第八十四話 禍々しい魔神
「べーろべろべー」
魔神が変な呪文を唱えると、小さな魔神がいっぱい現れた。
タンクの式神を通り抜けて、こっちに来る。
「まずいです!」
リサが慌てている。
パーティープレイが身についているんだなぁ。
さて、武器を持ち替えている暇はない。
「<フォールダウン>」
これだけ闇のある場所なら、フォールダウンが使える。
天井から濁流のように落ちてくる闇に、小さな魔人達が飲み込まれて消えた。
「<ディメンジョンシールド>」
優が、リサに回避魔法をかけている。
50%で完全回避というすごい魔法だ。
手数の少ない相手なら完封してしまえる。
「べーべろぱー」
「ん?」
なんか、さっきと微妙に違う呪文だ。
すると、部屋がぐるっと一回転して、天井が床になった。
「きゃっ!」
「ええエッ!?」
わたしは、さっと反転して天井に着地する。
リサも、華麗に着地していた。
でも……。
「いったーい」
「これはズルいヨ!」
優とエミリーが落下ダメージを食らっていた。
天井が、まぁまぁ高いから痛そうだ。
リサの式神も、ジタバタしている。
「早く倒そう!」
エミリ-の天使が笛を吹くと、魔神に雷が落ちた。
空を飛んでいるから、天井と床が逆さまになっても問題ない。
威力もまぁまぁだ。
プレイヤーにすると、3レベルくらいのスキルだろうか?
「<掣肘拳>」
リサが続けざまに攻撃していく。
優とエミリーと式神は、体勢を立て直して終わりだ。
じゃあ、やってみたかったのやろうかな。
分身で二回攻撃。
大剣の効果で二回攻撃。
これに、色々なバフを乗せて叩く!
「<分身>」
「<クアドラブルエアブレード>」
バルキリーの胸当ての効果とか色々乗っている。
分身しての攻撃で8×2×2連撃だ。
魔神の服がボロボロに破れる。
そして……。
第二形態なのか、禍々しい魔神に姿を変えた。
「こっちが本物だネ!」
「<セイクリッドヒール>」
自分たちに、範囲回復だ。
優とエミリーが癒されていく。
そして、変貌した魔神の連続攻撃で、リサの式神が倒れた。
「くっ!」
呼び出したタンクじゃあ、保たないよね。
落下ダメージも受けていたし。
セレスティアルスフィアは、まだ持続してダメージを与えている。
結構長持ちだな。
ティタニススタッフの魔力が高いからかな?
「<跳背蹴り>」
飛び上がって後ろ回し蹴りだ。
わたしがリアルファイトで真似をしたのは、これだった。
まぁ、リサの足は光っているけど。
「グウオオォォォォオッ!」
魔神の攻撃がわたしに来る。
式神がいなくなったから、リサかわたしに来るのは当たり前だ。
拳を振り回すような連続攻撃。
式神は、二発で沈んでしまったけど、どうかな?
1発、2発、3発……そして6発全部、わたしは避けていた。
半分は完全回避だったけど。
「スナオ、回避盾頼むヨ!」
リサは、割と軽装だ。
わたしが前に立った方がいいだろう。
「<ストレインゲージ>」
持続ダメージの重ね掛けだ。
これを繰り返すと、えぐいダメージになる。
雑魚には使えない、ボス戦用の魔法だった。
「<ブリッツフォース>」
優は攻撃していくようだ。
ヒールでもダメージを与えられる杖だけど、MP効率がいいのかな?
「<分身>」
リサが分身した!
「<思業式神・零光明円>」
天井からふたつの光の柱が落ちてくる。
それが魔神を一気に焼いた。
「ぐああああぁぁっ!」
リサの必殺技かな?
結構ダメージを与えている。
そこに、エミリーのホムンクルスが笛を吹いた。
さっきよりも大きな雷だ。
これなら4レベルくらいはありそうかな?
それで、ホムンクルスは消えた。
よしよし、もう一息って感じだね。
じゃあ、わたしもやっちゃうか。
酒場の前で使ったときは、すごいダメージが出たけど……。
「<グランディア>」
攻撃の最大値を出せるというセイバースキル。
それ程期待していなかったんだけど……。
「ぎゃあああぁぁぁぁっ……」
すごいダメージが出て、魔神が消えた。
『ユニークスキル、ゴールドスティールを取得しました』
宝箱がドロップする。
勝利だ。
「やったー!」
「やったネ!」
「やりましたね」
「やー!」
みんなでグータッチする。
「宝箱開けるよ」
罠はかかっていない。
開けると、金色のオーブが4つと、スキルの書が四枚入っていた。
「なんのスキル?」
「4枚入ってるから、戦闘系じゃないと思うけど……」
どれどれ。
「<ドロップバースト>、一定時間ドロップ率が上がる」
「いいネ!」
「どのくらい上がるんだろうねぇ」
「気休めくらいなのかな? でも無いよりはいいよね」
MP消費が激しそうだけど、狙っている物があるなら良さそうだ。
「MPは、ポーションを飲めばいいんです」
リサの頼もしいお言葉だ。
「ワタシから買っテ」
エミリーは、アルケミストで、ポーションを作って売っている。
これからはお世話になるかもしれない。
「金色のオーブは初めて見ました」
「間違いなきく、このダンジョンの領主でショ!」
みんなのイベント報酬のお裾分けをもらう感じだ。
悪いはずがない。
「じゃあ、使っちゃおうか!」
「いいヨ!」
「いくよ、せーの」
『セグメント』
オーブから光が立ち上り、それがダンジョンに溶けていくように広がっていった。
これで、このダンジョンの利益がわたし達にも還元される。
「ゴールドスティールは、モンスターからお金をスティールするスキルだね」
ここのモンスターには、良く利きそうだ。
思った以上に、とんでもない稼ぎになりそうだった。
「そうだ! 時間!」
ステータスから時間を見てみる。
すると……。
「今、21時56分だよ」
「間に合ったネ」
「やったー!」
「みんなまだ戦える?」
リサ以外は、うんうんと頷いている。
「何をするのですか?」
「これから、時計塔のモンスターを何万人で急襲する作戦なんだヨ」
ほーっという感心した顔で、リサが頷いていた。
リサのお兄さんとかは、別の作戦で動いているんだろうな。
「いいです、やりましょう」
リサはやる気だ。
さすがバトルマニア。
「雑魚はなるべく避けて、出口に向かおう」
「オーケー」
「じゃあいくよ」
そして、わたし達は、無事に出口にたどり着いていた。
 




