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第六十話 朝ワックの白いパン


 五月も終わりかけのある日。


 今日は冒険をしないで、優とエミリーとお茶をしていた。


「料理人で作ったバナナマフィンがあるんだけど、食べてくれる?」


「わーい! 砂緒ちゃんの手作りマフィン!」


 優には、前に少し話をしていたから覚えているだろう。


 エミリーも楽しそうにしている。


「砂緒は料理得意なノ?」


「うーん、将来の夢として、喫茶店経営が頭をよぎるくらいには」


「ほー、それは期待できそうだネ」


 わたしは、アイテムボックスからマフィンを取り出すと、ふたりの前に置いた。


「どうぞ、めしあがれ」


「美味しそうー」


「スナオちょっと待っテ? これがマフィン?」


 エミリーが驚いた顔をしている。


 何をそんなに驚いているんだろう?


 カップケーキみたいな、普通のマフィンだ。


「そうだけど……」


「違ウ! これはマフィンじゃなくてアメリカンマフィンだヨ!」


 また、面倒そうなことを言い始めた。


 アメリカンマフィンとマフィンは何が違うんだろうか。


「じゃ、じゃあアメリカンマフィンということで……」


「食べて美味しいかどうかが重要だよぉ、エミリーちゃんも食べてみよう?」


「むぅ……」


 ふたりが、はむっとマフィンを食べる。


 この二個は、ちょっと高級な素材で作った特別製だ。


 味に違いが出ているとは思うけど……。


「おいしいー!」


 優は、目から星が出そうなほど喜んでいる。


 こんなに喜ばれると、なんだか照れてしまいそうになる。


「そ、そう? 嬉しいな」


 料理を誰かに食べてもらうのは、親以外では初めてだと思う。


 でも……。


「美味しいけド、やっぱりこれはマフィンじゃなイ!」


「ご、ごめん……違いがわからなくて……」


「もう、エミリーちゃんは頑固さんなのかな? 美味しいならなんでもいいよ~」


 そこで、ふとわたしは思い出す。


 マフィンという名前の食べ物を。


「ああ、マフィンってアレだ、朝ワックで売っている白いパン」


 エミリーが、じとっとした目でわたしを見る。


 あれはあれで、違うんだろうか……。


 イギリスに朝ワックがないのかも知れないけど。


「ワックって言えばさ、今度ファーストフードとかコンビニとかが、VRに参入するんだって」


「へぇ、そうなんだ」


「メタバースの経済的価値は、マギウスの登場で跳ね上がっているんだヨ」


 もう諦めたのか、エミリーはアメリカンマフィンを食べながら、話をしてくれた。


 こういうVRゲームをメタバースと呼んだりもする。


 わたしにとってはゲームだけど、サラリーマンにとっては違うものに見えるのかも知れない。


「ワタシの本業の方のお話だネ」


 エミリーは、こういうのの専門家だった。


 ゲームばっかりしているわけではないんだろう。


「もう、コンビニのスリーセブンが参入してるって話なんだよね」


「どういうこと?」


「スリーセブンの食べ物を、完全再現して買えるようになってるらしいよ」


 それはすごい。


 お腹は膨れないけど、味は楽しめるから、需要はあるだろう。


 ゲームの中でも、コンビニに行きたい人が、どれくらいいるのか未知数だけど……。


「外国でも、参入の動きがあるネ、チェーン店は、いい販促になると考えているようだヨ」


「本物の味を、ゲームで再現するのって大変でしょ?」


「今はマギウスがあるからネ、実際に人が食べたときの脳波の動きと、細かい調整で味は再現できるんだヨ」


 そうなんだ。


 そのうち、授業でやるかも知れない。


「でも、コンビニとかワックとか、ゲームでまで食べたいのかな?」


「そうだよねぇ、どうせならもっと違うものを食べたいよー」


 優は、美味しいものを想像しているのか、ほっぺが落ちそうな顔をした。


 ここの喫茶店のケーキだって、相当に美味しい。


 どこかの現実の店に協力してもらっているのかも知れない。


「ワタシは、日本のコンビニご飯を食べてみたいヨ」


「そうなの? どこの国も変わらないと思うけど」


「そういえばさ、イギリスのお料理って、本当に美味しくないの?」


「…………」


 それは触れてはいけないところなんじゃないだろうか……。


 案の定、口元は笑っているのにエミリーの目が笑っていない。


「ユウ、それはジョークだよ、イングランドの料理が不味いはずないでショ?」


「へ、へぇ、そうなんだぁ」


 地雷を踏んだことに気が付いたのか、優が話題を逸らす。


「あっ、スリーセブンが試食会をやってるよ? 行ってみる?」


「い、いいね、行ってみようか」


 エミリーは、仕方が無いという顔で頷いた。


「ワタシも行きたイ」


「じゃあ、行ってみよう」


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