第八十七話 呼び出される部下 ◎
イベントは、つつがなく終了していた。
もちろん、すんなり終わったわけじゃない。
土曜日には、ボスがたくさん現れて時計塔の周りを突破されたり、その隙を突いてレッドプレイヤーが散発的に荒らしに来たり、日曜日には、敵が沸き出す場所が三ヶ所に増えて大慌てだったりで、大変ではあった。
でも、日曜日の夜、わたしが寝る頃にはモンスターを押さえ込んで、時計塔の周りだけの戦いになっていたはずだ。
人知れず、自分のマイルーム近くで戦っていたりする人もいたんだろうけど、全部が退治されたのかはわからない。
ヤキニクみたいな、見えないモンスターが他にいないかなと思って探したら、まぁまぁ見つけることができた。
サイトビジョンのスキルが使えるスカウトかハンターがいれば、見つけることができたみたいだ。
何人か、テイミングにも成功してる報告を見た。
育てれば、強くなるんだろうか?
ペットは、パーティーでひとり分に計算されてしまうから、実用的なところまで育てている人が少なかった。
逆に、ペットは5匹まで連れて歩けるので、そういうプレイをしている人もいる。
スカウトは、相変わらず上げている人が少ないから、運営のテコ入れみたいな思惑もあったんだろう。
見えないモンスターのために、スカウトを上げるかと言われれば、怪しいところではあるんだけど……。
そして、月曜日になると、報酬のお宝ダンジョンが解放となった。
まだ授業中だからいけないけど、混み合っているんだろう。
はぁー、早く放課後にならないかな。
「それでは体育際の実行委員を決めます、やりたい人はいるかー?」
そんなの絶対にやりたくないと思いながら、時間が過ぎるのを大人しく待った。
ここは、スタッフルーム。
忙しかったイベントも大方は終わり、あとはボーナスダンジョンの混み具合を見て、モンスターの出現率を調整するくらいに落ち着いていた。
しかし、そんな話とは裏腹に、部下がチーフに呼び出されている。
「イベントも終了し、ボーナスダンジョンは、問題なく運営されています」
「いやぁ、しかし、イベントはプレイヤー側が圧勝だったねぇ」
「……?」
チーフは何が言いたいのか、そんなことを言い始めた。
「レッドプレイヤーの介入もありましたが、確かに、金曜日で決着は付いていたかも知れません」
「それはどうなの? 運営としては失敗じゃないの?」
「お小言でしたか……」
部下は、なぜ呼ばれたのかと思っていたが、チーフが、上から文句でも言われたのかと思い当たる。
責任者はあなたですから、と言いたいところをグッと堪えて話を進める。
「いえ、失敗すると想定するほどの難易度に設定していました」
「それで、実際は?」
「それを言われると、返す言葉もありませんが……」
今日のチーフはしつこい。
簡単には帰してくれ無さそうだった。
「ボスをもうちょっと出しても良かったんじゃない?」
金曜日の段階でボスを放出していたら、プレイヤー側の負けだったかも知れない。
それを避けようとするあまり、臆病になっていたのか。
「いえ、ボスは予定の倍出しました」
「三倍にできなかった理由は?」
「三倍にしたら、イベントは失敗してましたよ」
「そんなにギリギリだったかなぁ? おかしいなぁ?」
「くっ……」
本当にギリギリだったのだと言いたい。
大体、三倍にしたいなら、チーフがそう言えば良かったのに、理不尽だと感じる。
「レッドプレイヤーの介入が読めませんでした」
「そうだけどさぁ」
上に対する言い訳を見つけたのだろうか、チーフは少し引き下がる。
「それでも、思った以上に暴れてくれましたので、何か特典を考えているほどです」
「特典? レッドプレイヤーだけに?」
仲良く遊べがモットーのチーフとしては、レッドプレイヤーに特典というのは気になるのだろう。
部下は、それを説明していく。
「レッドプレイヤーは、秘宝石を持っていませんので、ボーナスダンジョンに入れません」
「そういうプレイを、自分たちでしているんだからね」
「それに、蒼天騎士団に倒されて、装備品を失っていますから、実際のところ、戦力がダウンしただけのイベントになってしまっています」
「よく荒らしましたで賞をあげたいと?」
「嫌われていますが、プレイスタイルの違いで、一方的に損をするのは良くないかと」
部下としては、レッドプレイヤーが嫌いだったのだが、今回のイベントで、その考えが少し変わっていた。
一本筋の通った、悪役プレイなのだと。
「でもなぁ、オレとしては、仲良く遊んで欲しいんだよなぁ」
ちょっと前までは、レッドプレイヤーをのけ者にはできないとか、認める発言をしていたのにと、部下は思ってしまう。
酷い手のひら返しだとも。
「レッドプレイヤー同士で仲良くしています、陣営が別れているだけで、みんな仲良く遊んでいますよ」
「なんて言って、レッドプレイヤー同士で殺し合いしてたりするんでしょ?」
「あるにはありますが、少数です、通常のプレイヤーが仲違いする方が、圧倒的に多いでしょう」
チーフは考え込む。
部下とのやりとりの中で、何かを組み立てているようだ。
「日曜日もなぁ、もっとモンスターを出しても良かったと思うんだよなぁ」
だから、それならそう指示を出してくれと部下は思う。
思うが、言えない。
「プレイヤーに、早めに対処されてしまいましたが、イベントの目的としては最高の展開だったと思います」
「イベントの目的って、ギルド実装の?」
「はい、協力プレイをしてもらう、ギルドシステムに向けて、多人数戦闘をこなしてもらう、これが目的でしたから」
そこで、チーフは黙り込んだ。
「俺が怒られて、始末書を書けと」
「いえ、それはわかりませんが……」
やっぱりそうだったかと、部下は納得した。
とんだとばっちりだとも思うが。
「まぁ、いい、全力を尽くしてくれたことはわかったよ。ボーナスダンジョンが終わるまでは、気を抜かないようにね」
「はい、失礼します」
やれやれと肩をすくめながらも、チーフに呼ばれたときは気をつけようと部下は思う。
今時こんな上司いるかというくらいに、駄目な上司だ。
いや、ガンマプラスで、役に立たない者が重要なポストに就けるはずがない。
気を抜かないようにしよう。
チーフの無能ぶりを見て、警戒を強める部下だった。




