第八十話 ランドマークの戦い
晩ご飯の時間ということで、一旦ログアウトすることになった。
エミリーは、また明日合流するとのことで、今日はさようならだ。
明日は土曜日なので、学校はお休みだから、夜もイベントを頑張れる。
優と名塚さんとご飯を食べてから、寮の部屋に帰った。
「はぁ~」
名塚さんは、蒼天騎士団の仕事もあるだろう。
イベント中でも、騎士団の名前を出したわけだしね。
「みんなでプレイしたりするのかな?」
わたしは、お風呂に入って、ちょっとゆっくりする。
儲けるとか出し抜くとか、殺伐とした青春だけど、これも立派な青春だ。
甲子園でも国立競技場でもなく、このフィールドが今のわたしの全て。
頑張ろう。
「さて」
イベントはどうなっているかと思って、スマホを覗いてみた。
時計塔からモンスターが沸き出している動画が、いくつか投稿されている。
その後、すぐ画面が途切れているから、死んだんだろう。
攻めに行く人とかも、いるかも知れない。
そして、蒼天騎士団が臨時騎士団員を募集していた。
どうやら、時計塔の制圧を目指すらしい。
今夜の22時に突撃のようだ。
ステルスマントで隠れて参加しようかな。
「うーん……」
それがいいか、目立たないし、でもイベントしたいし。
それにしても、この作戦は名塚さんが提案したんだろうか?
目立たないけど、リーダーシップというのはこういうことなんだろう。
わたしには、絶対にできないので、率直にすごいと思う。
ツベチューバーが何人か潜入撮影するようで、ライブ中継の予告を出していた。
うん、ステルスマント必須だね。
それまで、街の色々なところを見て回ろうと思う。
「ちょっと行ってみましょうかね」
お風呂を出てログインすると、ステルスマントを着けて出かける。
まずは、街外れにあるダンジョン前。
ここに入ることで全てが始まるんだけど、一々スタートから歩いて行くのは大変なので、慣れてくるとポータルで移動するようになる。
なので、ここから入ることは、もうあまりなくなっていた。
つまり、今ここにいるのは初心者ばかりのはずなんだけど、今日は誰もいなかった。
モンスターも、弱いのが少しいるだけだ。
「完全に初心者用ということだね」
運営も、そういう手心を加えてくれるのか。
次に、大聖堂に行ってみる。
神聖魔法を覚えられる場所で、そういう系の消耗品も売っている。
タダで毒を解除してくれたり、病気を治してもくれる。
強力な呪いなんかも、消耗品で直すのは大変なので、大聖堂に来る人はまぁまぁいた。
モンスターは……結構いる。
大聖堂の外では、かなり活発に戦いが行われていた。
どうやら、ここで戦って、大聖堂の中で無料で回復してもらえるから、人気の狩り場になっているようだ。
でも、そこは運営も考えているのか、経験値の高い、強いモンスターが少ない気がした。
「数をこなしたい人達用って感じかな?」
次は、城に行ってみる。
城は門が閉ざされて、兵士が一緒に戦ってくれる場所になっていた。
ソロとか、少人数パーティーの人が、やりやすいようになっているようだ。
城壁から、弓で援護射撃があったり、これはこれで良さそうだ。
「家の周りはどうなっているんだろう?」
マイルームにポータルして、部屋に帰ってきた。
「ただいま」
そして、ほとんど使っていない玄関から外に出てみた。
プレイヤーはみんな、同じような集合住宅からスタートする。
そこに、差はない。
お金を使いたい人は、一等地に家を建てたりも出来るけど、ポータル移動があるから、土地の値段が上がったりすることはないようだった。
外に出てみると、ちょろっとモンスターがいる。
弱い、初めの方のモンスターだ。
酒場の前が特殊で、強いモンスターのメインターゲットになっているようだった。
見たことのない、強いモンスターがたくさんいたし、プレイヤーも強い人が多かった気がする。
「……ん?」
視界の端に、何かがよぎった。
でも、そちらを見てみるが、何もいない。
「…………」
まさか……。
「<開眼の魔眼オン>」
わたしは、魔眼を発動させる。
すると、そこには……意地悪そうな顔をした、小悪魔っぽい小さなモンスターがいた。
「なんだこれ?」
開眼の魔眼がないと見えないのか。
他にも見る方法はありそうだけど……。
魔眼を発動させなくても、視界の端に映ったから、ずっと見えないわけでは無さそうだ。
「…………」
近くに寄ると、小悪魔は素早く逃げてしまう。
「あっ、待て!」
ウイングブーツのおかげで、速度3倍だ。
わたしはすぐに追いついて、行き止まりの壁に小悪魔を追い込んだ。




