第六十一話 文化的衝突
街の中心部。
人通りの多い区画に、ものすごく巨大なコンビニが用意されていた。
ヴァーチャルだから、建設費がかからないのをいいことに、体育館みたいなコンビニになっている。
「いらっしゃいませー、ただいま全品無料で試食を行っておりまーす」
どうやら、中の商品は全て無料で、好きなだけ取っていけるらしい。
声かけをしている人も、社員の人か、雇われた芸能事務所の人とかなんだろう。
「あんまり、コンビニって感じがしないね」
「わたしの中では、業務用スーパーがこういうイメージなんだけど」
「そうなんだネ、まぁ、入ってみよウ!」
すっかり機嫌を直したエミリーが、率先して中に入っていく。
「わぁ……」
「結構人がいるね」
さすが、大きな施設を作っただけはある。
来客が多いと目算していたんだろう。
でも、日本人はあまりいなくて、外国の人が多いみたいだった。
「あっ! リサちゃんだ! リサちゃん!」
優が呼ぶ方を見てみると、そこにリサがいた。
ホットスナックコーナーで、ポテトフライを買っている。
コンビニは正直どうかと思うんだけど、ポテトフライは、その中でも究極にどうかと思う商品だった。
「エミリー、優と砂緒もお久しぶりです」
「こんなところで、どうしたの?」
「コンビニが評判になっていたから来てみたんですよ」
コンビニの良さは、ポテトには現れない気がするけど……。
「で、でも、どうしてポテトなの?」
「プーティンの方が美味しいに決まっていますが、念のために試食をしてみようと思いまして」
なんか、良くない波動を感じる。
さっきのエミリーに近い波動だ。
「プーティン?」
でも、怖いもの知らずの優は、ストレートに食いついていた。
「ポテトにチーズをかけて、美味しいグレイビーソースをかけた食べ物だヨ」
「へぇ、美味しそう」
優は素直に感心している。
カロリーが高そうだと思ってしまうのは、わたしが悪いのだろうか。
ゲームだから太らないけど、油ギッシュでキツい料理だと思ってしまう。
「イギリスにも、フィッシュアンドチップスがあるんでしょう? プーティンには及ばないでしょうけれど」
あ、これは駄目な奴だ。
エミリーとリサの両方から、黒い波動を感じる。
「フィッシュアンドチップスを食べたことがないのネ、かわいそうニ」
やれやれとエミリーが首を振る。
「イギリスの食べ物の方がかわいそうでしょっ! 世界で一番不味いと言われてるのにっ!」
「食べたことない人が、勝手に言っているだけだヨ! スコーンとかローストビーフとか美味しいでショ!」
「ローストビーフはイギリスの料理じゃないでしょ! あんな料理、元から、世界中に、いくらでもあったに違いないです!」
「「フーッ」」
ふたりが喧嘩している猫みたいに威嚇し合う。
ここは、仲裁に入らないと拙いだろう。
「ま、まぁまぁ、取りあえず、コンビニだから、わたし達がオススメするものを食べてみてよ」
「そ、そうだね、さすが砂緒ちゃんは良いこと言うね!」
優も乗って来てくれた。
「むーっ!」
割とマジで威嚇しあっている……。
日本人だと、こういうのはネタなんだけど、マジだ……。
「ゆ、優がふたりにお勧めするなら何?」
「な、なんだろう? お菓子は、日本に種類がいっぱいあるって言うよね」
「よし、じゃあお菓子コーナーに行ってみよう」
威嚇しあっているふたりの背中を押すようにして、お菓子コーナーに行く。
そこには、ものすごい大量の種類のお菓子が並んでた。
喧嘩しているエミリーとリサが、唖然としてしまうほどに。
「こ、これが日本のお菓子……?」
「か、カラフルですね……」
パッケージもかわいいんだろうか。
アメリカのお菓子とか、かわいい想像が出来ないけど。
「ピザポテチとか美味しいよね。ポテチにチーズが掛かってるの」
「プーティンと同じね」
またその話に戻る!
「そ、そ、そ、わたしはそうだなぁ! うまいん棒かなー!?」
「うまいん棒美味しいよねー!」
「色んな味があるから、二、三本選んで買ってもいいしね!」
「甘いのだと、生チョコとか好きかな?」
「そうだね、生キャラメルとかも美味しいよね!」
「そ、そうだ、海外にはコーヒーゼリーがないって本当なの?」
「……ないネ」
「ないです」
ちょっと落ち着いてきたみたいだ。
変な疲れ方をした。
「お菓子とドリンクを買って、どこかでおしゃべりしようよ」
「レモンコークとか珍しいって聞いた事あるよ」
「私は、プラム味が飲んでみたいです」
「プラム味?」
「梅干しだよ、きっと」
「ああ、梅がプラムなのかー」
「エミリーは?」
「緑茶だネ、濃いやツ」
渋いなぁ。
さすがサムライだ。
「クリームあんみつとか、カツサンドとか、日本ぽいものをいっぱい買って食べよう」
「きょ、今日のところは、それで許してさし上げます」
「カナダのお店がオープンしたら、紹介してね?」
「もちろんですよ、お父様に直談判しないと」
全部タダなので、袋いっぱいに品物を買うと、孤島に飛んで喫茶店で食べた。




