第五十九話 判明した事実
「ちなみに、調べたんだが、小島君はランキングが低かったね? プレイヤーとの取引はしていたかな?」
「……そういえば、知らない人との取引はあまりなかったと思います」
「一橋君は?」
「普通……だったと思います、特に多くも少なくも……」
ガチャ屋とかやったし、負け屋とかも利用したけど……。
多いと言えるほど取引はしていないと思う。
「その転売していた方は、そんなに取引をしていたんですか?」
「目に付いたものを片っ端から仕入れて、売っていたらしい」
「でも、所持金は同じくらいだったんですよねぇ?」
「そうなんだよ、ふたりとも儲かってはいなかった」
それなら、プレイヤーとの取引回数がポイントに影響していると考えるのも自然だ。
ただ、少し違和感を覚えるのは……。
「魔法付与って、かなり運要素が強いって聞きましたけど」
「そうだね、とんでもない一品が出来てしまう可能性もあるし、元手の2割くらいの失敗品もザラに出来てしまう」
まさにギャンブルな生産職だと。
それなら……。
「それと同じくらいの儲けしかなかったというのは、転売の方がおかしくないですか?」
野々村先輩が考える。
二人とも成功していたならわかるけど、ふたりとも、あまり所持金はなかったらしい。
「そうだね、単に転売が下手だとしか思っていなかったが、魔法付与と転売が同じ利益というのもおかしな話かな?」
「でも、ふたりは共同で計算式を探そうとしていた」
「腑に落ちないかね?」
「転売の方なんですが……実は儲かっていたということはないんでしょうか?」
「いや、お互いのステータスを見比べたという話だから、無いとは思うが」
なんか、ちょっとわかってきた気がする。
そして、どうして野々村先輩がわたし達にこの話を持ってきたのかも。
「先輩、もう目星が付いているんですね?」
「え? そうなの!?」
優が驚いている。
野々村先輩は、涼しい顔だ。
「いや、所持金だけで100位以上差が付くということは、余程の差があったということだ。それを隠してはおけないだろう」
「そうじゃありません、先輩は、わたしのことを調べましたね?」
そう言われて、フッとやわらかな笑みを浮かべる。
美人なのに、堅い印象が強くて損をしている感じだ。
今みたいに、もっと自然に笑えばいいのに。
「ははは、かなわないな、つまり、そういうことなのかな?」
「え? なになに、わかんないよ、砂緒ちゃん!」
同じ条件なら、ランキングにそれ程大きな差は付かないはずだ。
つまり、100位以上も差が付く特別なことをしていたということだ。
わたしと同じ事を。
「ちょっと恥ずかしくて、言い難いんだけど……」
「大丈夫だよ、誰にも話さないから」
「私も、ここだけの話にしておくと誓おう」
嘘っぽい。
「情報を流して儲けようとしてるんでしょう?」
「まぁ、君だと言うことはわからないようにするよ」
全然、ここだけの話になってない。
「実は、わたしは、ガチャでレアをかなり当てているんです」
「ほう」
「それと、これが関係あるの?」
優は不思議そうだ。
「そのことを、野々村先輩はどこかで調べて知っていたんだよ」
「えー、それじゃわからないよ」
「だから、転売の方は、儲けたお金でガチャをやっていたんだって」
まだ、優は不思議そうな顔をしている。
あまりピンと来ていないようだ。
「ガチャをして、出たアイテムを売って、またガチャをやった。所持金に余裕が出来たら、またガチャをやった。そうやって、延々とガチャをやっていたんじゃないかな」
「それじゃあ、本当は儲かっていたのに、全部ガチャで使ってしまったと言うこと?」
「そう、でも、それは無駄じゃなかった。ガチャをすることが、ランキングのポイントになっていたんだよ」
先輩は、うんうんと頷いている。
わたしが、本当にガチャをたくさんやっていたか、それを確認に来たということだ。
「そうだねー、砂緒ちゃんの加護はガチャ運向上だもんね」
「それはレアな加護だね」
それも、調べてありそうな顔だった。
永遠の風のメンバーなら、みんな知っていることだったし、ガチャ屋もやったし。
「ガチャを回してレアを当てると、ランキングのポイントが上がる。ちょっと裏を取ってみるよ、ありがとう」
「裏を取るって、どうするんですか?」
「もちろん、本人に聞いてみるんだよ、ただ、情報料を取られるからね、確信が欲しかった」
既に、少なくない情報料を要求されたんだろうか?
転売の方には、それとわからないように、ガチャをしていたのか聞くんだろう。
翌日、野々村先輩から優に連絡があった。
転売の方は、かなりガチャをやっていたらしい。
情報料を払うので、このことは秘密にしておいて欲しいとのことだった。
「儲かっちゃったね」
優が笑っている。
商人らしくなってきたんじゃないだろうか。
そういえば、最近ノーマルガチャしか回してない。
高級ガチャ券をゲットしにいかなくちゃね。
わたしは、そう考えていた。
 




