第七十話 蒼天騎士団 ※
「そ、そうです、ボクは団長ではありません、一橋さんが団長です」
「えっ!?」
思わず声に出てしまう。
名前を貸すだけじゃないのか……。
「砂緒ちゃん、頑張って!」
優が耳元でささやく。
もう……。
「どいつだ? 名乗り出てくれ」
「一応……わたしです」
手を上げて、前の方に歩いて行く。
「なんだ、ガキじゃねえか、レッドプレイヤーなんて倒せるのかよ」
さすがは外国人、映画みたいだ。
お酒を注文しても、ミルクしか出てこない的な。
「そ、そこは、みんなで力を合わせてですね……」
名塚さんが説明をしようとしている。
でも、アンドレアさんは聞く耳を持たずに、シッシッと手を振った。
「俺が団長になる、文句がある奴はかかってこい、こういうのは、初めにやっておいた方がいい」
「おいおい、勝手なことをするな、俺はそこの子の誠実さに惹かれて入団したんだぞ?」
「男って、すぐにこうなるよねぇ」
当然、そんな勝手な話には反論が出る。
せっかく人が集まったのに、空中分解しそうだった。
「だ、大丈夫です! 一橋さんは、アリス学園で最強の人ですから!」
「えっ……」
みんなが一斉にわたしを見る。
コミュ障には辛い……。
「えっと……じゃあ、取りあえず戦いましょう」
「ほう、子供をいたぶる趣味はないんだがな」
そう言いながら、アンドレアさんがニヤッと笑う。
まるでレッドプレイヤーだ。
わたし達は、システム上でpvpを承認する。
これで、当該プレイヤーを攻撃してもリライアビリティが下がらない。
「わたしが勝ったら、名塚さんの言葉はわたしの言葉だと思ってください」
『おおぉ……』
また、ざわつく。
「いいぜ、かかってきな」
アンドレアさんは剣士だ。
胸にも足にも、投げナイフが抜けるようにセットされているから、サブ職業にスカウトを取っているかも知れない。
強奪を持っているのかな?
それなら、自警団に入るのも頷ける。
「どうした? 来ないのか?」
手に持った剣をゆらゆらとさせている。
pvpにも慣れていそうだ。
レベルはまぁまぁ、剣士が5レベルくらいだろうか?
装備は☆4と☆3の混合かな。
平均的に頑張っている人だと思う。
「なら、俺から行くぜ!」
素早い動作で、投げナイフを二本投げてきた。
でも、それはあらぬ方向に逸れていく。
見慣れた完全回避だ。
「ラック特化か? 珍しいな」
ステータスが見えないから、わたしにもわからないけど、初期の装備品にはステータスがいくつプラスされる的なことが書いてある。
その派生先の装備品には、似たような能力があると考えられていた。
だから、敏捷を上げたければ、そういう装備で固めることも可能だ。
鍛冶職人が作る装備は、ステータスのことが完全に書かれているけれど。
「倒しますけど、ここに戻ってきてくださいね」
「やってみろ!」
「<分身>」
「……っ!!」
わたしが二体になると、アンドレアさんが驚愕の表情を浮かべる。
でも、間髪入れずに、わたしは技を放った。
「<クアドラブルエアブレード>」
分身しての8×2連撃クリティカルだ。
悲鳴を上げる暇もなく、アンドレアさんはデータの藻屑と消えた。
『おおぉ……』
宝箱が落ちる。
アンドレアさんに回収してもらわないと。
「す、すごいです! 一橋さん!」
名塚さんが、わたしに抱きつく勢いで喜んでくる。
別に、女の子だからいいけど……。
「さぁ、ハヅキのリーダーに不満のある人は他にいないかナ?」
エミリーが仕切ってくれる。
ありがたい。
「不満じゃなくて、情報として聞きたいんだが、フェンサーだろう? レベルはいくつなんだ?」
「そ、そういうのは秘密です……」
詮索されるのは困る。
ジロジロみられるのも苦手だけど。
「レアリティの高そうな装備だから、固有スキルかも知れないぞ」
「分身は、ボス初討伐ボーナスかしらね?」
やっぱり、大勢の人の前で戦うものじゃないんだな。
ざわざわと、ざわついている。
「その腕なら申し分ない、俺はリッキーだ、リアルでは警察官をしている。よろしくな」
警察官!?
仕事終わりにゲームしてるの?
「よ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
名塚さんは、ニッコニコだ。
「俺は、ヤニック、小学校の教師だ」
「私はローザよ、薬剤師をしているわ」
みんなの自己紹介が始まった。
和やかな雰囲気になっている。
そこに、さっきの男が戻ってきた。
アンドレアさんだ。
なにか、不満そうにしている。
「どうしたんだ? 腕は確認済みだろう?」
小学校の先生のヤニックさんだ。
「チッ、で、名前は何にするんだ?」
「名前?」
「この騎士団の名前だよ」
騎士団! 自警団じゃないの!?
自称騎士団は、結構キツいと思うんだけど……。
「そうですね……正義の騎士団ですから、晴れ渡る空のような、蒼天騎士団を名乗りたいと思います!」
「いいんじゃないかしら?」
「蒼天騎士団、かっこいいな」
「俺はアンドレア、一応公務員だ。よろしくな」
悪手を求められた。
わたしは、その手を握り返す。
「よろしくお願いします」
「良かったね」
なぜか、優もニコニコとしていた。
「それじゃあ、レッドプレイヤーを倒しに行きましょう!」
「どこに行くのかナ?」
「ザルツ高原にたくさん出没するらしいです、手分けをして倒しましょう!」
ザルツ高原は、いい狩り場として有名だ。
敵が倒しやすく、経験値もまぁまぁで、ドロップが売れる。
そして、ザルツ高原で夜まで戦ったわたし達は、一日で有名になっていた。
レッドプレイヤーを晒すスレ
274、蒼天騎士団が偉い。
275、自警団が出来たのか。
276、レッドプレイヤーには困っていたからな、誰かがやりそうだとは思っていた。
277、俺も入団しようかな。
278、これって要するにギルドだろ?
279、システム的なサポートのないギルドだな。
280、マジかよ、砂緒ちゃんが団長か。
281、実質的な代表は別の子らしいぞ。
282、でも、レッドプレイヤーは、少なく見積もっても万はいるだろ。
283、無限に生き返るから、数が減ることもない。
284、もう後戻りできないから、レッドプレイヤーをやめることも出来ないしな。
285、散々好き勝手して、損だからやめるなんてゆるさん。
286、初犯なら、オレンジ色になるんだっけか。
287、初犯というか、リライアビリティの数値によってだな。
288、でもこれ、レッドプレイヤーの結束をうながさないか?
289、じゃあどうする? 被害を放っておくか?
290、運営は何してんだろうな。
291、犯罪プレイも自由度の一環なんだろ。
292、詐欺は許さない癖に、殺人はいいのか。
293、殺人というかpvpだからな。
294、pvpがしたいなら闘技場に行け。
295、詐欺はリアルマネーに直結するから、現実でも詐欺事件になるんよ。
296、ゲームで殺されても殺人罪にはならんからな。
297、俺も参加してみよう。
298、逆張りでレッドプレイヤーになるアホがいるんだろうなぁ。
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