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第七十二話 授業参観日


 ついに、授業参観日が来た。


 来てしまった。


 お母さんに連絡したら、来ると言っていたから来るだろう。


 来なくていいのに……。


 三時間目が終わり、休み時間になると、大人が教室に入ってくる。


 クラスメイトは、みんなソワソワしていた。


 嫌だもんなぁ……気持ちはわかるよ。


「砂緒ちゃんのお母さんは来られるの?」


 優はいつも通りの自然体だ。


 きっと美人で優しい、自慢のお母さんなんだろう。


 羨ましい。


「うん、来るって言ってた」


「病気なんでしょ? 大丈夫なの?」


 ちょっと心配そうにしている。


 そうか、優とエミリーにはそう言っているんだ。


「病気は心の方というか、身体は元気なんだよ」


「ふーん……?」


 良くわかっていないみたいだけど、相づちを打つ。


 すごくお金のかかる病気だって説明したようなものだから、こういう反応になるのも頷けた。


「優のお家の人は来るの?」


 家が近くだから来るだろう。


 それとも、忙しいパターンかな?


「お母さんが来るよ」


 やっぱりそうか、優のお母さんならすぐにわかりそうだ。


 そこに、やけに疲れた感じの猫背で、目にクマができている女性が教室に入ってきた。


 うあ……。


 相変わらず死にそうな見た目をしている。


 すると、その女性がわたしを見つけて手を振ってくる。


「おーい、砂緒~」


 わたしは、相手をせずに違う方を向く。


『おい、あれが一橋の親らしいぞ』


『割と意外かな?』


『フフフッ、目元が似てるね』


 くそーっ、恥ずかしい!


 周りから小声が聞こえてくる。


「あの人が砂緒ちゃんのお母さん!? すごく具合が悪そうだけど、大丈夫なの?」


 まぁ、パッと見た目病人だよね。


 一種の病気なんだけど、


「病気って言っても……考古学者なんだよ」


「お金いっぱい仕送りしてるって……」


「なんか、発掘調査とか研究とかがあって、お金が掛かるんだって」


「なぁんだぁ、良かったぁ、病気ってそういうことだったんだね」


 優が笑顔になる。


 わたしの親まで心配してくれるなんて、どこまで優しい子なんだ。


「具合が悪そうなのは基本的に寝てないからだよ、心配要らないから」


 そこに、一際美人が教室に入ってきた。


 背が高く、ボディラインもメリハリが利いている。


 わたしは、ピンと来た。


 似てないけど、こんな美人は優のお母さんに違いない。


「あれが優のお母さん?」


「う、うん、そうだよ。良くわかったね?」


 なんだか、少し恥ずかしそうだ。


 でもそれは、嬉し恥ずかしという感じで、わたしとは違う。


 でも、まぁ基本的に、みんな家の人を見られるのは嫌だよね。


 そこで、四時間目のチャイムが鳴った。


 担任の先生が教室に入ってくる。


「保護者の皆様、当学園では授業はVRを使って行っております。みなさまにもお配りいたしますので、装着されてみてください」


 副担任の先生がVRゴーグルを渡していくと、それを装着していった。


「それでは、四時間目のプログラムの授業を始めます」


 わたし達もゴーグルを付けて、仮想空間の教室に入っていく。


 仮想空間には黒板や机、椅子などはなく、自由な空間が広がっている。


「それでは、各自課題を出していたプログラムの発表をしてもらいます」


 発表は、席順で行われた。


 優が前にいるから、わたしはその直後になる。


「では次、小島優さん、お願いします」


「はい、私が作ったのは、リンネの花時計のプログラムです。どうぞ」


 花時計は知っているけれども、リンネの花時計ってなんだろう?


 VR空間に、大きな花時計が浮かび上がる。


 みんなが見えるように、先生の更に前にだ。


 緑だった葉っぱの部分に花が咲くと、色が変わって時間がわかる仕組みだ。


 分針とか秒針はない。


 それが、1分ほどで12時間回って発表は終わりとなった。


 教室のみんなが拍手をする。


「素晴らしいプログラムでした、では次、一橋さん」


「は、はい」


 わたしは立ち上がる。


「頑張れよ~、砂緒~!」


 保護者のアバターは用意されていないので、みんな影人間だ。


 でもお母さんらしき人が、わたしに声をかけてくる。


「お家の方は声をかけないでくださいね」


 クスクスと教室から笑い声が聞こえた。


 もう、死ぬ!


「え、えーと、音源を作って、それを鳴らすプログラムを作ってみました。曲は、遠き山に日は落ちてです」


 アコーディオンっぽい音で曲が鳴っていく。


 なんとなく、夕陽が落ちていく動画を撮影して組み合わせていた。


 切りのいいところで音楽が鳴り止むと、わたしは席に着いた。


「素晴らしいプログラムでした」


「さすがあの人の子供だ」


 お母さんが、ちょっと涙ぐんだ声を出す。


 もう! どうして声を出すの!


 先生も、もう注意はしない。


 そして、次の人の番になった。






「それでは、授業参観を終わりにしたいと思います」


 小学生までやっていた、起立、礼、着席というのはない。


 ゴーグルを外すと、先生と保護者が別の部屋に行くのが見えた。


 何か話があるんだろう。


 まぁ、今日は、午前中で授業が終わりだから良かった。


「よぉ、元気にやってるじゃねえか、仕送りも助かってるぜ」


 でも、その隙に、お母さんがわたしの席まで来て話し掛けてきた。


「わかったから、もう行って!」


「いいじゃねえか、久しぶりに会ったんだからよぉ」


 頭をくしゃくしゃしてくる。


 ふふふっ、と優が笑っていた。


 そして、お母さんは顔を近づけてくると、小声で話してくる。


「最近、家の周りに変なのがいる、心当たりはあるか?」


「あるよ、お父さん絡みだと思う」


「そっかー、知ってたのかー」


 大仰に仰け反って、そう言う。


 隠してたんだもんね。


「まぁ、今晩ゆっくり話そうぜ」


 そう言って、お母さんは教室を出て行った。


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