第八十一話 ヤキニクとの出会い
「…………」
わたしは、普通では見えない、小悪魔みたいなモンスターを袋小路に追い込んでいた。
レアモンスターかな?
テイムしたいけど、アイテムはひとつしかない。
「お、オレ様を殺す気か?」
しゃべった!
しゃべるモンスターもいるけど、見た目通り悪魔なのかな?
というか見た目は、サキュバスの女の子みたいな格好なんだけど……オレってしゃべるんだ。
「殺さないよ、テイミングしたい」
「お、オレ様をペットにするつもりか!」
わたしは、モンスターをテイミングするアイテムを出す。
テイムアイテムは色々な種類があって、そのモンスターによって効果がまちまちなんだけど……。
狙っていたわけでもないので、テイムアイテムは汎用のがひとつしかなかった。
獣系とか鳥系とかは、エサ型が良く利く。
亜人系だと宝石型だ。
でも、悪魔型には……わたしはとびきり上等なムチを握った。
それで地面をぴしゃりと叩く。
「ひいいぃぃぃぃっ!」
悪魔型には、本当は生け贄型というキモイアイテムがいいんだけど、そんなの持ってない。
大体のモンスターに、ほどよく利くのがムチ型だった。
「ゆ、許して……」
「殺されるよりいいでしょ?」
「お願いします、なんでもしますから……」
くっ、情に訴える目をしている。
モンスターなのに!
「駄目、許さない、レアモンスターはテイムする」
「変質者! サイコパス! クレイジーレズ!」
「なんでわたしがレズなのよ!」
許さない。
ほどほどに、情が消えていくのを感じた。
「食らえ!」
わたしはこの小悪魔を、テイム用のムチで叩いた。
「イタあああぁぁぁぁぁっっ!!」
どうだ!?
小悪魔が悲鳴を上げて痺れる。
そして……それはポンと煙になって、指輪が落ちた。
テイミング成功だ!
「やった!」
ダイフクとタマは特別な感じだったから、テイミングしたのはこれが初めてとなる。
指輪を回収して、装着すると、ペットの名前を決めて下さいとメッセージが出た。
うーん、どうしようかな。
生意気そうだったから、ヤキニクにしよう。
「ヤキニク、出ておいで」
すると、指輪からポンと音がして、小悪魔が出て来た。
「オレ様はヤキニクだ、ご主人様の戦いを手伝うぜ」
おおっ、ムチで叩いたことは忘れているらしい。
よきよき。
「オレを出していると、速度が上がるんだぜ」
「そうなんだ」
しゃべるペットは、ちょっといいかも知れない。
相談とか、会話とかはできるのかな?
「ヤキニクは時計塔の穴から出て来たの?」
「時計塔ってなんだ? 知らないな」
そうか、人間があそこをなんて呼んでるかなんてわからないよね。
でも、ある程度の会話はできるようだ。
「オレ達が出て来たのは、新しいダンジョンだ」
「新しいダンジョン!?」
「そうだ、地下から這い出てきたんだぜ」
「ええええっ!? じゃあ、あそこが新しいダンジョンになっているの!?」
これは重要な情報だった。
じゃあ、秘宝石はそこの入場券とかかな?
「…………」
というか、これはもしかして……。
今のうちにダンジョンに侵入して、ボスを倒すのがいいんじゃないだろうか?
イベントが終わったあとは、すぐに、強いプレイヤーがボスを倒してしまうだろうし。
「ポータルオン」
わたしは、取りあえずマイルームに戻った。
蒼天騎士団が突入する22時までは、まだ時間がある。
「よし」
ステルスマントは装備したままだ。
そして、時計塔にポータルした。
「ステルスマントオン」
辺りを見回すけれど、わたしに気が付いているモンスターはいないようだ。
撮影とかしてるプレイヤーもいないね。
ステルスしていると、モンスターは襲ってこない。
目で見ていないモンスターには利かないけど、今のところは大丈夫そうだった。
モンスターの間をそっとくぐり抜けて、時計塔の穴の中に入ってみる。
急な下り坂になっていた。
坂にモンスターはいない。
そして、その先には……光り輝くダンジョンがあった。
金貨とかが山盛りにこぼれていて、武器とか宝石とかもいっぱいだ。
中はかなり広いダンジョンっぽいけど、ボス部屋見つかるかな……。
通路の金貨を拾ってみると、それは砂になって散ってしまった。
ただのオブジェクトみたいだ。
それはそうか。
でも、通路で光っている採取品を見つけた。
拾ってみると、エメラルド5というものが見つかる。
これは、財宝系で高く売れそうだ。
「…………」
歩いているモンスターも、金のゴーレムとか、宝石のドラゴンとか、キラキラしたのばっかりだ。
ボーナスステージみたいなダンジョンなんだろう。
戦わないで、スルーしてるけど。
わたしは、ダンジョンを歩いて行った。




