第八十五話 時計塔広場の戦い
出口から広場に出ると、そこではもう、戦闘が始まっていた。
見渡す限りの人とモンスター。
時計塔周りの広場は、凄惨な戦場と化していた。
オオオオオオオー、と雄叫びが木霊している。
「あっ!」
わたし達を通り過ぎるようにして、透明なモンスターが出口から出てくる。
そのモンスターは、広場に出ると透明ではなくなって、近くのパーティーを攻撃しにいった。
「もっと前に出よう」
「ここは特等席だネ」
「戦わないといけません!」
やる気がある内にやろう。
わたし達が出口から遠ざかると、現れたばかりのモンスターが迫ってきた。
「<|悪行罰示式神・両面宿儺《あくぎょうばっししきがみ・りょうめんすくな》>」
リサが、タンクの式神を呼んでくれる。
この式神は、常にウォークライの状態であるみたいで、新しく現れるモンスターをどんどん呼び寄せていた。
「<トルネードクレスト>」
エミリーは、槍に切り替えるみたいだ。
雑魚戦なら、槍の方がいいんだろう。
「<ブレス>」
バフはみんなありがたい。
比較できないけど、優のブレスは結構大きなバフが掛かっている気がする。
でも、穴の近く、最前線にいるせいか、出てくるモンスターが、ワッと一気に押し寄せてきた。
これは捌けないな。
「<インフィニティワールド>」
長方形の空間を、ごっそりと削る無属性魔法だ。
10匹くらい消したと思う。
「どんどん来るヨ!」
リサの式神が、頑張ってモンスターを受け止めてくれていた。
見ている感じは、壮絶な殴り合いだ。
「<プロテクション>」
式神も合わせて、みんなの防御力が上がる。
これも嬉しいバフだった。
「<思業式神・轟火炎陣>」
モンスターの数が多いので、リサは陰陽道で戦うようだ。
MP消費が激しそうだけど、お金持ちパワーでしのぐのかも知れない。
「<トリプルアタック>」
槍の三段突きがきれいに決まると気持ちいい。
1発でもスカると、なんか不完全燃焼な感じのスキルだ。
「<エアリアルレイブ>」
スキル1発で、敵が消し飛んでいく。
モンスターは、弱くはないけど、それほど強くもないようだ。
「…………」
後ろを振り返ってみると、みんな互角くらいには戦っていた。
ここで沸いてくるモンスターを食い止められれば、流れが変わるかも?
それから30分くらいが経過した。
リサのMP消費が激しい。
もう、式神を呼べないでいる。
割とダメージをもらっていないから、優のMPはまだ大丈夫そうだ。
プリンセスティアラのMP軽減が利いている。
エミリーも、そろそろ限界か。
うーん、どうしよう。
撤退するなら今だけど。
「一橋さん、お待たせしました!」
「えっ!?」
そこに、援軍が来た。
名塚さんのパーティーだ。
後ろの戦いの趨勢が決まって、他のパーティーが最前線に来てくれたんだ。
「一度下がろう!」
「後退しよウ!」
「仕方が無いですね」
名塚さんのパーティーにモンスターを任せて後ろに下がる。
すると、次々と戦い終わったパーティーが前に出て来てくれた。
もう戦えないパーティーは撤退していく。
「よし」
ここまでくれば勝ちは見えたかな。
エミリーが、みんなにポーションを分けてくれる。
「ポーション欲しい人は言っテ」
「MPポーションをください」
「はいヨ」
「私もちょうだーい」
「はいヨ」
「わたしも欲しい」
「はいヨ」
もらったポーションをグイッと飲む。
「ん?」
何か味が変だぞ?
「スナオのは、エナジードリンクだよ」
「なんでなの!」
「砂緒ちゃんは、まだ余裕ありそうだからだよ」
「フフフ、エミリーはイタズラ好きね」
みんなで笑い合う。
この間は、各地にモンスターが供給されていないだろう。
現地で倒せれば、それでモンスターが尽きるはずだ。
これで、3日間ここを固めることができればイベントは勝利だろう。
「爽快だネ」
「決めましたからね」
「油断したら駄目だよー」
そう言いながらも、優は笑っていた。
「さて、ご苦労さん」
そこに、大勢のプレイヤーが現れた。
援軍? いや……。
そのプレイヤー達が……赤い。
「レッドプレイヤー!?」
どれくらいいるんだろう、1万人か2万人か。
「蒼天騎士団様には世話になってるからな、借りを返しに来たぜ!」
「レッドプレイヤーだ!」
「レッドプレイヤーが来たぞ!」
最前線で戦っていたパーティーが浮き足立つ。
みんな疲れているだろう。
ここを襲われたら、ひとたまりもない。
「見てください! レッドプレイヤーの大軍勢です!」
配信している人達が、大声で驚いて見せていた。
盛り上がっているのかな?
このピンチに、わたしは怒りが沸いてきていた。




