第八十三話 アラビアンな魔神
孤島に飛ぶと、優が来ていた。
「ごめんね、付き合わせちゃって」
「ううん、私も稼ぎたいし、すぐにボスを倒せばいいだけだから!」
「そうだね」
ふたりで笑い合う。
戦いは厳しいけど、優がいれば何とかなりそうな感じがした。
そこにリサがやってくる。
「お久しぶりです」
コンビニで会ったから、それ程久しぶりでもない。
「お久しぶりー」
「こんちわー」
そこに、すぐエミリーも来た。
「リサは、もう来てたのネ」
集まりが早くて助かる。
リサは、戦っていた最中だったかも知れないのに。
「えーと、じゃあ、これからボス討伐に行きます」
「どんなボスなの? 悪魔?」
優は悪魔系得意だからなぁ。
「どんなボスかわからないけど、ダンジョンのモンスターは、ゴールドゴーレムとか宝石のドラゴンとか、そういうのだった」
「堅そうだネ」
「でも、稼げそう!」
「そんなダンジョンがあったんですね」
リサは冷静だけど、ちょっと悔しそうにしている。
また、イベント1位を狙ってたのかな……。
「あと、ダンジョンに居続けるのに秘宝石がいるから、20個くらい持っておいて」
「ほー、そういう使い方なのネ」
「秘宝石の使い方までわかっているんですか……」
「いや、他にも使い道があるかも知れないし、今のところはって感じだよ」
「いいよいいよ、イベントは始まったばっかりだし、たくさんゲットできるから」
うん、ケチっても仕方が無いからね。
「それじゃあ、準備はいい?」
「いーよー」
「オーケー」
「オーケーです」
「じゃあ、ポータルオン」
わたしは、みんなを時計塔の下のダンジョンに飛ばした。
豪華な扉の前、ボス部屋前だ。
「金貨とか宝石がいっぱい落ちてるよ!」
「それはオブジェクトだから、手に取ると、砂みたいに無くなっちゃうみたい」
優が宝石を拾ってみると、それがサラサラと砂になった。
「ホントだぁ、残念」
「ははは、なんか教訓の言葉ができそうだネ」
絵に描いた餅みたいな話かな?
まぁ、いいや。
「それじゃあ、ボス戦だから気合いを入れて」
豪華な扉の前に配置につく。
みんなで扉を押して、中に入る算段だ。
「いくよ、せーのっ」
ゴゴゴッ、と重い音がして扉が開いていく。
手に感じる重さも、分厚い金属のそれだった。
「うわぁ……」
中は、すごい財宝の山だった。
オブジェクトなんだろうけど。
「ボスがいなイ?」
「油断しないでください、ボスはちょっと間を開けてから出て来ます」
さすが、リサはボスと戦い慣れているみたいだ。
きっと、今の最深部に潜っているのはリサ達なんだろう。
「あっ! なんかいる!」
優が指さす方向を見ると、財宝の影から、アラビアンな魔神が現れた。
あのランプを擦ると出て来そうなやつだ。
「強そうですよ!」
リサが引き締まった声を出す。
わたしには、ひょうきんそうに見えるけど……。
「<インサイト>」
優は、問答無用で弱点倍化の魔法をかけた。
悪魔じゃないと、何が利くかわからないけど、ボスには有効なことが多い。
これは悪魔なのかなぁ?
ちょっとわからない。
「<|悪行罰示式神・両面宿儺《あくぎょうばっししきがみ・りょうめんすくな》>」
出た! リサの呼ぶ式神だ。
多頭多椀の巨人が、ぬっと五芒星の中から出て来た。
頼りになりそうだ。
「<ホムンクルス・プリンシパリティ>」
おっ、エミリーの新技かな?
これは見たことがない。
ホムンクルスって、小さな人形みたいなイメージあるけど……。
でも、エミリーが呼んだのは、角笛を持った天使の女の子だった。
これがホムンクルスなのか。
結構かわいい。
「さて」
わたしは呼び出せるものがない。
いや、ダイフクとタマを呼び出したら一撃だろうけど。
ティタニススタッフを装備する。
「<分身>」
「<セレスティアルスフィア>」
わたしは、召還物の代わりに、ドルイドの魔法、持続ダメージを与える光球をふたつ呼び出した。
光球から光がこぼれ落ちるように溢れると、魔神を追尾してダメージを与えていく。
呼び出したあとは、武器を持ち替えてもダメージが維持される仕組みだった。
これは、もう検証済みだ。
武器を大剣に持ち代える。
そして、リサの式神をタンクにして、本格的な戦いが始まった。
「<ブレス>」
優のバフ魔法だ。
これは、かなり効率がいいバフ魔法で、今のところ最高のバフ魔法だと言われている。
「<ストレインゲージ>」
エミリーはアルケミストとして戦うつもりなのか、槍を出していなかった。
小さなロッドを持っている。
魔法戦士だから、色々できるのはいい。
というか、優と名塚さんは専門職っぽいけど、近接と魔法を両方取っている人は結構いた。
「<擬人式神・紫炎武装>」
リサは、まだバフが終わっていない。
これから、格闘術で戦うんだろう。
「<ファイアジャベリン>」
取りあえず、わたしは牽制の魔法を撃っていく。
「べろーん」
魔神が、間の抜けた声を出した。
痛いみたいな意味っぽい?
そこに、リサが走り込んでいった。
「<神撃券>」
すごい光るパンチだ。
手にナックルのようなものを握っている。
「べろーん」
やっぱり、魔神は、ダメージを受けているみたいだ。
この調子でいこう。
リサの式神が魔神を押さえている状況で、戦いはつづいていった。




