第七十一話 高級ガチャ券の旅
六月初旬の夜。
わたしは、レッドプレイヤーとの戦いには、あまり行っていなかった。
戦いそのものは、別に嫌じゃないんだけど……。
優は、夜に手伝ったりしているらしい。
わたしは、エミリーが行こうと言えば、放課後に手伝っているくらいだ。
なんか、あの組織っぽい空気が苦手で、わたしはちゃんと大人になれるのか不安だった。
でもまぁ、それはそれ。
学校には、ちゃんと通えているし。
今からそんなことを考えても仕方が無い。
「よしっ」
六月のランキングに向けて、高級ガチャ券を貯めておこうと考えていた。
いわば、高級ガチャ券の旅だ。
有望と思われた最終マップは、とにかく敵が出てこない。
落とすガチャ券も、デヴィルガチャ券だと☆12が出て面倒だ。
そういうことで、新しい世界の初めの街、ミクロリニアの砂漠を歩くことにした。
もちろん、ダイフクとタマのサポート付きだ。
「あっ、採取ポイントだ」
壊れている機械が放置されているんだけど、そこに採取ポイントがある。
拾ってみると、機械部品だった。
ここは、この機械部品を良く拾う気がする。
敵を倒したときも、これだった。
なんかあるんだろうか?
機械を作れるようになるとか?
ロボット? まさかね……。
「あっ」
敵が出てきた。
黒いタイツに上半身は裸の悪魔だ。
顔は人間じゃなくて、なんかの動物の顔が多い。
アークデーモンだ。
結構魔法が強いけど、あまり関係ない。
なぜなら、悪魔は基本的に一体で出て来るからだ。
二体までなら、ダイフクとタマの餌食だ。
「ぴゅいーっ!」
案の定、一撃で倒されている。
経験値は結構入っていた。
宝箱がドロップする。
罠を外して、中を開けると……そこには悪魔のカードという物が入っていた。
白い名刺みたいなカードだ。
前に最終マップで手に入れたカードは虹色だったから、これはレアじゃないんだろう。
何に使うかわからないけれど、一応取っておく。
次に出て来たのはロボットだ。
砂漠を三本の足でカニみたいに歩いている。
小さければかわいいんだろうけど、結構大きい。
でも、繰り返すけど、1匹でいるモンスターはカモだった。
「みゅううーー!」
今度は、タマが一撃で倒す。
経験値がたくさんはいる。
なんか、申し訳ないくらいに経験値が入っていた。
宝箱がドロップすると、中身は機械部品だった。
ネジTYPE-C。
これは、普通に売るだけの物なのかな?
なんかありそうな気がするけど……。
そんな感じで、一時間ほど狩りをしてみたけれども、ガチャ券は全く落ちなかった。
ここは、ガチャ券が落ちないマップなんだ。
「高級ガチャ券の旅は、続行しよう」
取りあえず、ミクロリニアの街に戻った。
手に入れた物を、NPCに売ってみる。
「これはこれは領主様、今日はどうされましたか」
「悪魔のカードを売りたいんだけど」
「ふむ? これは1イヤですな」
1イヤって1円だよ? 逆に怪しいでしょう。
これでも、レアっぽいアイテムらしい。
売るのをやめる。
「じゃあ、こっちの機械部品はどうかな?」
「領主様! これは、集めると飛行船を造る材料になりますぞ、それでも売っていただけますか?」
飛行船!?
恒星間宇宙船を造っている世界の飛行船か……。
ちょっと興味がある。
「どこで飛行船を造れるんですか?」
「アイン工房の親方で、ストロワという親父に聞くといいですぞ」
「ありがとう、これも売らないでおくよ」
この街の領主になると、解放されるクエストなんだろうか?
わたしは、その足でアイン工房に行ってみる。
「あーっ、飛行船が造りたいのに材料がない、どうすればいいんだ!」
「…………」
なんか、すごい昔のゲームみたいなセリフを言っているNPCがいた。
わかりやすいに越したことはないと思うけど、これは制作者の趣味なのか、マギウスの全力なのか……。
「親方、材料が少しだけあるんですけど……」
「おお、これは領主様! 材料があるんですかい?」
今まで集めていた材料を見せる。
全然足らないのはわかるけど……。
「では、これはお預かりしてもいいですかい?」
「あ、うん、飛行船を造るには、どれくらい材料がいるのかな?」
「ざっとこれくらいになりやす」
ものすごい量の材料が表示される。
「あー……」
これは、全体クエストだ。
一人でこなすクエストじゃない。
でも、これで海マップの乗り物解放かな?
このマップで機械部品を集めるんだろう。
経験値は高めに設定されていて、レベルは上げやすい。
落ちる物は、この機械部品と悪魔がレアドロップという感じかな。
まぁ、最下層と同じ物が落ちるんじゃ意味ないからね。
「じゃあ、また来ます」
「お待ちしておりやす」
高級ガチャ券は結局、最下層がいいみたいだ。
最下層にポータル移動する。
「さて、慣れ親しんだ最下層で頑張るぞ!」
わたしは、勢い込んで敵を漁っていった。
ここは、敵が強くてボスが出て来るけど、ドロップがとにかくいい。
お金を稼ぐなら、やっぱりここが安定のようだった。
そして、一時間後……。
「ちょっと渋くなってるかな?」
ガチャ券は、一時間探してエンペラーガチャ券が5枚とゴッドガチャ券が1枚だった。
これは調整されているかも知れない。
ゴッドガチャ券を使わずに貯めておいて良かった。
まぁ、一時間でエンペラーガチャが5枚って、実はすごいことなんだけど、感覚が麻痺してしまっている。
実物もいくつかドロップしたし、まとめて鑑定しよう。
「ずいぶんと微妙な調整をするんだね」
これからは、お金を貯めるのも運営に邪魔されそうだ。
ミクロリニアを活気づけて、税収が入るようにした方がいいのかな?
買い取り屋さんに相談してみようと思いながら、今日はログアウトした。
 




