第六十二話 宇宙船マップ
そろそろ月末のランキング発表が近づいてきた夜。
わたしは、リアルでもマフィンを焼くことが得意になっていた。
冷凍庫にたくさん作り置きがある。
そろそろ、違うお料理も覚えたいところだけど……それよりも、わたしは気になっていることがあった。
そう、ランキングだ。
別に、一位にこだわりはないけれども、アルバイト料の400万円は死守したいところだった。
この400万円があれば、仕送りに1600万円稼げればいい。
今思うと、お母さんはお父さんから資金援助されていたんだと思う。
自分では、全く稼げていないから、それ以外に考えられない。
おじいちゃんは、今も有名メーカーに勤めている技術者だけど、ママを甘やかさないから、投資はしてくれないと思う。
「さて、最下層のボスも倒したし、経験値もお金もちゃんとゲットしている」
放課後は、優やエミリーと狩りをしているし、夜はコツコツとソロプレイに勤しんでいた。
多分大丈夫だとは思うんだけど、それでも、ランキング一位にちょっと不安があるのは、ガチャをしていないことだった。
この前の、野々村先輩の話を聞くに、ガチャはしておいた方がいい。
ガチャでレアを当てるとランキングのポイントが入る。
この可能性は十分にあるはずだ。
やっておかない手はない。
「プレイ・スタート」
そういうことで、今夜は高級ガチャ券の旅に出ることにした。
狙いは新しい世界の最終マップ。
ダイフクとタマに頼り切りになってしまうだろうけど、ガチャ券をゲットするならここが一番いいだろうと思った。
装備は星海装備にしておく。
どうせ、わたしには倒せないだろうから、防御重視だ。
「ダイフク、タマ」
「ぴゅーい!」
「みゅうみゅうー!」
指輪から出て来た二匹は、喜び勇んでわたしにじゃれついてきた。
どれどれ、少し可愛がってやるか。
アイテムボックスから、海マップで買ったビーチボールを出す。
それを二匹に見せてから、ぽーんと投げた。
「ぴゅいーっ!」
「みゅーっ!」
一目散にボールに駆けていく二匹。
スピードのあるダイフクが追いつくと、それをわたしに打ち返してくる。
「タマー」
そして、今度はタマの方に、そのボールを打ち返す。
「みゅうーっ!」
すごい攻撃力を持っている二匹なのに、ボールは壊さないで打ち返してくる。
コントロールも抜群だった。
「<分身>!」
そこで、わたしは分身スキルを使って、二個のボールを同時に打った。
分身スキルは、装備しているアイテムも分身させられる。
使っているボールも、ちゃんと分身されていた。
「ぴゅいっ!」
「みゅうっ!」
見当違いの方向にボールが飛んでいくけれど、二匹はちゃんと協力して、一個ずつボールを打ち返してきた。
それを受け取って、ボールをしまう。
「よくできたねー」
「ぴゅーいっ!」
「みゅうみゅうーっ!」
ご褒美にわしゃわしゃしてあげる。
二匹は喜んでじゃれついてくるけれども、遊びはお終いだった。
「今日は、強いところに行くから、わたしを守ってね」
「ぴゅーい!」
「みゅうみゅうー!」
タマの部屋の方に歩いて行くと、扉を通って最終マップに行く。
そこは、前に見た通り宇宙船内の通路みたいなところだった。
壁が一部透明になっていて、外の宇宙の景色が見える。
「採取品も楽しみだなぁ」
ここはどんな物が取れるんだろうか?
通路を歩いて行くと、扉が見えた。
部屋になっているようだ。
「あれ?」
扉の前に立つけれども、開かない。
でも、ノブが付いているわけでもないし、どうやって開けるんだろう?
「この部屋は、鍵が閉まっているのかな?」
取りあえず、先に進んでみる。
敵は出てこない。
あまりエンカウントしないんだろうか?
「あれ?」
次の扉を見つけてみるけれど、そこにも鍵が掛かっていた。
「採取品も見つからない」
敵も出てこないし、部屋も開かない。
これは、もしかして未実装なのかな?
「キシャーッ!」
「うわっ!」
わたしのすぐ後ろに、敵がポップした。
はらわたを食い破る宇宙生物みたいな敵だ。
「出た! ダイフク! タマ!」
「ぴゅーい!」
「みゅうみゅうー!」
敵は五匹だ。
ダイフクとタマが一匹ずつ引きつけたけど、残りの三匹がわたしの方に来た。
ちょっと緊張する。
「キシャーッ!」
「おっと!」
口から、何か液体を吐き出してきた。
それを完全回避すると、べちゃっと床に落ちて、タイルが溶けていく。
酸? 防具とか溶けるのかな。
「ん? 待てよ」
これで扉を溶かせないかな?
わたしは、扉の前に立って攻撃を誘導する。
そして、残りの二匹が酸を吐いた来たところで完全回避した。
「よし!」
扉がじゅくじゅくと溶けていく。
その間に、ダイフクとタマが、二匹を倒してしまった。
そして、残った三匹に猛然と突進してくる。
わたしの相手は一匹か。
扉の前に上手く立って、同じように攻撃を誘導する。
「キシャーーーッ!」
それも完全回避で乗り切る。
完全回避十回は、あっという間に使い切ってしまいそうだった。
ダイフクとタマが、もう二匹を倒す。
そこで、敵はダイフクとタマを迎え撃つように振り返った。
もう誘導はできないか。
最後の一匹は、タマが仕留めた。
すんごい経験値が加算される。
「パワーレベリングだなぁ」
実力以上の狩り場で、誰かに助けて貰いながらのレベル上げだ。
そこに宝箱がドロップした。
「よしっ!」
罠を調べると、白色というわけのわからない罠だった。
でも、解除率は100%だ。
宝箱を開けると、鎧? とデビルガチャ券というのが入っていた。
「なにデビルガチャって」
調べるのはあとにして持っておいた。




