたパーティーには、中々代わりが入ってこないだろう。
「…………」
でも、タンクと支援職が抜けたら、パーティーも終わりだ。
永遠の風は解散だろう。
「優なら、どこでも引っ張りだこだと思うけどなぁ」
かわいいから、それだけでも男子が放っておかない。
わたしと違って。
「なんだか……猪狩君が放っておけなくて……」
ちょっと恥ずかしそうにしながら、とんでもないことを言い出した。
なにいいぃぃぃ!?
「え!? 好きになっちゃったの!?」
「ううん、全然好きじゃないよ、乱暴だし、我が儘だし、わたしはもっと優しい人がいいな、砂緒ちゃんみたいな」
優が、ほほえみかけてくる。
「あはは……」
わたしは女の子ですから。
「じゃあ、どうして放っておけないの?」
「わからないけど……駄目な男の人って、見捨てられないんだよ」
「ええええっ!?」
優って、破滅型の人だったんだ!
ヤクザと別れられない女みたいな!?
「駄目っ! 優もパーティー脱退して!」
肩を掴んで揺さぶる。
「ええ、冗談だよ、冗談」
笑っているけれど、冗談に聞こえない。
そしてすぐに……優にお金を貸すことになった。
アリス学園スレ26
127.アリス学園の月間ランキング発表されたぞー
128.タレコミご苦労
129.これって中学から大学まで全部込みなん?
130.そう、全員のランキング
131.小学生にしか興味ない俺に隙はなかった
132.一位www
133.一位だけ別次元だな、全世界でもかなり上なんじゃないか?
134.砂緒ちゃんかわゆい?
135.中学一年生でトップか、なんか抜け穴を見つけたんだろうな
136.100位ちょっとの奴が1ラルトくらいの財産で、ファイター5の一本伸ばしだそうだ
137.1ラルト持ってるなら、普通に課金ガチャ回してるやろ
138.それは大学生だろうな
139.どんな計算式かわからんけど、1ラルト持ちで27000ポイントくらいなら、砂緒ちゃんヤバないか?
140.一億くらいは持ってる?
141.夢あり過ぎやろ
142.ツベチューバーやってる場合やないな